まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「時の流れに(Still Crazy After All These Years)」ポール・サイモン(1975)

おはようございます。

今日はポール・サイモンの「時の流れに」です。


Paul Simon -Still Crazy After All These Years

 

I met my old lover
On the street last night
She seemed so glad to see me
I just smiled
And we talked about some old times
And we drank ourselves some beers
Still crazy after all these years
Oh, still crazy after all these years

I'm not the kind of man
Who tends to socialize
I seem to lean on old familiar ways
And I ain't no fool for love songs
That whisper in my ears
Still crazy after all these years
Oh, still crazy after all these years

Four in the morning
Crapped out
Yawning
Longing my life away
I'll never worry
Why should I?
It's all gonna fade

Now I sit by my window
And I watch the cars
I fear I'll do some damage
One fine day
But I would not be convicted
By a jury of my peers
Oh, still Crazy
Still Crazy
Still Crazy after all these years

 

Writer/s: PAUL SIMON

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 " 昨夜 昔の恋人に通りで会ったんだ

    彼女は僕の顔を見てすごくうれしそうだった

 僕のほうはただ微笑んで見せた

    それから僕らは昔話をちょっとして

    二人でビールを飲んだ

 ああ、僕はまだイカれてるんだ あれからこんな時間が経っているのに

 君にイカれてるんだ こんなに経っているのに

 

     僕は社交的なタイプの男じゃない

  昔から馴染んだ生き方にしがみついてるのさ

  だけど、耳もとにささやきかけてくる

  ラブ・ソングに夢中になるようなバカでもない

   ただ、今も君にイカれているだけさ

   ああ、こんなに経つというのにまだ君に夢中なんだ

 

   明け方の四時に トイレで気張って あくびをする

   こんな人生どこかに行ってしまえばいいのに

   心配なんてするわけがない  どうしてしなきゃいけない?

   みんなやがて消えてなくなるんだから

 

  いまは窓辺に腰掛けて 行き交う車を眺めている

  ある晴れた日に 僕が誰かに損害を与えてしまうなんて考えると怖くなる

  だけど、僕と似たり寄ったりの陪審員が僕を有罪にすることはないだろう

  ああ、今もイカれているんだ 頭がおかしいんだよ

  ずっとイカれているんだ もうこんなに経つというのに”

                              (拙訳)

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「時の流れに」の楽譜はこちら

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  グラミー賞の最優秀アルバム賞に輝いた名盤「時の流れに」の表題曲で、アルバムはこの曲から静かに始まります。

 

 街角でばったり昔の恋人と再会した男。彼女のほうは、彼のことはすっかり思い出にしてしまっているのに、男は今も彼女への思いをひきずっていて、それを伝えられないまま別れてしまう。そして最後に男は、一人きりで気分が滅入るような思いにとらわれる。

 ”Crazy”という言葉が歌の始まりでは”Crazy For Her”、彼女に夢中、というニュアンスで伝わってくるのに、曲の終わりになると、文字通り”頭がイカれている”という自虐的な響きに変わっている、という、さすが、ポール・サイモン!という、彼にしかできないようなソングライティングの技巧が見事に発揮されています。

 

  「時の流れに」は生粋のニューヨーカーであるポール・サイモンの、ニューヨークを舞台にした小説や映画のようなニュアンスの濃い作品で、こういうタッチのものは実は彼の中では貴重なものです。

 

 その後、1977年にウディ・アレンの「アニー・ホール」、ニール・サイモンの「グッバイ・ガール」といった映画が大ヒットし、ニューヨークを舞台にしたビターなラブ・ストーリーやシニカルなロマンティック・コメディがトレンドになっていきます。

 

 日本のドラマや映画もやたらニューヨーク・ロケを敢行するようになり、流行歌にもニューヨークやらマンハッタンなんてワードが入る、小洒落た憧れの街としての”ニューヨークのブーム”が1970年代後半から、80年代にかけてあったことをはっきり記憶しています。

 そんな”ニューヨーク・ブーム”の音楽の世界での”起点”はこの「時の流れに」あたりじゃないだろうか、というのが僕の見立てではあります。

 

 さてこの「時の流れに」という曲とアルバムの成り立ちに大きく関わった映画があります。

 それがウォーレン・ベイティ主演の「シャンプー」(1975年ハル・アシュビー監督)です。

 この映画の音楽をサイモンが担当しました。彼が映画音楽をやるのは「卒業」(1967年)以来のことでした。

 「シャンプー」はベイティ扮するプレイボーイの美容師が結局すべて失ってしまう話だが、「時の流れに」はサイモンがこの映画のために作り、映画のやるせないトーンにぴったりだと考えていたものだったのです。

 しかし結局映画では使われず、彼は失望したようです。

 またアルバム「時の流れに」収録されている「楽しくやろう(Have A Good Time)」「もの言わぬ目(Silent Eyes)」も映画用に書かれたものらしく、「ナイト・ゲーム」は映画に使われたインストに歌詞をつけたものでした。

 

「僕は2枚のソロ・アルバム(「ポール・サイモン」「ひとりごと」)を出し、どっちもヒットしていた。2枚めはとてもハッピーなアルバムだった。なのに今はこうして結婚生活を送り、囚われたような気分でいる。そんなある日、シャワールームに入ると、いきなりこのくだり(Still Crazy After All These Years)が頭のなかに入ってくるんだ。単純にあれは、自分の状況に関するコメントだった。なぜぼくの人生は、こんなに気の滅入ることばかりなんだろう?あれだけの成功を収めていても、結局はここにもどってしまう。何年たってもまだイカれているわけだ」

                 (「ポール・サイモン 音楽と人生を語る」)

 

 ”Still Crazy After All These Years”という言葉が閃き、そこから曲に発展していたんですね。そして”Crazy”は、自虐的な意味(自分の頭がイカれている)として思い浮かんだようです。

 

「実在する女性がいるんだ。本当の話で始めるのは、いいことだね。大いに。もし嘘で話を始めると、絶えず嘘の証拠を消そうとしてしまう。シンプルだけど本当のことで、たくさんの可能性がある曲の始まり方というのは、いいものだ」

                    (「インスピレーション」)

 街角でばったり出会った昔の恋人というのは、実存する女性だったんですね。そういうところからこの曲のストーリーは動き出していったわけです。

 

 「僕のコダクローム」などが入ったアルバム「ひとりごと」はアラバマ州マッスル・ショールズのスタジオで”マッスル・ショールズ・リズムセクション”が素晴らしい演奏をしたので、この「時の流れ」では彼らをニューヨークに呼んで、レコーディングを行いました。

 

 どんな曲でも30分で最高のテイクを録れることで有名なマッスル・ショールズのプレイヤーたちも、この曲のレコーディングには手間取ったようです。というのは、この時期サイモンは専門家に師事してハーモニーを本格的に学び直していて、その成果を作曲やアレンジに取り入れたため、キー・チェンジやハーモニーなど今まで彼がやったことのないさまざまな試みを現場でやったからでした。

 

 そして、マッスル・ショールズのメンツの演奏の上にニューヨークのジャズ・フュージョン界の名手、マイケル・ブレッカーが印象的なサックスソロを吹き、ボブ・ジェームスがストリングスとホーンのアレンジをすることで、この曲の”都会感”がグッと増すことになります。

 

 そのあたりのコーディネイトは、共同プロデューサーでエンジニアのフィル・ラモーンの采配によるものかもしれません。

 

 このあと、ラモーンは1977年にビリー・ジョエルの「ストレンジャー」78年に「ニューヨーク52番街」のプロデューサーを務めていますので、この時代の”ニューヨーク・ブーム”への彼の貢献は絶大なものがあったように思います。

 

 

 ここで、カレンカーペンターのカバーを。

 歌詞で、朝の四時に”Crapped Out”とありますが調べてみると<ゲームで負ける><故障する>などと出てきますが、どうも<トイレで気張る>という意味があるようで、カレン・カーペンターがカバーするときにそれを嫌がってサイモンに頼んで”Crashed Out"(寝る)に変えさせたなんて話があります 


Still Crazy After All These Years

 

アルバム「時の流れに」から生まれた全米NO.1ヒット「恋人と別れる50の方法(50 Ways to Leave Your Lover)」。ちなみに歌の中で50もその方法を説明していません、、


Paul Simon - 50 Ways to Leave Your Lover (Official Audio)

 

 

ピアノ、ベース、ドラムスが「時の流れに」と同じメンバーで演奏されている「僕のコダクローム

www.youtube.com

 

 

 

 

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