まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「ヴォセ・エ・リンダ(Você é linda)」カエターノ ・ヴェローゾ(1983)

 おはようございます。

 今日はカエターノ ・ヴェローゾの「ヴォセ・エ・リンダ」です。

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Fonte de mel
Nos olhos de gueixa
Kabuki, máscara
Choque entre o azul
E o cacho de acácias
Luz das acácias
Você é mãe do sol
A sua coisa é toda tão certa
Beleza esperta
Você me deixa a rua deserta
Quando atravessa
E não olha pra trás
 
Linda
E sabe viver
Você me faz feliz
Esta canção é só pra dizer
E diz
Você é linda
Mais que demais
Vocé é linda sim
Onda do mar do amor
Que bateu em mim
 
Você é forte
Dentes e músculos
Peitos e lábios
Você é forte
Letras e músicas
Todas as músicas
Que ainda hei de ouvir
No Abaeté
Areias e estrelas
Não são mais belas
Do que você
Mulher das estrelas
Mina de estrelas
Diga o que você quer
 
Você é linda
E sabe viver
Você me faz feliz
Esta canção é só pra dizer
E diz
Você é linda
Mais que demais
Você é linda sim
Onda do mar do amor
Que bateu em mim
 
Gosto de ver
Você no seu ritmo
Dona do carnaval
Gosto de ter
Sentir seu estilo
Ir no seu íntimo
Nunca me faça mal
 
Linda
Mais que demais
Você é linda sim
Onda do mar do amor
Que bateu em mim
Você é linda
E sabe viver
Você me faz feliz
Esta canção é só pra dizer
E diz

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ゲイシャ(芸者)の瞳の中に
蜜の泉
歌舞伎の面
青とアカシアの花の衝撃
アカシアの光
君は太陽の母
君のすべてはただ正しい
スマートな美しさ
君は誰もいない道を残す
そこを横切るとき
うしろを振り返らずに
 
美しい人
そして、生き方を知っている
僕を幸福にしてくれる
この歌は、ただ言葉にするためだけの歌
そして、こう言うのさ
君は美しい
これ以上なく
君は美しい、そうさ
愛の海の波が
僕にぶつかりくだけてゆく
 
君は強い
歯も筋肉も
胸も唇も
君は強い
歌詞とメロディー
これからずっと僕が耳を傾けてゆく
すべての歌のように
アバエテーの砂も星も
君と比べたら美しく思えない
星の女
星の鉱脈
何が欲しいか言ってくれ
 
美しい人
そして、生き方を知っている
僕を幸福にしてくれる
この歌は、ただ言葉にするためだけの歌
こう言っているんだ
君は美しい
これ以上なく
君は美しい、そうさ
愛の海の波が
僕に押し寄せくだけてゆく
 
見ていたいんだ
自分のリズムでいる君を
カーニバルの女主人である君を
手にしたいんだ
君のスタイルを感じ
君の中に入って
僕を傷つけないで
 
美しい
これ以上なく
君は美しい、そうさ
愛の海の波が
僕に押し寄せくだけてゆく
君は美しい
そして、生き方を知っている
僕を幸福にしてくれる
この歌は、ただ言葉にするためだけの歌
こう言うんだ、、

 

ポルトガル語の英訳などを使っていますので、意訳と捉えていただければと思います)

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”平易なメロディ、素直な和声。ロマンチックな言葉ととまに「あなたは美しい人」と歌われる。ヘッドアレンジによる演奏に後からキーボーディストがシンセをダビングしたであろう、普通の曲。だけど、こんなにも美しい。

 私たちが暮らしの中で無意識に感じている美。例えばB5サイズの大学ノートやキッコーマンの醤油差し。それらが持つ奇跡的な均整に似た何かをこの曲は孕んでいる”

 

 これは、日本のアーティストたちが選曲したカエターノ ・ヴェローゾの日本編集盤「CAETANO LOVERS」で、この「ヴォセ・エ・リンダ」をセレクトしたKIRINJIの堀米高樹氏がライナーに寄稿した言葉です。

 

 ドラマ性もない穏やかな曲です。アレンジにも目を見張るような箇所はありません(シンセの音はいかにも80年代って音がしていますし)。しかし、いや、だからこそ、あらゆる作為を排除したような”普遍的な美しさ”にたどりついた稀有な曲であるように思えるのです。

 

 ジョー・コッカーで知られる「ユー・アー・ソー・ビューティフル」の、感情をすべて注ぎこむようなスタイルの真逆にあるように思えます(どちらが良い悪いとかではなく)。

 たとえば、平穏な夏の午後に愛しい女性を見つめる、ただそれだけの、でもとても貴重な瞬間をすくいとったとでも言ったらいいでしょうか。時代の波に影響されることなく、ずっと同じ光量を発し続けることができる歌だと僕は感じています。

 

 しかし、カエターノ ・ヴェローゾのレパートリーの中でこの曲のようなシンプルなラヴ・ソングはレアなものです。

 彼はブラジルの国宝的アーティストで、リオ・オリンピックの開会式でも最後に登場しています。

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 彼と共に出演していた男性がジルベルト・ジル。カエターノ と同じくブラジルの北東部バイーア州生まれで同い年、この二人が中心となって1960年代にMPB(ムージカ・ポプラール・ブラズィレイラと呼ばれる新たな音楽の流れを生み出しました。

   1959年にジョアン・ジルベルトを聴いたことが大きなきかっけになったと言う彼は、チェット・ベイカーマイルス・デイヴィスなどのアメリカのジャズも好んで聴いていたそうです。そして、1965年ころにはビートルズに大きく影響を受け、作風にも影響が出始めます。1968年に反軍事政権を謳ったトロピカリア(トロピカリズモ)をジルと共に提唱。カエターノ は強烈な政治告発ソングを歌い、その結果投獄されてしまいます。そして2年半の間ロンドンでの亡命生活を余儀なくされ、1972年にブラジルに帰国しています。

 その後、彼は革新的な作品を発表し続けていきますが、決して商業的に成功しているアーティストではありませんでした。

 その後、1980年代に入りアート・リンゼイとの交流などで、欧米でも注目され、日本でもブラジル音楽ファン以外にも少しずつ知られる存在になっていきました。1991 年のアルバム「シルクラドー」には坂本龍一が参加し、「ミュージック・マガジン」でも彼を非常に高く評価していたのをおぼえています。

 そして、1997年のアルバム『リーヴロ』は2000年にグラミー賞で最優秀ワールド・ミュージック・アルバム賞を受賞したことで、彼の名声は世界中に広がりました。

 

 2000年には、彼の憧れであったジョアン・ジルベルトのアルバム『ジョアン 声とギター』をプロデュースしています。(ちなみに、このアルバムの原題”João Voz e Violão ”を見て、僕は自分のレーベルをVOZ Recordsという名前にしたんです、、)

 

 アーティスティックで実験的な曲、詩的なものなども数多くある中で、時おり彼が演奏するシンプルな曲、ギター一本での弾き語りの味わいも、年齢と共に深くなっていったように僕は思います。

  ボサノヴァが好きな方には、彼のボサノヴァを集めたコンピレーション「A Bossa de Caetano」がオススメです。

 

 最後に2012年に彼がこの曲をTVでパフォーマンスした動画を。観客席にいる、楽勝で彼の孫くらいの女性たちがうっとりした顔でこの曲を口ずさんでいる様子を見ながら、こんなアーティストは他にはいないよなあ、とあらためて思いました。井上陽水田村正和みたいなルックスだったら、、う〜ん、やっぱ想像するのがむずかしいですね。

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こちらもカエターノ の名曲 

popups.hatenablog.com

 

 

 

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