まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「明日に架ける橋(Bridge Over Troubled Walter)」サイモン&ガーファンクル(1970)

 おはようございます。

    今日もまたサイモン&ガーファンクルの曲を。


Simon & Garfunkel - Bridge Over Troubled Water (Audio)

 

When you're weary, feeling small
When tears are in your eyes, I'll dry them all 
I'm on your side, oh, when times get rough
And friends just can't be found
Like a bridge over troubled water
I will lay me down
Like a bridge over troubled water
I will lay me down

When you're down and out
When you're on the street
When evening falls so hard
I will comfort you (ooo)
I'll take your part, oh, when darkness comes
And pain is all around
Like a bridge over troubled water
I will lay me down
Like a bridge over troubled water
I will lay me down

Sail on silver girl
Sail on by
Your time has come to shine
All your dreams are on their way
See how they shine
Oh, if you need a friend
I'm sailing right behind
Like a bridge over troubled water
I will ease your mind
Like a bridge over troubled water
I will ease your mind

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  "君が疲れて 自信を失くして

   思わず涙が浮かんでしまう、そんなときは 

   僕が全部乾かしてあげるよ  君の味方だから

   つらいことがあったのに 友達が見つからないときは

         荒れた川に橋を架けるように 僕の身を横たえよう

   荒れた川に架ける橋のように 僕の身を投げ出すよ

   

   君がどん底まで落ちて 通りに立ち尽くし

   夕暮れが容赦なく落ちかかってくるときだって

   僕が慰める   君の身代わりにだってなるよ

         暗闇がやってきて すべてが苦痛に感じる時

   荒れた海に橋を架けるように 僕の身を横たえよう

   荒れた海に架ける橋のように 僕の身を投げ出すよ

   

         船を出せ 銀色の少女よ 船を進めるんだ

   君が輝く時が来た 君の夢はすべて動き出している

         あんなに輝いているだろ

    もし友達が欲しいなら    僕が後ろをついていく

          荒れた川に橋を架けるように 君を安心させよう

     荒れた川に架ける橋のように 君を安心させよう  ” (拙訳)

 

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「明日に架ける橋」の楽譜はこちら

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   書いた一曲一曲にすべてはっきりしたテーマ性を感じるポール・サイモンですが、最初からテーマを決めて曲を作ることはないそうです。自分の無意識から何かが出てくるのを待って、そこから生まれた音楽の流れに沿って、緻密に曲を組み立てていくのです。

 ジャンルは違いますが、作家の村上春樹も同じような創作法を取っていることが知られています。外見も似ていると言われると、確か彼自身も書いていたような、、。

 

 さて、この希代の名曲を書いた時、彼はギターを片手に”スワン・シルヴァーストーンズ”というゴスペルの男性コーラス・グループのアルバムを何度も聴きながら、自分の中から何かが生まれるのを”待って”いました。

 前身グループが1938年の結成と言われるスワン・シルヴァーストーンズは1950年代には当時流行していたR&Bコーラス・グループにとても近いスタイルだったこともあって、ゴスペルのアーティストの中でも特に人気があったようです。ポールもゴスペルはもともと好きだったようですが、幼い頃ラジオで聴いた黒人コーラス・グループを自身の音楽の原点としているポールに取って彼らは特に好きなスタイルだったのでしょう。

 ポールが”世界一のファルセット・ヴォイスの持ち主”だと評するリーダーのクロード・ジーターはアル・グリーンテンプテーションズエディ・ケンドリックスにも影響を与えたそうです。全盛期の彼には商業的なR&BやR&Rも歌って欲しいといオファーが殺到し全て断ったと言われています。ちなみに、ポールは「夢のマルティグラ」(1973)という曲で彼をバックコーラスで招いていて、彼の素晴らしい声を聴くことができます。

 スワン・シルヴァーストーンズのアルバムを聴きながら、ポールが特に気持ちを奪われたのが「Oh Mary Don't You Weep」という南北戦争以前に作られたという黒人霊歌です(アレサ・フランクリン、プリンス、ブルース・スプリングスティーンなどもカバーしています)。


The Swan Silvertones-Oh Mary Don't You Weep

この曲の後半に、教会の牧師が説話でよく使われるという言葉が出てきます。

"I'll be a bridge over deep water if you trust in my name"

(もしわたしの名前を信じるなら、私は深い川に架かる橋になろう)

コーラスに合わせて差し込まれた”節回しをつけた説話”のようなもので、決して目立つものではありませんが、ポールはこの言葉によって”創作の風穴”が空き、メロディーが出てきたのだそうです。

 そこからは一気だったようです。曲の骨子はわずか20分、2番まで書くのにかかったのが2時間でした。

 そして、この曲の核である”Like a bridge over troubled water I will lay me down”というフレーズは言葉とメロディーが一緒になって、あっという間に浮かんできたのだそうです。

 

 「ぼくは『いつも書いている曲よりいぞ』と思った。ぼくの身体を流れていくような感じだった。ある意味、自分の曲とすら呼べないような気もするけど、でもやっぱり、ほかのだれのものでもない。出所はわからないけど、並外れた曲なのはわかっていた。あまりに並外れていて、中毒性のあるなにかが化学反応で生まれたというか。そういうことがあるから、一生曲を書いていこうという気になれるんだーまたあの場所に行き着こうとしてね」

 

「曲はあらかじめ脳内に存在するのか、それとも宇宙のどこかにあって、生まれるのを待っているのかという問題については答えが出ていない。それは全部、創造性という謎の一部だ」

                  (「ポール・サイモン 音楽と人生を語る」)

 

 僕は”創作者”はなく”創作物愛好家”でしかないので、彼の感覚などとても理解できないのですが、

 自分の中を”無心”に深く深く掘り下げていくと、どこかで他の多数の人たちの内面とつながっている”大きな流れ”みたいなものにたどりついて、そこまで達することができた創作物(音楽に限らず)のみが、普遍性を獲得できるんじゃないか、そんな風に信じています。

 そういう意味でも、ポール・サイモンの曲作りには大変興味があります。

 ヒットを狙ってあらかじめ方向性が決まったソング・ライティングを6年も続けてパッとしなかった彼が、”自分の無意識”とじっくり時間をかけて対話するように曲を作るようになったとたん「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめとする名曲が作られるようになったわけですから。

 

 また、「明日にかける橋」はゴスペルの影響があったという逸話はファンには知られていて、僕もまあそんな感じがするなくらいに思っていたのですが、調べてみると決して特定のゴスペルの”曲そのもの”に影響されて真似したわけじゃなかったわけです。

 

 ゴスペルのアルバムを聴き続けていたわけですから、そういう”精神的なモード””土壌”は彼の中で確実に作られていたのは確かでしょうが、きかっけは、あくまでもコーラスの合間に差し込まれるように歌われた一説の”言葉”だったわけです。

 

 

 ちなみにこの曲は最初は2番までしかなかったそうです。しかし、スタジオでアレンジを進める中で、ライチャス・ブラザーズの「ふられた気持ち」などで聴けるフィル・スペクターサウンドのようなドラマティックな盛り上がりが必要じゃないかと彼らは思い始め、そのために3番を作ることになり、ポール・サイモンはその場で歌詞を書いたそうです。

 出だしの”Silver Girl”は大変有名になった”謎の言葉”で、ヘロインの注射針を意味しているという説が根強くあったそうです。

 ポールによれば、当時の彼のガールフレンド(のちに奥さんになる)のペギーが、その日の朝、鏡で白髪を見つけて取り乱していたそうで、それを思い出したのだそうです。

 "Silver Girl"は”白髪の少女”だったわけです。ただし、白髪であることがを歌の中で重要であれば、"Silver Haired"とか他の言い回しをしたでしょうから、歌詞を”白髪混じりの少女”なんて訳す必要はないと思います。あくまでもインスピレーションから浮かんだ”面白い語感の言葉”、そこから聴き手がまたいろんなイマジネーションを広げればいいのでしょう。"Siver Girl”という言葉から勝手に想像をふくらませればいいのでしょう。

 (ただ、ヘロインに結び付けられたのは、さすがに想定外だったでしょうが)

 日本では "Silver Girl"は佐野元春山下久美子のために書いた曲のタイトルになり、

最近ではキリンジが同名の曲を作っています。一つのインスピレーションがまた別のインスピレーションを生む、そういう広がり方が正しいように思います。

 

  またアルバム「明日に架ける橋」からのシングルは「いとしのセシリア」がいいと、サイモンは考えていたそうですが、その考えを変えたのが当時のCBSレコードの社長クライヴ・デイヴィスでした。

 

「『<明日に架ける橋>を聞いたとたん、わたしはアドレナリンのたかぶりを感じた』とデイヴィスは語る。『<いとしのセシリア>もヒットになるだろうと思ったが、<明日に架ける橋>は別格だ。あれは歴史的なレコードだった」

 (「ポール・サイモン 音楽と人生を語る」)

 

 曲の長さが3分以下でいかにもラジオでオンエアされそうな曲(「いとしのセシリア」)をシングルにしようというのは普通レコード会社側が言い出すことです。

 

 しかし、クライヴはアーティスト本人までもシングル向きじゃないと考えていた5分近い長さの重厚なバラードをためらわず推したというのは、その”耳”で数々の大ヒット曲を聴きわけてきた伝説の男”クライヴ・デイヴィスらしいエピソードです。もちろん、その結果彼のジャッジの正しさが証明されることになりました。

 

 

   さて、この曲のカバーは数え切れないほどあって、素晴らしいものも多いですが、ポール・サイモンにとっての最大のアイドルもカバーしています。きっと彼もとても感慨深かったんじゃないかと思います。プレスリーに出会うまでは野球小僧で、音楽なんて全然興味はなかったと彼は言っています。


ELVIS - Bridge Over Troubled Water (NEW mix! Great sound!)

 

 

 

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