まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「柳の嘆き(The Wailing Of The Willow)」ニルソン(1968)

 おはようございます。

 今日はニルソン。以前に紹介しました「うわさの男」、あと「ウィズアウト・ユー」の2曲で彼は知られていますが、僕が個人的にそれより名曲じゃないかなんて勝手に思いこんでいる曲を紹介します。「柳の嘆き」です。


Harry Nilsson - 12 - The Wailing Of The Willow (by EarpJohn)

 

Listen to the wailing of the willow
Listen to me crying on my pillow
Crying 'cause I know my love is gone from me
Living in a world of different places
Looking at a million different faces
Yet I see a face in every face I see


Love must lack a sense of humor
It laughs when other people cry
Love would love to hear the rumor
That you and I have finally said goodbye

 

I know that every heart was made for breaking
And my love was ready for the takin'
Still I won't complain, for someday love will call again
Must I take a memory as a token
To replace a heart that love has broken
Will the wailing willow always weep for me


Must I see a face in every face I see
Listen to the wailing of the willow tree

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柳の嘆きを聴いておくれ
枕をぬらす僕の泣き声を聴いておくれ
泣いているのは、愛しい人が僕の元から出て行ってしまったからさ
同じ世界の違った場所に暮らし
百万もの顔に目をやったとしても
今も僕に見えるのは一つの顔だけ


愛はユーモアのセンスに欠けているに違いない
他の人が泣いても笑うんだ
愛は聞きたがっているのさ
僕と君がついにさよならを告げたって噂をね

 

心はみんな壊れるようにできているんだ
そして、僕の愛は壊す準備ができていたのさ
それでも僕は文句は言わないよ、いつかまた愛が呼んでくれるだろうから
思い出を形見として持っていかなければいけないかな
愛が壊した心と置き換えるために
嘆きの柳はいつも僕のために泣いてくれるだろうか


誰かの顔を見るたびに君の顔を思い出すのかな
柳の木の嘆きに耳を傾けながら、、            (拙訳)

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 ボサノヴァなんですよね。アメリカのジャズじゃなく、ポップ/ロックのアーティストで、この時代にこんなにオリジナリティのあるボサノヴァを作った人を僕は他に知りません。しかも、ボサノヴァなのに、ちゃんとアメリカン・ポップスとしても楽しめる。

 ニルソンという人はやっぱりかなりレアな才能の持ち主だったなあと思います。

 

 歌詞もいいですよね。

”愛はユーモアのセンスに欠けているに違いない”

”心はみんな壊れるようにできているんだ

そして、僕の愛は壊す準備ができていたのさ”

 といった絶妙なフレーズが、この軽快な曲調の中でスパイスとして効いています。

 

 

 ジャズのスタンダードで「柳よ泣いておくれ(Willows Weep For Me)」という曲があるので、歌詞はそれをモチーフにしたと思われます。

 そして、「柳よ泣いておくれ(Willows Weep For Me)」のほうも、「しだれ柳」を英語で”Weeping Willow"というので、そこを逆手に取って考えたのでしょう。


Billie Holiday - Willow, Weep For Me

 

Willow weep for me
Willow weep for me
Bent your branches down along the ground and cover me
Listen to my plea
Hear me willow and weep for me


Gone my lovely dreams
Lovely summer dreams
Gone and left me here
To weep my tears along the stream
Sad as I can be
Hear me willow and weep for me

 

   ”柳よ泣いておくれ 私のために泣いておくれ

  地面に向かってその枝を曲げ、私を覆っておくれ

     私の嘆きを聴いておくれ、柳よ私の話を聞いて、そして泣いておくれ”

  

  愛しい夢は消えてしまった 愛しい夏の夢は私をここに残して消えた

  涙を川に流せというように 寂しくてたまらない

  柳よ私の話を聞いて、そして泣いておくれ ”   (拙訳)

 

  そして、この「柳の嘆き」にも

  "Will The Wailing Willow Always Weep For Me"

       (嘆きの柳は、いつも僕のために泣いてくれるのだろうか?)

  なんてフレーズが出てきます。

  あの「柳よ泣いておくれ」の歌のように、失恋した僕のためにも柳は泣いてくれるのだろうか?というニュアンスになるのでしょう。

  

  僕の強い思い入れとは裏腹に、この曲に肩入れする人は思いの他いないようで、ネットでも詳しい情報はなく、彼の自伝でもまったく触れられていません。

 

 僕が気になったのは、この曲を彼と共作しているイアン・フリーバーン・スミスという人物。後にバーブラ・ストライサンドの代表曲「スター誕生~愛のテーマ(evergreen)」をアレンジした人です。 


Barbra Streisand - Evergreen - HQ Audio -- Lyrics

 他にヴァン・ダイク・パークスの「ジャンプ」というアルバムでヴォーカル・アレンジメントを担当しています。二ルソンと彼がどのようなかたちで共作したのかは不明ですが、「柳の嘆き」は二ルソン唯一のボサノヴァで、かつ他の楽曲と若干趣が異なるように思えるので、彼が決して少なくない貢献をしていると僕は考えています。

 

 この頃、ニルソンは、アーティストとしてより、才能あふれる新進気鋭のソングライターとして、業界が大注目していました。

 ですので、この地味な(?)「柳の嘆き」だってちゃんとカバーされています。

 しかも、この曲をカバーするのにこれ以上の適役はない、と思える人に。

 アストラッド・ジルベルトです。1960年代のアメリカのボサノヴァ・ブームを象徴するシンガー。1969年の「あなたと夜を」というアルバムにこの曲が収録されています。他はジミー・ウェッブやバカラックなど、当時注目の作家を集められています。


Wailing Of The Willow

   1960年代に最も売れたインスト・プレイヤー、ハーブ・アルパートもカバーしましたが残念ながらお蔵入りしていたそうで、2005年のアルバムに収録されてようやく陽の目を見ました。


Wailing Of The Willow

 一番の驚きは、アメリカ史上最高のエンターテイナー、フレッド・アステアが1975年にカバー、シングル発売していることです。彼はこの年ロンドンで数多くレコーディングを行いましたが、その中の1曲。彼は76歳だったそうですが、軽やかな歌いっぷりです。


The Wailing of the Willow

 

 

 

 

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