まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ドント・ストップ(Don't Stop)」フリートウッド・マック(1977)

 おはようございます。

 今日はフリートウッド・マックの「ドント・ストップ」です。


Fleetwood Mac - Don't Stop (Official Music Video)

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If you wake up and don't wanna smile
If it takes just a little while
Open your eyes and look at the day
You'll see things in a different way


Don't stop thinking about tomorrow
Don't stop, it'll soon be here
It'll be better than before
Yesterday's gone, yesterday's gone


Why not think about times to come
And not about the things that you've done?
If your life was bad to you
Just think what tomorrow will do


Don't stop thinking about tomorrow
Don't stop, it'll soon be here
It'll be better than before
Yesterday's gone, yesterday's gone


All I want is to see you smile
If it takes just a little while
I know you don't believe that it's true
I never meant any harm to you

 

Don't stop thinking about tomorrow
Don't stop, it'll soon be here
It'll be better than before
Yesterday's gone, yesterday's gone
Don't stop thinking about tomorrow
Don't stop, it'll soon be here
It'll be better than before
Yesterday's gone, yesterday's gone


Ooh, don't you look back
Ooh, don't you look back
Ooh, don't you look back
Ooh, don't you look back

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もし君が目覚めても 微笑む気になれなくて
それにちょっと時間がかかりそうなら
しっかり目を開いて 目の前の1日に集中すれば
物事が全然違って見えてくるかも


明日のことを考えるのをやめないで
やめちゃだめさ もうすぐ来るから 
前よりもずっといい明日が
昨日は行ってしまった 昨日はもう過去さ


これからのことを考えてみようよ
そして、あなたがやってしまったことじゃなく
もし、あなたの人生があなたにとって悪いものでだったなら
明日どうなるかだけを考えよう


明日のことを考えるのをやめないで
やめちゃだめさ もうすぐ来るから 
前よりもずっといい明日が
昨日は行ってしまった 昨日はもう過去さ

 

あなたの笑顔が見たいだけ
ほんの少し時間がかかるとしても
それが真実だなんて信じちゃいないよね
私はあなたを決して傷つけるつもりはない

 

明日のことを考えるのをやめないで
やめちゃだめさ もうすぐ来るから 
前よりもずっといい明日が
昨日は行ってしまった 昨日はもう過去さ
明日のことを考えるのをやめないで
やめちゃだめさ もうすぐ来るから 
前よりもずっといい明日が
昨日は行ってしまった 昨日はもう過去さ

振り返っちゃダメさ
振り返っちゃダメさ、、、

               (拙訳)

 

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    この曲が収録されているアルバム「噂」はビルボードで31週間連続1位、トータルセールスが4000万枚を超える、音楽史上最も売れたアルバムの上位10位に入るほどのモンスター・アルバムです。

 「ドント・ストップ」は前向きなメッセージソングですが、当時”男女間のもつれ”から泥沼の状況だったバンドメンバーたちに向けられたメッセージでもあったようです。

  

  フリートウッド・マックFleetwood Mac)はミック・フリートウッド(ドラムス)とジョン・マクヴィー(ベース)の姓を足した名前です。

 ドラムスとベースはバンドの”土台”ですが、このバンドはまさに彼ら二人のみが結成以来不動で、その土台に乗る人たちが入れ替わり音楽性も大きく変わってきたというめずらしいバンドです。

 スタートは、ピーター・グリーンというギタリストがメインのブルース・ロック・バンドでした。サンタナの代表曲「ブラック・マジック・ウーマン」のオリジナルは彼らでピーター・グリーンが書いています。


Fleetwood Mac - Black Magic Woman, Stereo 1968-73 CBS 45 record.

  その後、ダニー・カーワンというギタリストが加入し、ピーター・グリーンはドラッグと精神疾患により脱退、ダニーが音楽的な主導権を握ると彼らの音楽はフォーク/ロックに変わっていきます。その後、新たにギター/ボーカルのボブ・ウェルチが加入しますが、今度はダニーはアルコール問題やメンタル・ヘルスの問題があって脱退、ボブがバンドの主導権を握るようになりますが、やがてウェルチも脱退するという風に中心人物が目まぐるしく変わります。

 

 そこで諦めずにバンドのフロント・メンバーを探したミックとジョンは”バッキンガム・ニックス”という男女デュオをやっていたリンジー・バッキンガムに興味を持ちアプローチ、リンジーは相方のスティーヴィー・ニックスも一緒なら参加すると返答します。

 

 そして、この二人の加入、特にリンジーとセットで入ってきたスティーヴィー・ニックスの存在が、フリートウッド・マックをメガ・セールス・バンドへ導くことになります。

 ビーチ・ボーイズを敬愛するというリンジーが音楽制作の核となり、美しく妖艶でありながら印象的なハスキーボイスを持つスティーヴィーが”バンド”の顔になることで、一気に彼らは”ポップ”な存在になったのです。

 

 しかし、このバンドで実は僕が一番注目しているメンバーはクリスティン・マクヴィーです。

 ミックとジョンがバンドの”土台”で、リンジーとスティーヴィーは”顔”だとすると、彼女は”ハブ”じゃないかと思えるからです。影のMVPだと。

 

 彼女は、フリートウッド・マックと同じレーベルでやはりイギリスのブルース・ロック・シーンを代表するバンド”チキン・シャック”のメンバーでした。そして、フリートウッド・マックの曲は全部覚えているほどの大ファンでもあったそうです。

 そんなわけで、古くからメンバーと交流しライブサポートをするうちに、ジョン・マクヴィーと結婚し、やがてバンドの正式メンバーになります。

  

 ブルース・ロック期はサポート・ミュージシャンとして、フォーク・ロック期はキーボーディストとして、そしてポップ期はそれに加えてメインのソングライターとしてバンドを支えました。

 前述したようにフリートウッド・マックは”土台”のベースとドラムス以外は入れ替わり、その時々で全然違うバンドのようではあるのですが、その”土台に乗った”ミュージシャンでバンドの全時代の音楽に通じている唯一のメンバーがクリスティンなんですね。

 

 そして、コアなブルースやR&Bを愛好しプレイしていた彼女が、バンドがポップ化するタイミングでポップなソング・ライターとしての才能を開花させることになります。

 この「ドント・ストップ」をはじめとして、メンバーの中で最も多くヒット曲を書いているのは実は彼女なんですね。

 (「グレイテストヒッツ」(1988)収録曲16曲のうちクリスティンが8曲、スティーヴィー5曲、リンジー3曲)

 バンドを大ブレイクするきっかけとなった、最初のヒット曲「Over My Head」も彼女の作品でした。


Over My Head

  「噂」の収録曲で人気の高い「Songbird」もまた彼女の曲でした。


Fleetwood Mac Songbird

 70年代前半にブームになった女性シンガー・ソングライターと共通する雰囲気を僕は彼女に感じます。

 彼女は、ヒットを狙って曲を書いたことは一度もないけれど、自分が商業的なソングライターだと思う、そういうスタイルの曲が自然に出てくるのだ、と語っていました。

 

 バンドの表面的な”ポップ”は、リンジーとスティーヴィーがもたらしたように見えますが、元々いたメンバーのクリスティンの貢献度は実は大きい。

 代々、強者、曲者どもが集まってきてしまうバンドですが、その中で彼女の存在が、バンドの音楽的にも人間的にも安定感をもたらしたんじゃないかと思えるんですね。それで、彼女をバンドの”ハブ”だと評したわけです。

 

 この「ドント・ストップ」は1992年にビル・クリントンが大統領選のキャンペーンに使ったことで再び脚光を浴びました。

 「明日を考えることをやめないで」というのは確かに選挙にぴったりのフレーズですね。

 しかし、この曲を書いた時、「噂」の制作時なんですが、フリートウッド・マックは大変な状況でした。

 まず、クリスティティンとジョンが離婚し、リンジーとスティーヴィーも別れ、ミックも離婚したというタイミングで、これ以上ないほど気まずく沈鬱な空気の中、でも音楽に没頭することで紛らわしたいというメンバーの思いもあってレコーディングを続けていたそうです。

 リンジーとスティーヴィーはお互いにあてつけるような曲を書いていましたが、クリスティンはジョンや他のメンバーに向けて「もう終わったことなんだから過去は見ないでこれからを見ましょうよ」という前向きな曲を書いたわけです。

 さすが、バンドの”ハブ”だなあ、と僕はまたそう思ってしまうのです。

 

 クリスティンは残念ながら実力の割にはソロとしては成功しませんでしたが、唯一のヒットで、僕も大好きな「恋のハート・ビート(Got a Hold on Me)」(1984年全米10位)を最後に。

www.youtube.com

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