まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「アメリカン・モーニング(Just When I Needed You Most)」ランディ・ヴァンウォーマー (1979)

 おはようございます。

 今日はランディ・ヴァンウォーマーの「アメリカン・モーニング」です。

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You packed in the morning
I stared out the window
And I struggled for something to say
You left in the rain without closing the door
I didn't stand in your way

But I miss you more
Than I missed you before
And now where I'll find comfort
God knows
'Cause you left me
Just when I needed you most

Now most every morning
I stare out the window
And I think about where you might be
I've written you letters that I'd like to send
If you would just send one to me

'Cause I need you more
Than I needed before
And now where I'll find comfort
God knows
'Cause you left me
Just when I needed you most

 

You packed in the morning
I stared out the window
And I struggled for something to say
You left in the rain without closing the door
I didn't stand in your way


Now I love you more
Than I loved you before
And now where I'll find comfort
God knows
'Cause you left me
Just when I needed you most
Oh yea you left me
Just when I needed you most

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朝になって、君は荷物をまとめた

僕は窓の外を見ていた

そして、何か言葉を探していた

君はドアも閉めずに 雨の中を出て行った

僕は引き止めはしなかった

 

だけど、前よりずっと君が恋しいよ

今は僕がどこに慰めを見つけたらいいのか

誰にもわからない

だって、君は僕が一番必要な時に出て行ってしまったから

ほとんど毎朝

僕は窓の外を見ている

そして君はどこにいるのか考える

送りたい手紙も書き溜めている

もし君が一通でも僕に送ってくれたなら

 

だって、前よりずっと君が恋しい

今は僕がどこに慰めを見つけたらいいのか

誰にもわからない

それは、君は僕が一番必要な時に出て行ってしまったから

 

朝になって、君は荷物をまとめた

僕は窓の外を見ていた

そして、何か言葉を探していた

君はドアも閉めずに 雨の中出て行った

僕は引き止めなかった

 

今は、前よりずっと君を愛している

そして、僕はどこに慰めを見つけたらいいのか

誰にもわからない

それは、君は僕が一番必要な時に出て行ってしまったから

君は僕が一番必要な時に出て行ってしまったんだ

                      (拙訳)

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 失恋の痛手からいっこうに立ち直れない男の悲しい歌ですが、曲調と「アメリカン・モーニング」という邦題から、”爽やかで穏やかな朝の歌”として日本では認知され、そういうイメージのTVCM(スクーター)にも使われたこともあって、定着していきました。

 (本来の歌の内容とは違うニュアンスで伝わりヒットするというのは、日本の洋楽ではよくあって、それがまた面白さでもあるかもなあ、と個人的には思います。)

 

「君がいない朝」なんて邦題だったら、日本ではもうちょっと地味なヒットで終わった可能性もあるんじゃないでしょうか(日本人好みの曲調なのでヒットしたのは間違いないでしょうけど)。

 

 それにしても「アメリカン・モーニング」。”モーニング”は実際歌詞に出て来るのでわかるのですが、なぜ、”アメリカン”だったのでしょうか。

 ネットで検索しても答えが見つからなかったので、ここは僕が勝手に推理させていただきました。

 

 「アメリカン・モーニング」がアメリカでヒットしていたのが1979年6月で、ちょうど同じ頃日本でヒットし始めたのがこの曲でした。

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 「アメリカン・モーニング」の当時の日本発売日は契約問題でアメリカのヒットよりかなり遅れたらしいので、邦題を考えたタイミングがちょうどアメリカン・フィーリング」のヒットと重なっていたんじゃないかと。”なんとかモーニング”ってタイトルにしようと思っている時に、すっぽりハマったと。あくまで推測ですが、、。

 

 そして、この頃は”アメリカン・コーヒー”がカッコよかった時代ですね。学生の頃、喫茶店ではじめて「アメリカン」とオーダーした時にちょっと誇らしい気分になったことを今でもおぼえています(恥ずかしい、、、)。

 

 ちなみに、杏里は1982年に「思いきりアメリカン」って曲を出していますが、彼女がプロモーションでおとずれた大阪の放送局で出されたコーヒーがものすごく薄かったことからつけられた、なんてエピソードがあるそうです(まさかこの曲のタイトルが「思いきり薄いコーヒー」って意味だったとは、、、)。

 

 <*追記 当時の日本のレコード会社の担当者の”当時、アメリカン・コーヒーが日本で流行し出した時期だった、というのもあってそれを付けました”(AOR AGE Vol.21)という証言が見つかりました。   2021年7月21日>

 

 

  さて、話をランディ・ヴァンウォーマー本人に戻します。彼はアメリカ・コロラド州に生まれる。父親を交通事故で亡くした彼は 15歳のときに母とともにイギリス・コーンウォールに移住します。そこでの経験が彼が18歳の時に書いた「アメリカン・モーニング」のインスピレーションとなったと言われています。

 

 アメリカに戻りニューヨーク州ウッドストックに拠点を置いた彼は、地元のベアズヴィル・レコードと契約します。ベアズヴィルはボブ・ディランのマナージャー、アルバートグロスマンが作ったレーベルで、トッド・ラングレンがハウス・プロデューサーを務めていました。

 

  彼のプロデュースを担当したデル・ニューマンはエルトン・ジョンのアルバム「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」にアレンジャーとして参加したり、先日このブログで紹介したウィングスの「007死ぬのは奴らだ」のオーケストラの指揮などをやっていた人です。

 

 そしてこの「アメリカン・モーニング」は彼の二枚目のシングルとして発売され、全米最高4位の大ヒットになっています。

 彼はこの曲のヒットの理由の一つとして、間奏に出て来る”オートハープ”をあげていますが、弾いているのはなんと、ラヴィン・スプーンフルジョン・セバスチャンです。ちなみにオートハープってこんな楽器です。ジョン自身が弾いている動画がありました。

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(ちなみに、彼は1983年リリースの4枚目のアルバム「The Things That You Dream (邦題「夢見る頃」)」 でラヴィン・スプーンフルの「魔法を信じるかい」をカバーしています。)

 

 「アメリカン・モーニング」の次に「コール・ミー」という曲をシングルにしましたが残念ながらチャートインせず不発に終わってしまいます(個人的に好きな曲でしたが)。

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 彼が得意とする素朴なアコースティック・サウンドは1980年代に入ると一気に衰退し、シンセ・サウンドに主導権を握られてしまいます。彼もメロウな作風はおさえて、打ち込みの80年代サウンドにアプローチしながら作品をリリースし続けましたが、ヒットを生み出すことはできませんでした。彼本来の持ち味とフィットしなかったのかもしれません。

 

 彼の楽曲でオークリッジ・ボーイズやアラバマといったアーティストがカントリー・チャートでNO.1を獲得したことからも、彼の特性がわかるように思います。それと、ランディ自身が、カントリー・ミュージックのメッカの一つであるコロラド州で生まれ育っているので、もともと体に染み込んでいたのかもしれません。

 

 その後、彼は数こそ少ないですが作品をリリースし続け、日本のみ、もしくは日本先行発売のものも多くありました。”AOR大国”日本のファンの人たちは根強く彼を応援し続けたんですね。

 残念なことに、彼は2004年に白血病のため他界しています。まだ48歳でした。彼の遺作は「アメリカ音楽の父」スティーヴン・フォスターの作品集でした。彼はすべての楽器を自分で演奏していたそうです。

 

 「アメリカン・モーニング」はあるサイトによると、カバー・ヴァージョンが75もあるらしく、<スタンダード>と呼んでも差し支えないのかもしれませんね。

 当初はR&Bのミリー・ジャクソン、レゲエのバーバラ・ジョーンズなんて意外で面白いカバーもありましたが、この曲本来のテイストを生かしたカントリー・シンガーが数多く歌うようになりました。

 

 アメリカン・モーニング」は日本では”AOR一発屋ヒット”ですが、アメリカでは

カントリーのスタンダードになっていたのです。

 

 カントリーですから、ある意味まさに”アメリカン”な曲になったという、、、(別にオチをつけようという意図はないですw)。

 

 カントリー界の超大物ドリー・パートンもこの曲のカバーをやっていて、間奏のオートハープを再び、ジョン・セバスチャンが演奏しています。

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 最後はランディ本人の1990年のライヴ。やはりオリジナルよりカントリー寄りのアレンジになっています。

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アメリカン・モーニング」「コール・ミー」が収録されたAORの定番アルバムのひとる「Walmer(邦題:アメリカン・モーニング)」

 

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