まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「美しき生命( Viva la Vida)」コールドプレイ(2008)

 おがようございます。

 今日はコールドプレイの「美しき生命( Viva la Vida)」です。


Coldplay - Viva La Vida (Official Video)

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I used to rule the world
Seas would rise when I gave the word
Now in the morning, I sleep alone
Sweep the streets I used to own

I used to roll the dice
Feel the fear in my enemy's eyes
Listen as the crowd would sing
Now the old king is dead! Long live the king!

One minute I held the key
Next the walls were closed on me
And I discovered that my castles stand
Upon pillars of salt and pillars of sand

I hear Jerusalem bells are ringing
Roman Cavalry choirs are singing
Be my mirror, my sword and shield
My missionaries in a foreign field
For some reason I can't explain
Once you go there was never, never a honest word
And that was when I ruled the world

It was a wicked and wild wind
Blew down the doors to let me in
Shattered windows and the sound of drums
People couldn't believe what I'd become

Revolutionaries wait
For my head on a silver plate
Just a puppet on a lonely string
Oh who would ever want to be king?

I hear Jerusalem bells are ringing
Roman Calvary choirs are singing
Be my mirror, my sword and shield
My missionaries in a foreign field
For some reason I can't explain
I know Saint Peter won't call my name
Never a honest word
But that was when I ruled the world


I hear Jerusalem bells are ringing
Roman Calvary choirs are singing
Be my mirror, my sword and shield
My missionaries in a foreign field
For some reason I can't explain
I know Saint Peter won't call my name
Never a honest word
But that was when I ruled the world

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”かつて私は世界を支配していた

  私が声を発すれば 海が隆起したものだ

  今では 朝は一人で眠り かつて私のものだった通りを掃除している

 

  私はよくサイコロを振っていたものだ

  敵の目に恐怖心が浮かんでいるのを感じたよ

  群衆が歌うのに耳を傾けた

  「古い王は死んだぞ!王様万歳!」

 

   鍵は私が持っていたのに もう壁が迫ってきた

   そして私は気づいたのだ 

   自分の城が塩の支柱と砂の支柱の上に立っていたことに

 

   エルサレムの鐘が鳴るのが聞こえる

   ローマ騎兵隊の聖歌隊が歌っている

 私の鏡になれ、私の剣に、私の盾に

 異国の地で私の宣教師となれ

 

 私には説明できないが何かの理由で

 王になってしまうとそこには、正直な言葉など決してひとつもなかった

 それは私が世界を支配していた時のことだ

 

 それは邪悪で荒れ狂った風だった

 ドアを吹き飛ばし 私は逃げ込んだ

 窓は粉々に割れ ドラムのような音が響いていた

 人々は私の成り果てた姿を信じられなかった

 

 革命家たちは待っているのさ

 私の首が銀の皿に載せられることを

 たった一本の糸しかない操り人形さ

 誰が王などなりたがるものか

 

 エルサレムの鐘が鳴るのが聞こえる

    ローマ騎兵隊の聖歌隊が歌っている

 私の鏡になれ、私の剣に、私の盾に

 異国の地で私の宣教師となれ

    私には説明できないが何かの理由で

    聖ペテロが私の名を呼ぶことは決してない

    正直な言葉など何一つない

 それは私が世界を支配していた時のことだ ” (拙訳)

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 ”Viva la Vida”とはスペイン語で、人生万歳という意味。

 昔は”ビバ!アメリカ”とか、日本でもビバって使っていたことがありましたが最近は全く聞かなくなりましたね。英語で言うと”Long Live Life”、歌詞の中に"Long Live the King"(王様万歳)というのが出てきます。

 この言葉はメキシコの画家フリーダ・カーロの描いた絵からとられたのだそうです。

artsandculture.google.com

 フリーダ・カーロは6才でポリオで右足が不自由になり、17才でバスの大事故で瀕死の重傷を負い、その後遺症に苦しみながら独学で絵画を極めた女性で、その波乱に満ちかつ恋多き人生は、2002年に「フリーダ」というタイトルで映画化もされています。

 

 コールドプレイのフロントマン、クリス・マーティンはこう語っています。

「もちろん、彼女はたくさんの痛みを経験したんだけど、彼女は家で『Viva la Vida』と書いた大きな絵を描き始めた。その大胆さに僕はただ強く心惹かれたんだ」

                                                                                (Songfacts)

 しかし、歌詞の方はフリーダとは全く関係がなく、”王の座を追われて落ちぶれた男の回想”を歌っています。

   冒頭の”私はかつて世界を支配していた”という一節が思い浮かんだ時、クリス・マーティン睡眠薬を飲んでまさに眠ろうとしていたらしく、眠さと格闘しながらギターを取りに行き作業したそうです。

 最初から破滅した王様の歌を書こうとしたわけじゃなく、突然ひらめいたフレーズからストーリーを生み出していったのかもしれません。

 

 

 コールドプレイは1997年にロンドンで結成されました。アルバム「パラシュート」でメジャー・デビュー。寒そうな海岸をひたすら歩くMVが印象的だった「Yellow」が大ヒットしました。


Coldplay - Yellow (Official Video)

  その後も2作目のアルバム「静寂の世界」、3作目「X&Y」と世界的なヒットを続け、順風満帆に思われましたが、彼らは次に大きな音楽的な変化を求めていました。

 メンバーは最初の3作を”3部作”ととらえ、ひとつの形が完結したのだと思っていたのです。

 そしてクリスは「X&Y」についてこう語っています。

「みんな少し音楽的にシャイになっていて、面白さを求めるということのサイズを間違っていたかもしれない」

                 (THE NEW ROCKSTAR PHILOSOPHY)

 

 4枚目で「美しき生命」が収録されたアルバム「美しき生命(Viva la Vida or Death and All His Friends)」を制作する際に、

 クリスは”白黒からカラーに移りたいという願望をエネルギーにして作った。というか、庭をもう少し手入れの行き届いていない状態で成長させることにしたんだ。ブラッドハウンドを放し飼いにして"(Coldplat Timeline)と語っていました。

 彼の発言のイメージは正確にはわかりませんが、聴き手は彼らの音楽に大きな変化があったことは確かにわかりました。そして、それを最も象徴していた曲が「美しき生命」でした。

 内向きでメラメラと燃えあがるような情念が、一気に反転するように外向きで力強いエネルギーへと変わったというイメージを僕は持ちました。それは「ヨシュア・トゥリー」のときのU2を思い出させるものでした。

 調べてみると、この「美しき生命」には「ヨシュア・トゥリー」のプロデューサーであったブライアン・イーノが加わっています。この彼らの音楽的な変化に、彼は何か関わっていたのでしょうか?

 

 具体的に彼らのサウンドをどうしたのかはわかりませんが、精神的なところからも彼らにアプローチしていったようです。

 以下、メンバーの発言です。

「(イーノと一緒にいると)まず最初は、愛やセックス、それにスタジオの外で役に立ちそうなことを学ぶ。それから音楽全般や、どうやってそれを作ったらいいか学ぶんだ。彼は教師みたいなものだ。教授ってとこかな。彼とは議論にならない。ブライアンは僕らの欠点を見つけてくれた。僕らをすごく自由にしてくれたよ。素晴らしい人だ」

                       クリス・マーティン(BARKS)

「彼は、極度の自己リラックスのプロセスと、想像力に制約がない状態にいるときにできることの可能性について話してくれたんだ」

             ウィル・チャンピオン(Coldplat Timeline)

 

「ブライアンが入ってきたとき、”みんなで一緒に歌わなきゃ”って言うんだ。彼はアカペラで歌うのが好きで、朝仕事を始める前に古いゴスペルの歌を歌うことでみんなスウィッチが入るんだ。あらゆることの喜びを思い出させてくれるような先生がいて幸せだったよ。彼は好奇心旺盛で失敗を恐れないんだ。これは、地位を確立してしまったアーティストにはとても大事なことなんだ。彼は馬鹿げたことを2時間も続けても気にしないんだ。だって2時間やったその3分後に何かカッコいいものが生まれるかもしれないから。だから、僕たちは何かが起こるまで喜んで演奏を続けたんだ」

                             (Pitchfork)

 

 「僕らは”もういい、自分たちが何を聴いているかを反映したレコードを作ろう、カテゴリーは関係ない”と思ったんだ。それがブライアン・イーノの哲学の一部だったんだ。周りの雑音を無視しなくちゃいけない、そして、1年のうち300日間、誰も見ていない部屋にいる間は、できるだけ楽しむんだ」

                                                                 (THE NEW ROCKSTAR PHILOSOPHY)

 

 いきなり大きな成功を手にしたことでプレッシャーを感じ、思いっきり音楽を楽しめなくなっていた彼らの気持ちをブライアンがじっくり時間をかけて解放させていった、その流れで生まれたのが「美しい生命」だったのかもしれません。

 


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