まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「うわさの男(Everybody's Talkin')」ニルソン(1968)

 

 おはようございます。

 今日はニルソン。

 1969年の映画「真夜中のカーボーイ」(当時はカウボーイという表記じゃなかったんですね)の主題歌として大ヒットしました。

 日本でもNTT東日本FRET'SやキャノンのPIXUSなど定期的にCMでも使われる人気曲です。

 

 ”みんな俺に何か言ってくるけど ちっとも聞こえない

 ただ胸で反響してるだけ

 みんな立ち止まって 俺をじっと見るけど 顔は見えない

 やつらの瞳が影になって見えるだけ

 太陽の輝く場所へ行くんだ 降り注ぐ雨を抜けて

 俺にぴったりの場所に行くんだ”

 

 「真夜中のカーボーイ」では”男娼”として儲けようとテキサスから出てきた男(ジョン・ヴォイトアンジェリーナ・ジョリーのお父さん)が、場違いなカウボーイ・スタイルでニューヨークを闊歩するときにこの曲が流れるのですが、実にぴったりでした。

 でもこの曲は映画のために書かれたものではなくて、映画の前年にすでにニルソンが発表していて、しかもそれはカバー・ヴァージョン。オリジナルはフレッド・ニールという人が作って1966年にリリースしていました。

 


Fred Neil - Everybody's Talkin'

   ちなみに、ニルソンはこの映画のために「孤独のニューヨーク(I Guess The Lord Must Be In New York City)」という曲を書きましたが、採用されたのは「うわさの男」だったとのこと。


Harry Nilsson - I Guess the Lord Must Be in New York City (Audio)

 曲調がかなり「うわさの男」に近いので、もともと「うわさの男」みたいな曲を、というオーダーが映画制作サイドからあったのかもしれません。でも、やっぱり「うわさの男」の方がいい、ということになったんじゃないでしょうか。

 (日本でもドラマの主題歌とかCMソングを決めるときに、制作者からこんな曲でという参考曲を提案されて新曲を書いたけれど、やっぱり元曲がいいや、という展開になるということは意外にあるものです)

 

 アメリカでは、夢を追って移動する、ということが映画のテーマにもよくなります。

田舎から都会へ、東海岸から西海岸へ。具体的に念入りな計画を立てて、ということはほとんどなくて、とにかく”あっち”に行ってみれば何かあるだろう、みたいなパターンがほとんど。そしてだいたい挫折します。

 この映画のカーボーイも田舎者のお人好しなので、特に痛い目にあうわけです。大都会の怖さ、厳しさを叩き込まれる。

 しかし、そういう、かなりアンハッピーな映画であるからなおさら、”人が何言っても全然構わない、オレはオレにぴったりの場所へ行くんだ”と言うすごく楽観的なこの曲が、不思議なコントラストになってハマるわけです。

 

 ”オレはここを出て行くぜ”と言う歌は、アメリカでは数え切れないくらい作られています。それだけ根源的なテーマなのでしょう。

 ただそのほとんどが、どこか見知らぬ場所へ行こう、と夢想する歌です。

 現実にはこんな町イヤだと思いながらもそこに留まって生きた人の方が多いはずで、そういう人たちにも、こういった、”ここを出てゆくことを夢想する”歌は、心に届くものなのじゃないかと思います。

 

  そしてもちろん、実際に見知らぬ土地に行き、成功した人も挫折してしまった人にとっても、夢想していたあの時こそがかけがえのないものだったと思えるのではないでしょうか

    だからこそ、実際に出て行くことではなく、”ここではないとこかへ"と夢想するときの気持ちというのが、最も普遍的なものとして心に響く、言い換えれば”歌にしやすい”テーマになっているのだと思います。

 


ニルソンNilsson/うわさの男Everybody's Talkin' (1969年)

 

空中バレー(紙ジャケット仕様)

空中バレー(紙ジャケット仕様)

 

 

 

うわさの男

うわさの男