まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「midnight drivin'」葛谷葉子(2021)

 おはようございます。

 今日は葛谷葉子の「midnight drivin'」です。

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        このまま どこまでも midnight drivin’ 

  煩わしい あれもこれも 忘れて

  このまま 時が止まればなんて 思ってる らしくもない

 

  都会抜け出せば 心にも starry night

  君を奪う どんな時間さえも  all to myself

  追い越したいなら 今日は 道譲るわ You’re here with me

 

  役は増えてゆくばかり 一生 stay in role  

  今がすべてなら 飛び込んでみたい great risk                                                     

  シートに埋もれて 夜に溶けてゆく 一秒 惜しんで

 

  Take me far away Take me far away Oh..

  誰もいない 何もいらない

  Tell me you love me Tell me you love me Oh..

  朝が起きてしまう前に..

 

 *このまま どこまでも midnight drivin’

  煩わしい あれもこれも 忘れて

  このまま 時が止まればなんて 思ってる らしくもない

  君となら どこまでも midnight  drivin’

  月の裏側までだって 行けそうで

  一緒なら 怖いものなんてない

  2人だけの midnight drivin’

 

  独りよがり 恥じたら 愛に Sublimate 

  悲劇を 喜劇に変えれたら No bad

  目が眩むくらい 熱を帯びてゆく 肌を さらって

   

  Take me far away Take me far away Oh..

  あと少し もう少しだけ

  Tell me you love me Tell me you love me Oh..

  夜が目を閉じる前に.. 

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 葛谷葉子は1999年にEPICレコードからデビューしたシンガー・ソングライター。この時期はMISIA宇多田ヒカル、Double、嶋野百恵など女性R&Bシンガーが一気に世に出てきた時期で、彼女もその一人にあたりますが、他の多くがファッションも含めて海外のR&Bシンガーになりきったようなイメージを打ち出す中、彼女の場合はシンガー・ソングライター的な佇まいが強かった、というのが特徴だったと思います。

 

 彼女は13歳の時に久保田利伸のライヴを見て衝撃を受けて以来、彼の楽曲や彼がラジオで紹介する海外のR&Bを聴きながら、自己流で曲作りを始めたといいます。

 

 音楽出版社送ったデモテープが認められ上京、EPICレコードからデビューが決まると、レコード会社がプロデューサーで抜擢したのが松尾潔さんでした。

 

 彼は元々R&Bの気鋭のライターとして注目された人で、僕はレコード会社の洋楽部でR&Bを担当していたときに、ライナーノーツを書いてもらったり、ベイビーフェイスの取材で一緒にロンドンにも行きました。日本の洋楽といえは何と言ってもロックで、それまでR&Bは辺境のジャンルでしたから(笑)、若くて筆も弁舌もどちらにも秀でている彼の登場は、R&Bがそれまでの枠を超えて広い層にアピールすることに繋がったと思います。

 彼女も高校時代に彼がライナーを書いたR&BのCDをよく買っていたそうです。

 

 そんな彼が邦楽も手がけるというので、当時彼女の曲もチェックしました。R&Bなんですが、しっかり日本の恋愛の情緒感も入っている、だけどベタじゃない、すごくいいバランスの曲だなとびっくりしました。

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 ソングライターとしてだけではなく、彼女はシンガーとしても個性的で、僕が感心するのが「母音」の発声です。歌の中で時おり個性的な母音の発声をするんですね、特に「エ」の響かせかた、それがニュアンスになっています。

 考えてみれば、日本語で歌うということは、「あいうえお」の5つの母音をどう響かせるかということが実はとても重要なのかもしれません。

 

 そして、近年シティポップシーンで人気なのが、三枚目のシングル「サイドシート 」(2000年)。鷺巣詩郎さんがアレンジしています。「エヴァンゲリオン」や「シン・ゴジラ」などで知られていますが、この時期はMISIA平井堅などR&Bの作品を多く手がけていました。最近ラジオでこの曲を聴いたのですが、ストリングスとホーンのサウンド、音質が、他の日本のポップスと全然違っていてあらためてびっくりしました。ロンドン・レコーディングなんですね。

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 二枚のアルバムを残して契約が終わり、彼女は作家業にシフトしていきます。この当時の日本のR&Bは、ファッションやクラブシーンとも密接に繋がっていて、その要素が弱い彼女には不利だったのかなとも今となっては思います。

 

 

 そして、彼女がレコード会社ともマネージメントとも契約が終わった時期に僕は知り合いました。僕はレコード会社を辞め、知り合いのラジオの制作会社に勤め始めたのですが、同じタイミングで彼女と彼女のマネージャーがそこに所属することになったのです。

 僕は彼女が中島美嘉に「True Eyes」という曲を提供する仲介をしたり、僕が会う前にもう決まっていたあるCMの仕事の現場に立ち会ったりしました。

 それが、関東圏に住む方にはおなじみのこの曲です。

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 その後、彼女はあらたに作家事務所に所属して、本格的にヒット作家として倖田來未BoAなどたくさんのアーティストに楽曲を提供していきます。

(私事ですが、僕は彼女のマネージャーだった方と結婚しました)

 

 そして今年のはじめ、彼女が十数年ぶりに歌手活動を再開させるために作ったデモを送ってきてくれました。質の高い曲が多くあって その中にこの「midnight drivin'」も入っていました。

 数年前に作家として他のアーティストのために書いた採用されなかった曲がベースになっていて、サビだけを残し、Aメロ、Bメロを新たに書き直したものなのだそうです。

 

 この曲を聴いて、シティポップというワードが頭に浮かびました。ここ数年シティポップ・シーンで彼女の「サイドシート 」が人気だということもありました。これは、今まさに世の中に出すタイミングなんじゃないかと思いました。

 

 女性ヴォーカルのポップスやシティポップに大変造詣の深いソニー・ミュージックのディレクターの方にデモを聴いていただき、新しいベスト盤を編成してもらえることになりました。

 

 そして、新曲の制作にあたって、彼女のデビュー前にずっとデモ作りを手伝っていただいたプロデューサー、アレンジャーのURUさんにサウンドをお願いしようということになりました。そして、URUさんは彼女がこの曲のデモにこめたイメージを丁寧に汲み取りながら、とてもグルーヴィなサウンドに仕上げてくださいました。

 

 それに加えて、インドネシアの音楽シーンとも頻繁に交流しているURUさんの知り合いだということで、僕の好きなIkkubaruのリーダー、ムハンマド・イクバルさんにギターを弾いてもらうという嬉しい出来事もありました。

 

 もう1曲の新曲「Honey」ではアシッド・ジャズを今風に解釈したようなサウンドを作ってもらいました。

 

 そして、めでたく”16年ぶりの”新曲が入った”11年ぶりの”ベストアルバム「MIDNIGHT DRIVIN'-KUZUYA YOKO MUSIC GREETINGS 1999~2021-」がリリースされましたが、かつてのファンの方や媒体の方々から反響は想像以上のものでした。

 そして、彼女の音楽は当時よりかえって今の方がしっくりくるんじゃないかとおっしゃる方がけっこういらっしゃいました。

 シティポップといっても、時代によって”ツボ”が違っていて、20年前くらいのブームの時は70年代のはっぴぃえんど〜ティン・パン・アレイ系が大きな指標でしたが、今は80年代以降のものがメインで、しかもJ-R&Bともリンクし始めていたので、彼女がシティポップにことさら寄せる必要もなく、今回の新曲のような彼女が本来得意とするスタイルで全然大丈夫だったようです。

 

 彼女の曲はやはりメロディが強いと思います。先日のインタビューで、曲作りは昔から一貫してサビから作り始めて、納得できるサビができたものだけ完成させる、と語っていました。 

 

 今の若いアーティストはそういうスタイルはもうとっていないかな、という気がします。巷に流れている曲を聴くと、みんな歌詞とサウンドにばかりにエネルギーを注いでいるように思います。

 もちろん、ポップスのメロディのパターンはもう出尽くした、という話も何十年前からあって、僕もその通りだと思いますが、じゃあ、そこにかける労力を軽くしてもいいものなのかな?とも思ってしまいます。

 メロディにしかできない、歌詞や、サウンドではできない、心への働きかけ、効力、みたいなものが間違いなくあると僕は思うからです。

 

 さて、最後は、彼女のファーストから、時間がたてばたつほどすごさがわかる鷺巣詩郎さんのアレンジによる、見事なメロウ・チューン「ALL NIGHT」を。

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