まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「風のシルエット(What You Won't Do For Love)」ボビー・コールドウェル(1978)

 おはようございます。

 今日は”ミスターAOR"ボビー・コールドウェルのデビュー曲にして代名詞「風のシルエット」です。

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I guess you wonder where I've been
I searched to find a love within

I came back to let you know
Got a thing for you and I can't let go

My friends wonder what is wrong with me
Well, I'm in a daze from your love, you see


I came back to let you know
Got a thing for you and I can't let go

Some people go around the world for love
But they may never find what they dream of

What you won't do, do for love
You've tried everything, but you don't give up
In my world, only you
Make me do for love what I would not do

My friends wonder what is wrong with me
Well, I'm in a daze from your love, you see

I came back to let you know
Got a thing for you and I can't let go


And though I only want the best, it's true
I can't believe the things I do for you


What you won't do, do for love
You've tried everything, but you won't give up
In my world, only you
Make me do for love what I would not do

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  ”僕がどこに行っていたのかって君は思ってるんだろう

 自分の中の愛を探していたんだ

 君に伝えたくて戻って来たよ

 君に魅かれているってことを そして離したくないってことを

 

 友達は僕がおかしくなったって思ってる

 君への愛で目が眩んでいるんだ、わかるだろ

 君に伝えたくて戻って来たんだ

 君に魅かれている そしてもう離したくないんだ

 

 愛のために世界中を巡っている人もいるけど

 きっと夢見たものは見つけられないかもしれない

 
 愛のために、君がやらないこと

 君は全部やろうとして、あきらめない

 僕が生きる世界では君だけなんだ

 僕がやらないようなことを

 愛のためにやらせるのは

 

 友達は僕がおかしくなったって思ってる

 君への愛で目が眩んでいるんだ、わかるだろ

 君に伝えたくて戻って来たんだ

 君に魅かれている そしてもう離したくないんだ

 

 できる限りのことをしたいだけさ、本当さ

 君のためにこんなことをしているなんて

 自分でも信じられないけど


 愛のために 、君がやらないこと

 君は全部やろうとしてきて、あきらめないだろう

 僕の生きる世界では 君だけなんだ

 僕がやらないようなことを愛のためにやらせるのは

 愛のために、僕がやらないようなことをやらせてほしい

 愛のために、僕がやらないようなことをやらせてほしい ”(拙訳)

 

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「風のシルエット 」の楽譜はこちら

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 AORとはアメリカではシングルではなくアルバム志向のロック、Album-Oriented Rock(アルバム・オリエンテッド・ロック)を指し、日本では”大人向けロック”Adult-Oriented Rock(アダルト・オリエンテッド・ロック)を指す、といった説明がネットでは見つかります。

 その日本特有の解釈での”AOR”において”ミスター”の称号を与えられているボビー・コールドウェルについて「なぜだかわからないけど、日本ですごく人気がある」なんて記述がアメリカのとあるサイトにありました。

 

 <なぜだかわからないけど、日本ですごく人気がある>というのはAORというジャンルそのものにもあてはまる言葉だと思います。

 

 近年、世界的に盛り上がった日本のシティポップも、AORを日本的にカスタマイズした音楽だとも言えると思うので、日本人の気質とすごく相性のいい音楽だったのは間違いないのではないでしょうか。

 

 なんだか突飛な話になりますが、もし、AIにいかにもAORという曲を作らせることになって、AIに学習させるサンプルとして何か1曲選べと言われたら、僕は「風のシルエット」を選びます。

 

 AORについては僕もかなりマニアックなものまで聴いてきましたが、AORを象徴する曲を何か一つと言われると、これじゃないかと思うんですよね。

 

 

    さて、ここからはボビー・コールドウェルの歩みをざっくりと。

 マイアミで育った彼に最初のチャンスが訪れたのはリトル・リチャードがフロリダでツアーをやっている時でした。ボビーのバンドとステージを共にする機会があり、リチャードが自分のバンドをクビにして、ボビーたちを自分のバックバンドとして雇ったのです。

 彼らはLAに行き、リチャードとのツアーが終わってもそこに残り、バーバンドとして演奏したり、デモを録音してレーベルに送ったりしました。

 その頃、ボビーはソロとしてカリフォルニアのインディーレーベルから一枚ディスコ調のシングルをリリースしています。

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 しかし曲は当たらず、LAで計6年間がんばったのですが、夢破れてマイアミに帰ったそうです。

 彼が実家でうだうだしていると、ある日彼の母親が彼に新聞(”マイアミ・ヘラルド”)を手渡したそうです。

 そこには”マイアミのお気に入りの息子たち”という見出しで、KC&サンシャイン・バンドが紹介されていました。

 


KC & The Sunshine Band - That's The Way 1977

   ボビーの母親はKCをリリースしている、マイアミのレーベル”TKレコーズ”にあたってみたら?と示唆したそうです。

 TKはディスコもので大当たりしたレーベルで、社長のヘンリー・ストーンはニューヨーク生まれの白人ですが、リリースしているのはほとんどが黒人アーティストでした。

 しかし、ディスコがそろそろ頭打ちになってきていて、彼はディスコ以外のアーティスト、例えばその頃大ヒットしていたボズ・スキャッグスのようなアーティストを探していました。タイミングがぴったりだったんですね。ボビーのお母さんの”勘”は相当なものです。

 そして、彼ががレーベルを訪ねると、その後わずか2日で契約を締結したそうです。

 

 そしてレコーディングに十ヶ月も与えられアルバムを完成させますが、その音源を聴いたストーンから”シングル曲がない”と言われたそうです。そしてボビーが急いで書いて完成させたのが「風のシルエット」でした。

 

 しかし大きな問題がありました。TKのプロモーションの中心は黒人向けのラジオ局で、白人の彼をオンエアしてくれないのではないか、という懸念があったのです。

 

 そして、その問題はボビー自身がクリアします。

 ベンチに座っている自分の写真を元に、それをトレースしてシルエットにするデザインを考えたのです。

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 「風のシルエット」という邦題もこのジャケットデザインから考えられたのでしょう。

 この曲は当初黒人向けラジオ局でどんどんオンエアされ、そこからポップス系のラジオ局へと広がっていきました。

 しかし、顔を出さない戦略のせいで、ほとんどのリスナーは彼のことを黒人だと思っていたらしく、ナタリー・コールとのツアーの初日には、ステージに現れた彼を見てお客さんは静まり返ったそうです。彼が歌い始めると盛り上がったそうですが。

 (現在も、アメリカでは彼のライヴのお客さんは黒人が多いといいます)

 

 この「風のシルエット」は全米9位まであがる大ヒットになります。

 アルバム「風のシルエット(Bobby Caldwell)」も全米21位、R&Bチャートでは7位まであがっています。

 その後、1983年まで計4枚のアルバムをリリースしますが、日本以外ではヒットせず、彼はソングライターとして他のアーティストの曲を提供する道を選びます。

 

 彼が提供した曲をいくつか。

 

ネクスト・タイム (Next Time I Fall)」ピーター・セテラ&&エイミー・グラント

(1986年全米1位)

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ボズ・スキャッグス「ハート・オブ・マイン(Heart of Mine)」(1988年全米35位)

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アル・ジャロウ「All Or Nothing At All」(1988年R&B59位)

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 ボズ・スキャッグスの復活作をボビー・コールドウェルを作るというAORファンからすればまさに夢の組み合わせが実現し、ボズのアルバム「アザー・ローズ」は日本で大ヒットしました。

 それが大きな後押しとなり、彼は「ハート・オブ・マイン」や「All Or Nothing At All」などの提供曲のセルフカバーを中心としたアルバム「ハート・オブ・マイン」を日本先行でリリース、タイトル曲「ハート・オブ・マイン」はたばこのCMでも使われ日本で大ヒットしました。

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 これ以降、彼はアーティストとして復活を果たし、その彼を最も熱く応援し続けたのが日本のオーディエンスでした。

 

 後年はスタンダード・ジャズのアルバムもリリースしていて、彼のアルバムを聴きながら思うのは、ソングライターとしても大変な能力の持ち主ですが、なんといっても本当に素晴らしいシンガーだということです。

 

 最後は、彼が2002年に参加した竹内まりやのカバー・アルバム「Sincerely...~Mariya Takeuchi Songbook~」から「カムフラージュ」を。個人的にすごい好きなんです、このカバー。

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AORを象徴する一枚。「風のシルエット」を収録したデビュー・アルバム

入門編としてはこのベストで

上のベストじゃ物足りない方にはこの二枚組ベスト。なぜかサブスクに入っていない「シーサイド・センチメンタル」と「オーガスト・ムーン」からも複数選曲

 

ロバータ・フラックポインター・シスターズ、リタ・クーリッジ、ローラ・ブラニガン、、とにかくすごいメンツの竹内まりやカバー集

ネットオフ

 

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追記:日記ブログはじめました。よかったらのぞいてみて下さい

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