まいにちポップス

1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、勝手な推理、などで紹介していきます

「This Christmas」ダニー・ハサウェイ(1970)

 おはようございます。

    今日はダニー・ハサウェイの有名なクリスマス・ソング


Donny Hathaway - This Christmas (Official Audio)

  たぶんR&Bアーティストのクリスマス・ソングの中で一番人気があってたくさんカバーされているんじゃないでしょうか。2014年にアメリカの著作権団体(ASCAP)が、アメリカで史上最も演奏されたクリスマス・ソングのランキングを発表したのですが、数あるスタンダード曲やワムやマライアの大ヒット曲に並んでこの曲は30位に入っていました。

 でもこの曲が有名になり始めたのは1990年代、発売から20年くらいたってからなんです。

 ダニーのデビューした1970年の12月にこの曲はリリースされています。シングルとしてはまだ2枚目。そんなに売れていない新人の2枚目のシングルがクリスマス・ソングというのは本当に異例じゃないでしょうか。クリスマスの曲というのは、人気が出たアーティストの”人気の証し”としてリリースされることが普通ですから。

 じゃあ、なぜダニーはクリスマス・ソングを出そうと思ったのでしょう?

 

 彼はキャリアを通じて黒人(アフリカン・アメリカン)の人種問題を音楽に反映させてきました。しかも、それは闘争ではなく、あくまでも音楽の表現の中で平和を願い、希望と繋げようとしたものでした。彼は白人のレパートリーを、R&Bにアレンジして歌うことも得意としていましたが、音楽で人種の壁を越えようという意識があったのだと僕は思います。

  人種問題を扱った彼の代表作はこの曲でしょう。


Donny Hathaway - Someday We'll All Be Free

 いつかみんな自由になれるから、そのために自分自身を大切にして、しっかり顔を上げて自分にとって一番大切な歌を歌いながら、恐怖心にとらわれないで、自分の歩幅で歩くんだ、そういう歌です。

 ちなみに、この歌の中で彼は”Take It From Me” という言葉を何度も繰り返します。「僕にはちゃんとした根拠や経験があるから信じてくれていいんだよ」ということなんですね。人に助言を求められたときに、自身の経験を基に言う時に使うことが多いようです。

 僕は英語のネイティヴじゃないのでわかりませんが、Believeなどを使うより、すごく切実で誠実な言い方なんじゃないかと思います。

 

 さて、「This Christmas」、タイトル自体”今年のクリスマス”ですから、いたってさりげないですが、歌詞もまたシンプルです。飾りつけの準備をしながら、今年のクリスマスが好きな相手と一緒に過ごして特別なものになることを期待してワクワクしている、そんな内容なんです。

 しかし、この当時、無心にクリスマスを待ち焦がれることができる、そんな恵まれた環境にいた黒人がたくさんいたとは思えません。

 当たり前に楽しく過ごすクリスマス、それこそが希望”だったのだと思います。

 黒人アーティストが、自然に楽しめるクリスマス・ソングを作って歌うことだけでもかなり大きな意義があったのだと思います。ダニーの意図もきっとそこにあったはずです。

 しかしセールスとしては、曲がリリースされた直後に少しチャートに載ったくらいで、大きな反響を得ることはできませんでした。

 

 その後、彼は1972年に今なお名盤の誉れ高い「LIVE」を発表し、大学時代からの友人ロバータ・フラックとのデュオが大ヒットし、一気に注目を集めるようになります。

 しかし彼は精神的に非常に繊細だったようで、心をひどく病んでしまい、ピークにいながら1973年以降表立った活動をしなくなります。

 そして、1978年からレコーディングを再開するのですが、精神状態は安定しなかったようで順調に進まず、1979年に彼は滞在中のホテルのバルコニーから転落死してしまいます。自殺だったのではないかと言われています。

 彼の死を悼んで、ザ・ウィスパーズというグループが「ソング・フォー・ダニー」という曲をリリースしたのですが、「This Christmas」の歌詞を変えたものでした。

 例えば、クリスマスがスペシャルなものに、とう箇所が、きみの音楽がスペシャルなものだった、という風に。

 


The Whispers - A Song For Donny (Official Music Video)

   シングルで発売されただけじゃなく、100万枚を超えた彼らの大ヒットアルバムの1曲目にも入っていましたから、歌詞は違えども曲自体はたくさんの人から聴いてもらえることができたわけです。

 また、僕がこの曲のストレートなカバーを初めて聴いたのはこれでした。

 アレキサンダー・オニール。1988年の「My Gift To You」より。僕の大好きなクリスマス・アルバムです。


This Christmas

 ウィキペディアによると、1991年にダニーが在籍していたレーベル「アトコ」が1968年にリリースしたコンピレーション「Soul Christmas」を再発売するときに「This Christmas」が追加収録されたことが、再評価のきっかけになったようです。

 確かに、1990年以降一気にカバーが増えていきます。検索すると、デスティニーズ・チャイルドクリスティーナ・アギレラ、クリス・ブラウン、など錚々たる人たちのカバーが出てきます。

 このブログで紹介した「Baby ,It's Cold Outside」の歌詞修正版が入っているジョン・レジェンドのクリスマス・アルバムにもこの曲が入っています。 

popups.hatenablog.com

 僕が注目したのは、去年からSpotifyで盛り上がっているという、ピンクがイメージカラーのR&Bシンガー”Pink Sweet$”によるカバー。ダニーとバーチャルでデュエットしています。


Pink Sweat$ & Donny Hathaway - This Christmas (Official Audio)

 

This Christmas

This Christmas

  • アーティスト:ダニー・ハサウェイ
  • 出版社/メーカー: Atlantic Records
  • 発売日: 2011/08/08
  • メディア: MP3 ダウンロード