まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「うわさの男(Everybody's Talkin')」ニルソン(1968)

 

 おはようございます。

 今日はニルソンの「うわさの男」です。

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Everybody's talkin' at me
I don't hear a word they're sayin'
Only the echoes of my mind
People stoppin', starin'
I can't see their faces
Only the shadows of their eyes


I'm going where the sun keeps shinin'
Through the pourin' rain
Going where the weather suits my clothes
Bankin' off of the northeast winds
Sailin' on a summer breeze
And skippin' over the ocean like a stone

 

I'm going where the sun keeps shinin'
Through the pourin' rain
Going where the weather suits my clothes
Bankin' off of the northeast winds
Sailin' on a summer breeze
And skippin' over the ocean like a stone


Everybody's talkin' at me
Can't hear a word they're sayin'
Only the echoes of my mind


I won't let you leave my love behind
I won't let you leave...
I won't let you leave my love behind...

 

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みんなオレに話しかけてくる
ヤツらのいうことなんか聞こえちゃいない
頭でこだまするだけさ
人々が立ち止まり、じっと見てくる
ヤツらの目が影になって見えるだけ

オレは太陽が輝き続ける場所に行くのさ
降りしきる雨をぬけだして
オレの服にぴったりな天気の場所に行く
北東の風をバンクしてかわし
サマー・ブリーズに乗ってゆく
そして、石のように海の上を飛び越えてゆく

 

オレは太陽が輝き続ける場所に行くのさ
降りしきる雨をぬけだして
オレの服にぴったりな天気の場所に行く
北東の風をバンクしてかわし
サマー・ブリーズに乗ってゆく
そして、石のように海の上を飛び越えてゆく

 

みんなオレに話しかけてくる
ヤツらのいうことなんか聞こえちゃいない
頭でこだまするだけさ

 

おまえにはオレの愛を置き去りになんてさせないさ

おまえにはオレの愛を捨て去ったりさせないさ、、 (拙訳)

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 1969年の映画「真夜中のカーボーイ」(当時はカウボーイじゃなかったんですね、、)の主題歌として大ヒットしました。

 日本でもNTT東日本FRET'SやキャノンのPIXUSなど定期的にCMでも使われる人気曲です。

 

 「真夜中のカーボーイ」では”男娼”としてひと儲けしようとテキサスから出てきた男(ジョン・ヴォイトアンジェリーナ・ジョリーのお父さん)が、場違いなカウボーイ・スタイルでニューヨークを闊歩するときにこの曲が流れるのですが、実にぴったりで、個人的に大好きな場面です。

 でも、この曲は映画のために書かれたものではなくて、映画の前年にすでにニルソンがリリースしていたのですが、それはカバー・ヴァージョンで、オリジナルはフレッド・ニールというフォーク・シンガーの1966年の作品でした。 

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 オリジナルはそれなりに味わい深いものですが、二ルソンのヴァージョン、アレンジももちろんですが、何と言っても彼の変幻自在のヴォーカル・ワークがこの曲をすごくキャッチーなものにしていることがよくわかります。

 

 二ルソンはこう語っています。

「ある日、RCAに顔を出したら、たまたまぼくのプロデューサーのリック・ジャラードがフレッド・ニールのアルバムを聞いていてね。彼はストーン・カントリーというグループにやらせるつもりでいた曲を聞かせてくれた。でもぼくがすっかり気に入ってしまって、じゃあぼくらでやろうという話になったんだ」

(「ハリー・二ルソンの肖像」)

 

 この曲は彼のアルバム「空中バレー(Aerial Ballet)」に収録され、シングルにもなりましたがヒットしませんでした。

 

 この曲を「真夜中のカーボーイ」の監督ジョン・シュレンジャーに聴かせたのがデレク・テイラーです。デレクはビートルズの広報マンとして有名な人で、二ルソンの曲を気に入ってビートルズのメンバーにも聴かせたりしていました。

 

 シュレンジャーは映画のオープニングにオリジナル曲が欲しいと思って、ポール・サイモンに打診しますが断られ、ボブ・ディランランディ・ニューマンジョニ・ミッチェルには承諾されていました。

 デレクの強い推薦もあって二ルソンに声がかかり、彼は未編集の映像を見せてもらうとやる気になり曲を書き下ろします。それが、「孤独のニューヨーク(I Guess The Lord Must Be In New York City)」という曲です。


Harry Nilsson - I Guess the Lord Must Be in New York City (Audio)

 曲調がかなり「うわさの男」に近いので、もともと「うわさの男」みたいな曲を、というオーダーが映画制作サイドからあったのかもしれません。

 そして、発注した曲が出来上がるまで、シュレンジャーは「うわさの男」を使って仮編集をしたところそれが見事にはまってしまい、やっぱり「うわさの男」でいこう、ということになったようです。

 (日本でもドラマの主題歌とかCMソングを決めるときに、制作者からこんな曲でという参考曲を提案されて新曲を書いたけれど、やっぱり元の曲のほうがいいや、ということになるということは意外にあるものです)

  

 二ルソンの他に、ランディ・ニューマンは「カウボーイ」という曲を書き下ろし(アルバム「ランディ・ニューマン」(1968)に収録)、ボブ・ディランは「レイ・レディ・レイ」(「ナッシュビルスカイライン」(1969)に収録)を書きましたが締め切りに間に合わなかったと言われています。

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 映画「真夜中のカーボーイ」は公開されるや否や大ヒット、映画に合わせて再リリースされた「うわさの男」も全米6位の大ヒットになり、まだブレイクしていなかったニルソンは一躍大きく注目を集めることになります。

 

 

 アメリカでは、夢を追ってどこか遠くに行く、ということが映画のテーマにもよくなります。

 田舎から都会へ、東海岸から西海岸へ。具体的に念入りな計画を立てて、ということはほとんどなくて、とにかく”あっち”に行ってみれば何かあるだろう、みたいなパターンがほとんど。そしてたいてい主人公は挫折します。

 この映画のカーボーイも田舎者のお人好しなので、特に痛い目にあうわけです。大都会の怖さ、厳しさを叩き込まれる。

 しかし、そういう、かなりアンハッピーな映画であるからなおさら、”人が何言っても全然構わない、オレはオレにぴったりの場所へ行くんだ”と言うすごく楽観的なこの曲が、不思議なコントラストになってハマるわけです。

 

 ”オレはここを出て行くぜ”と言う歌も、アメリカでは本当に数え切れないくらい作られています。

 もちろん、日本でも他の国でも作られていますが、圧倒的にアメリカが多い気がします。それだけ、アメリカでは根源的なテーマなのでしょう。国土が広く、富めて華やかな都会と、貧しく退屈な田舎町というコントラストがものすごく強い、そう言った背景があるのかもしれません。

 しかし、そういう歌のほとんどが、どこか見知らぬ場所へ行こう、と夢想する歌です。

 現実にはこんな町イヤだと思いながらもそこに留まって生きた人たちの方が多いはずで、そういう人たちにも、こういい、”ここを出てゆくことを夢想する”歌は、心に届くものなのだと思います。

 

  そしてもちろん、実際に見知らぬ土地に行き、成功した人も挫折してしまった人にとっても、夢想していたあの時こそがかけがえのないものだったと思えるのではないでしょうか

    だからこそ、実際に出て行くことではなく、”ここではないとこかへ"と夢想するときの気持ちというのが、最も普遍的なものとして心に響く、言い換えれば”歌にしやすい”テーマになっているのだと僕には思えます。

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