まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「オーバー・アンド・オーバー(Over and Over)」パフ・ジョンソン(1997)

 おはようございます。

 今日はパフ・ジョンソンの「オーバー・アンド・オーバー」です。

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So you stood there on the corner
With your suitcase in your hand
Ready to quit this place
There were just too many people
With too little left to lose
You were just one more face
But you weren't born to give up easy
You weren't raised to just lie down

And you saw the sun that rises up for more
Over and over
You watch the wave that wears away the shore
Over and over again
And if there's any justice in this world
Gotta keep fighting on
Over and over

They say God always forgives us
But can we forgive ourselves
If we let our hope die
Cause if passion is a weakness
And silence is a strength
Who's gonna hear the cry?

So we gotta climb the highest mountain
We gotta shout for all to hear

And we'll see the sun that rises up for more
Over and over and over
And we'll feel the wave that wears away the shore
Over and over and over again
And if there's any justice in this world
Gotta keep moving on
Over and over
You gotta keep fighting on
Over and over

All that we dream can come to be
All that we lost we'll find if we
Just strike the match
And fan the flame
We'll build a blaze
That lights the way

We'll be the sun that rises up for more
Over and over
We'll be the wave that wears away the shore
Over and over again
And if there's any justice in this world
You gotta keep moving on
Over and over
Gotta keep fighting on

 

We'll be the star that rises up
Over and over、、、

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だから、あなたは曲がり角に立った

スーツケースを手にしながら

この場所を離れる準備はできた

ここは失うものがほとんどない人があまりに多すぎる

今までのあなたは、ただのもう一つの顔

だけど、あなたは簡単に諦めるために生まれたわけじゃないわ

ただ、屈服するために生きてきたわけじゃない

 

あなたは太陽がまた昇ってゆくのを見た 

何度も何度も

波が岸をすり減らすのを見つめていた

何度も何度もくりかえして

もしこの世界に正義があるのなら

闘い続けなきゃいけないの

何度も何度も

神様はいつも私たちを許してくださるという

だけど、もし希望を死なせてしまったら

私たちは自分自身を許すことができるのかしら

だって、もし情熱が弱みで

沈黙することが強さなのだとしたら

誰が悲しみの声を聞くというの?

 

だから私たちは一番高い山に登らなきゃ

みんなに聞こえるように大声を出さなきゃ

私たちは太陽がまた昇ってゆくのを見るでしょう 

何度も何度も

海岸をすり減らしてゆく波になるの

何度も何度もくりかえして

もしこの世界に正義があるのなら

前に進み続けなきゃ

何度も何度も

闘い続けなきゃいけないの

何度も何度も

 

夢見たことはみんな現実になるはず

失ったものは全部見つかるでしょう

マッチを擦って 火を煽って

この道を照らす炎にしましょう

 

私たちはまた昇ってゆく太陽になる

何度も何度も

波が岸をすり減らすのを見つめていた

何度も何度もくりかえして

もしこの世界に正義があるのなら

前に進み続けなきゃ

何度も何度も

闘い続けなきゃいけないの


私たちは空を昇る星になる

何度でも何度でも、、、

                        (拙訳)

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 この曲は映画「ファースト・ワイフ・クラブ」(1996)のプロモーション用で書かれたものでした。映画の内容は夫に裏切られた三人の女性が夫に復讐するというコメディ。ベット・ミドラーダイアン・キートンゴールディ・ホーンと芸達者な女優がそろっていました。

 

  パフ・ジョンソンは1996年にデビューしたR&Bシンガーです。

  彼女はR&Bのメッカ、デトロイトで生まれ、2歳からヴォーカル・トレーニングを受け、13歳のときにはモータウンと契約寸前までいくほどのレベルになっていたようです。

 また、ダンサーとしても正規のトレーニングを受け、ニューキッズ・オン・ザ・ブロックの大ヒット曲「ステップ・バイ・ステップ」のPVの振付師の一人として参加しています。

 デビュー前には、数々のコーラスワークをこなしながら、当時HIPHOP界のカリスマだった2Pacの楽曲にボーカルとして参加したり、「The Promised Land」というTVシリーズと連動したコンピレーション・アルバムではダニー・ハサウェイの「Someday We'll All Be Free」を見事に歌い上げるなど、前煽りもできていました。

 

 そして、レコード会社が彼女に期待したのが『第2のマライア・キャリー』でした。

 そして、マライアのプロデューサー、ウォルター・アファナシエフやホイットニーのプロデューサー、ナラダ・マイケル・ウォルデン、当時新進気鋭のプロデューサーでその後、ジャネット・ジャクソンなどを手掛けるジャーメイン・デュプリなど錚々たるメンツが彼女の元に集まりました。

 デビュー曲「フォーエヴァー・モア」はナラダがプロデュースした楽曲でした。派手さはありませんが、ただただ、まっすぐに心に届くようなバラードでした。

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 しかし、アメリカのチャートは最高63位と、”第2のマライア”としては期待はずれの結果で終わってしまいました。しかし、オーストラリアやニュージーランドではヒットしたという記録が残っています。

 日本ではどうだったかというと、レコード会社の担当は僕だったのですが、会社的に力を入れて来日プロモーションをやったおかげもあり、FMを中心にヒットし5万枚以上売れたと記憶しています。

 ただ、第2のマライアというのは、彼女の持ち味とは違いすぎました。もちろん、第2のホイットニーでもないですが(そもそも第2のというキャッチコピー自体、レコード会社の意欲が伝わるだけで、本人にとっては百害あって一利なしなのですが、、)

 

 彼女の歌は、マライアやホイットニーやセリーヌ・ディオンのように、力でねじ伏せるものではなく、あくまでもまっすぐで瑞々しさが魅力でした(人柄も気さくでとてもチャーミングでした)。そして、集まった凄腕プロデューサーたちも、あくまでも彼女の歌の持ち味が最も映えるような仕事をしました。

 

 その結果、彼女のアルバム「ミラクル」は、25年も前の当時としても、めずらしいほどオーソドックスで”端正”なアルバムになっています。

 アメリカの市場では、それがすごく”保守的”で”ツカミが弱い”とられてしまい、セールスの不振につながったのかもしれません。

 でも、だからこそ、当時の担当者が言うのもなんですが、今聴いても彼女の音楽のみずみずしさ、まっすぐさは風化していないと思うのです。

 

 この「オーバー・アンド・オーバー」は、アメリカでは118位で終わりましたが、イギリスでは20位、前作同様オーストラリア、ニュージーランドでヒット、ノルウェイでは10位になっています。

 そして、この曲をリリースした1997年に彼女はマイケル・ジャクソンの前座としてヨーロッパをツアーでまわったようですが、それ以降彼女の音楽活動の情報は途絶えてしまいます。

 

 そして、2013年に彼女が癌で亡くなったというニュースをネットで流れました。まだ40歳でした。

 ネットの記事で知った晩年の彼女は、ほんのわずかな期間交流しただけの僕にとってもとてもつらいものでした。2006年に婚約していた音楽プロデューサーがバイク事故で亡くなり、その後ライヴで訪れた南アフリカの人々の歓迎ぶりに感激し彼女は移住しますが、そのころ子宮癌を発症してしまいます。彼女には歌手の恋人ができますが、彼はかなりの薬物障害で病気の彼女の看病もきちんとできなかった、とある記事には書いてありました。

 そして、ビザの書類の手違いがあったのでしょう、彼女は南アフリカを出国せざるを得なくなり、最後の日々はアメリカで過ごしたようです。

 

   アルバム一枚で終わるような才能ではなかった、それはもう断言できます。ただ、彼女が一枚だけ残した「ミラクル」というアルバムは、今の時代あらためて聴いてみると、心が濁ってしまいそうな毎日を洗ってくれるようなみずみずしさがあるように思います。

 

 YouTubeのコメント欄を見ると、彼女には世界中にファンがいて今もなお追悼の気持ちを捧げている人が多いことがわかります。

 当時の日本の担当者だった僕にできるのは、こうして、あらためて彼女の音楽を少しでも多くの人に聴いてもらうことだけです。

 

 セカンドシングル「All Over Your Face」

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彼女の動画で最も再生数が多かった「God Sent You」

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彼女の当時の貴重なTVパフォーマンスがアップされていたので、そちらもぜひ。

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