まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「シーズン・イン・ザ・サン」TUBE(1986)

 おはようございます。

 どんどん冬に向かっているこの時期に、季節外れですみません!今日はTUBEの「シーズン・イン・ザ・サン」です。

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 日本のポップス史を語るのに、やっぱりビーイングは避けて通れないですよね。しかし、その総師である長戸大幸に関する情報は本当に少ないです。まだ地味な街だった代官山の不動産をたくさん持って、彼がおしゃれな街に開発していったなんていう話も聞いたこともあります。一体何者なんでしょうね?

 

 1980年代を代表する作詞家の売野雅勇の自伝「砂の果実」に興味深いエピソードがあります。

 チェッカーズの「涙のリクエスト」がTV「ザ・ベストテン」で1位になると同時くらいに、長戸から売野に取材してほしい電話がかかってきて、ホテルで「涙のリクエスト」の歌詞が作られたプロセスを細かく訊かれ、撮影までされたというのです。

 そして、別れ際に長門は売野に

「ぼくは、誰よりも、この歌を知っているんだよ。作者よりもね」

           (売野雅勇「砂の果実)

 と言ったそうですから、その自信ちょっと怖いくらいですね。でもそう言い切れるくらいに、徹底的に分析したのでしょう。

 

 その取材の用途はなんだったのかは「砂の果実」には書いてありませんでしたが、映像は記録用だと長門は語っていたそうなので、たぶんヒット曲の取材動画を自身でアーカイヴしていたんじゃないかと僕は想像しました。

 

 売野は、チェッカーズを「一番冷静に、分析的に、そして貪欲に、観察していた”のは長戸だったと言っています。

 「いまから振り返ってみると、長戸さんは、必死で第二の、第三のチェッカーズを作ろうと、研究を続けていたのではないかと思う」

 

 チェッカーズに限らず、彼は、日本で一番ヒット曲を研究し分析していた人だったんじゃないか、と思います。そして、そうやって蓄積させた”ヒットのセオリー”を体系化して一気に実践していったのがビーイングだった、ぼくはそう捉えています。

 

 さて「昭和歌謡職業作家ガイド」という本に、彼の簡単なプロフィールが紹介されていました。

  彼のキャリアのスタートはアーティストで、1972年に「赤と黒」という3人組フォーク・グループのボーカル、ソングライターとしてデビューしています。

 発売したのはブラック・レコードといって、いずみたくがオーガナイズし、アートワークは全て和田誠が手がけるという、かなりコンセプチュアルなレーベルだったようです。長戸は”ゴロー&長戸大幸”というユニット名でもリリースしていたようで、赤と黒とともに曲はサブスクで聴くことができます。

 

 その後彼は音楽をやめ京都でブティックをやっていたそうですが、吉田拓郎の「こうきしん'73」という曲に衝撃を受け、全てを捨てて東京に向かったそうです。

 

  吉田拓郎に会いたくて、彼が起こしたフォーライフ・レコードの第一回新人オーディションに、拓郎の物真似の曲で応募したところ、面白がられて最終に残り、いきなりリリースが決まったが直前で取りやめたことがあったとのちに彼は語っています。(それから、少しして、デビューしたのが原田真二でした)

 

 しかし、それがどんなものだったのかはわかりませんが、”物真似”でオーディションで勝つというのは、並大抵のものじゃないですね。誰よりも”吉田拓郎”の本質を分析しつかんでいたはずです。すでに、ここで彼の特質が発揮されていたということじゃないでしょうか。

 

 そして、彼はその頃から作曲家へシフトし、最初期の作品と言われているのが、関西の名ドラマー、井上茂率いるフュージョン・バンド”シーチャン・ブラザーズ”の「愛の翼」と「ソニック・ブーム」。インストなんですね。「世界の空軍」という映画のために書かれたもののようです。

 「ソニック・ブーム」のイントロがボズ・スキャッグス「ロウ・ダウン」タッチなのに、ニヤッとしてしまいます。

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 これとだいたい同じ時期に舘ひろしに「朝まで踊ろう」という曲を書いています。

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 1980年に長戸が作曲してヒットした三原順子「セクシー・ナイト」は女性版「朝まで踊ろう」とも呼べるもので、舘ひろし三原じゅん子、その後手がけた沖田浩之も含めて、”不良歌謡ロック”ともいうべきスタイルが彼の初期の十八番のひとつだったようです。

 この流れは1990年代に、相川七瀬によってアップデートされることになります。

 

 もう一つ、彼の初期の音楽の柱となったのがディスコでした。

スピニッヂ・パワー”という国籍不明の匿名ディスコ・グループを組み、漫画「ポパイ」のテーマソングをディスコ・アレンジした「ポパイ・ザ・セーラーマン」がオリコン21位のヒットになります。

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 スピニッヂ・パワーはその後、織田哲郎が2代目ボーカル兼ソングライターとして参加、7枚目になる最後のシングル「HOT SUMMER RAIN」ではBOØWY結成前の氷室京介がボーカルを務め、サウンドもディスコじゃなく歌謡ロックのスタイルになっています。

 それから、彼はダニー・ロングというペンネームでも活動し、1981年にはこの曲がテレビで話題になりました。

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  1984年には、当時全く曲が書けなくなった井上陽水が、知人を介して紹介してもらったのが長戸で、彼に書いてもらったのが「悲しき恋人」という曲でした。長戸は”パインジュースの缶”というペンネームになっています。

 陽水っぽさと、売れ線の歌謡感のバランスが絶妙にとれていて、分析、研究から曲を生み出す長戸の才能がはっきりと現れている曲です。

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 そして、1985年に長戸が世に送り出したのがTUBEでした。

 ここで僕は気づきました。売野が推測していた、長戸が作ろうとしていた”第二の、第三のチェッカーズ”とはTUBEだったのか、と。

 当時僕は、いや僕に限らず世間も大半はきっと、当初TUBEを、”サザンの二番煎じ”(すみません!)としてとらえていたんじゃないかと思いますが、そうじゃなくて、彼らの本質は”ポスト・チェッカーズ”というべきボーイ・バンドで、チェッカーズとの違いを出すために”夏”のイメージを打ち出したんじゃないでしょうか。

 確かにTUBEの最初の2枚のシングル「ベストセラー・サマー」と「センチメンタルに首ったけ」は”オールディーズ歌謡”という雰囲気で、チェッカーズとの共通点も感じます。

 しかし、その印象をガラッと変えたのが次の「シーズン・イン・ザ・サン」でした。

 

 このときにビールのCMのタイアップが決まっていて、すでに撮影された映像に合わせて曲を作ることになっていたそうです。

 長戸が作曲を依頼したのは、織田哲郎でした。

 当時のディレクターはこう回想しています。

「長戸さんと織田さんのすごいところは、映像からイメージされる曲を考えるのではなく、映像に出てくる女性の動きに合わせた曲にしようと考え、彼女の口の動きからテンポを割り出したことです。テンポとリズム感がどうも16ビートのようだから、それで曲を作っていこうということになりました」

          (「J・POP名曲事典300曲」富澤一誠

 

 また長戸本人はこう語っています。

「同じ音楽もやっぱり「頭上がりサビ下がり」「頭上がりサビ上がり」「頭下がりサビ下がり」とか、だいたい5年に1回、変わるんですよ。例えば、「あー、わたしの恋は~♪」って上がりメロディでヒットしていた松田聖子が2年半後くらいには、「風立ちぬ~、今はもう秋♪」って下がるんですよね。大半の人は、上がり流行りをそのままやっているんで、2年半後には落ちるんです」

 

「TUBEを作った時、チェッカーズの「涙のリクエスト~、最後のリクエスト~♪」ってだんだん上がっていっていたのに合わせて「ベストセラー・サマー」ってやったんだけど、ちょっと遅かった。それで「よし、下がりメロディだ」っていうことで、織田哲郎と作ったのが「ストップ・ザ・シーズン・イン・ザ・サ~ン、心潤してくれ~♪」

(フェイス25周年記念webサイトスペシャル対談企画 長戸大幸×平澤創)

 

 TUBEのデビューは、やっぱりチェッカーズを参考にしていたんですね。そして、リズムもメロディもかなり考えられて作られていたのです。

 

 この曲はTUBEの大ヒット曲だけじゃなく、90年代のビーイング・ブームの立役者、織田哲郎にとっても初めてのヒットでもありました。

 

 シンガーとして声量のある織田が作ったダイナミックなメロディと、やはり声量のある前田の歌声がすごくマッチしていたというのも、この曲を聴いて僕が感じるところです。

 

 最後は織田哲郎自身のボーカルで。渚のオールスターズ1988年リリースの『Nagisa no Cassette VOL.2』に収録されていました。

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