まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛のプレリュード(We've Only Just Begun)」カーペンターズ(1970)

 おはようございます。

 今日はカーペンターズの「愛のプレリュード」を。


We've Only Just Begun

 

We've only just begun to live
White lace and promises
A kiss for luck and we're on our way
(We've only begun)

Before the risin' sun, we fly
So many roads to choose
We'll start out walkin' and learn to run
(And yes, we've just begun)

Sharing horizons that are new to us
Watching the signs along the way
Talkin' it over, just the two of us
Workin' together day to day
Together

And when the evening comes, we smile
So much of life ahead
We'll find a place where there's room to grow
(And yes, we've just begun)

Sharing horizons that are new to us
Watching the signs along the way
Talkin' it over, just the two of us
Workin' together day to day
Together
Together

And when the evening comes, we smile
So much of life ahead
We'll find a place where there's room to grow
And yes, we've just begun

******************************

 

 ”私たちは今 人生をともに歩み始めたの

     白いレースと誓いの言葉

  幸せを願うキスを交わし 同じ道を行くの

    (ふたりの人生はちょうどはじまったばかり)

 

  朝日をあびて ふたりは飛び立つ

     選ぶ道は多すぎるほどあって

  私たちは歩くことから始め、走ることもおぼえてゆく

    (そう、ふたりの人生はちょうどはじまったばかり)

 

   はじめて見る地平線をふたり分かち合い

   途中にあるサインに注意しながら

   二人っきりで 話し合いながら

      日々努力してゆくの 一緒に

  

   そして夜がくると ふたり微笑み合うの

   まだこの先の人生は長いけど

   ふたりはきっとゆとりのある場所を見つけるはず

 (そう、ふたりの人生はちょうどはじまったばかり) ”

                          (拙訳)

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「愛のプレリュード」の楽譜はこちら

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 まさに結婚式用に書いたような曲ですが、もともとはカリフォルニアの地方銀行,くtロッカー・ナショナル銀行(当時はクロッカー・シチズン銀行)のTVコマーシャル用に作られたものでした。

 その映像がこちらです。


Classic Commercial - "The Crocker Bank" - 1970

 

 まさに結婚の映像になっています。そして、銀行ですから当然最後に「これからまだ先の長い人生。私どもがお手伝いさせていただきます」なんてテロップが出てきます。

 純粋なウェデング・ソングではなく、最初からビジネスの香りがする(?)用途で作られたものだったんですね。

 

 作詞はポール・ウィリアムス、作曲はロジャー・ニコルズのコンビ。彼らはA&Mレコードの出版部門と契約していました。

 初めのロジャーが契約し、彼が作詞のパートナーを探している時に、A&Mの出版部門の責任者チャック・ケイがポールのデモに興味を持ち、二人を引き合わせることにしました。

  (チャック・ケイは、フィル・スペクターのレーベルで仕事を始め、キャロル・キング、バリー・マンなどがいるアルドン・ミュージックの西海岸の責任者をやっていた人で、その後どんどん業界の大物になっていきます)

 このCMはもともとトニー・アッシャー(ビーチ・ボーイズの「神のみぞ知る」「素敵じゃないか」などの作詞家)にきたそうですが、彼がスキーで怪我してしまったため、友人のロジャーとポールを推薦してくれたそうです。

  ポールは銀行名を歌詞に入れるジングルのようなものだと思ったそうですが、銀行サイドのリクエストは”結婚した若いカップルが、夕日に向かって車を走らせる映像に載せる歌で、銀行名入れなくていい、ということでした。

 

 曲の制作は締め切り当日になったらしく、ロジャーが最初のメロディーを作ると、そのあとポールが現れて

「彼に書き上げたばかりのメロディを聴かせると、彼に口から即座に「We've Only Just Begun to Live」というフレーズが飛び出した」

      (「ロジャー・ニコルス・トレジャリー」ライナーノーツ)

 30分ほどで2番まで考えて録音し提出すると、すぐにOKの返事が来たそうです。

 

 このTVCMに目を止めたのがリチャード・カーペンターでした。カーペンターズA&Mと契約した日に、同じ会社の契約作家だったポールとロジャーにすでに会っていて、彼らの作品を聴くうちにファンになっていたそうです。

 TVCMはポールが歌っていたので、ポールとロジャーの書いた曲に間違いないと考えたリチャードは、会社でポールにあった時にそれを確かめ、曲は出来ているか確認して、その後送られて来たフルサイズのデモを聴いた時にリチャードはヒットを確信したそうです。

(参考「カーペンターズ・ボックス〜フロム・ザ・トップ」ライナーノーツ)

 

「『まるでカレンのためにつくられたように聞こえました』とリチャードがそのときのことを思い出す」

             (「カレン・カーペンター 栄光と悲劇の物語」)

 

  実は、ポール・ウィリアムスによると、リチャードからフルサイズはあるか聞かれた時、実はできていなかったそうですが、何かあると思って出来ていると答え、その後慌てて作ったそうです、、、。

  ちなみにポールとロジャーの作ったフル・ヴァージョンはこちらです。


Paul Williams & Roger Nichols We've Only Just Begun

 そして、カーペンターズよりわずかに早く”パレード”というグループにいたフレディ・アレンが録音し、先にリリースしてしまいました。

www.youtube.com

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 この「愛のプレリュード」は「遥かなる影」のリリース直前にレコーディングされています。「遥かなる影」の大ヒットをうけて作られたというわけではないんです。

 リチャードが、これは売れる、と”前のめり”で作ったそうです。ハーブ・アルパートに押し切られてしぶしぶ(?)作り始めた「遥かなる影」とは気合いが違ったわけです。

 

「もしもカレンのために将来の望ましい方向が定まった瞬間があったとすれば、それが<遥かなる影>がリリースされる寸前の1970年5月のその日、<愛のプレリュード>をレコーディングして世界地図に彼女の声を刻みつけたその瞬間だった」

             (「カレン・カーペンター 栄光と悲劇の物語」)

 

 この意見には僕も全面的に同意します。

 「遥かなる影」でブレイクする以前の、彼らのデビュー・アルバム「涙の乗車券」を久しぶりに聴いてみたのですが、”これはほとんどリチャード・カーペンターのアルバムじゃないか”と思いました。

 わずか3,4歳の頃から音楽家を目指し、野心と才能の両方を備えたというリチャードの”音世界”を全面に出したもの、凝った高度なサウンド・アレンジとハーモニーが全面に立った作品で、リチャードもメイン・ボーカルを結構とっています。

 リチャードの才能を見せつけようとしている、とすら僕には思えました。

 カレンのほうは慕っている兄の”音世界”の一部に徹していて、数曲のソロ作品で彼女のボーカルの魅力がいくらか伝わってくる程度です。

 

 それはリチャードの野心が強すぎたからだけではなく、カレンがあまりに引っ込み思案で、フロント・マンになる準備ができていなかったということも大きかったようです。

 

 「遥かなる影」のボーカル録音でも、最初は”二ルソン”みたいな歌い方で、彼女の良さが出ていなかったらしく、適切な歌い方を見つけるまでに時間がかかったという話もあります。

 

 ここからは僕の完全な推測ですが、「遥かなる影」の録音で、リチャードはメイン・ボーカリストとしてのカレン・カーペンターの”活かし方”の手応えをしっかりとつかんだのではないでしょうか。

 例えば、カレンが尊敬するバーブラ・ストライサンドのように堂々とした”ザ・ヴォーカリスト”というスタイルではなく、カレンらしい奥ゆかしさを活かしながらも大衆にアピールできるかたち、とでも言ったらいいでしょうか。

 そして、カレンのボーカルを最大限に活かすことにリチャードの頭がフォーカスできたところに、「愛のプレリュード」を聞いて”これだ”と思ったという流れじゃないかと。

 

 「遥かなる影」、「愛のプレリュード」は、カレン・カーペンターをカーペンターズの正真正銘の”主役”に据えるきっかけになりました。リチャードは”カレンをたてる”方向に自分の音楽の才能をシフトさせたのです。

 

 曲が売れたからというのはもちろんですが、たぶん、リチャード・カーペンターの中ではこの2曲のレコーディングが終了後にはすでに、カーペンターズの”シフト転換”のイメージが出来上がっていたのではないかと僕は推測しています。

 

    最後に1974年の日本武道館公演の映像を。


The Carpenters We've Only Just Begun Live at Budokan 1974

 

 

 

 

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