まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「This Christmas」ダニー・ハサウェイ(1970)

 おはようございます。

    今日はダニー・ハサウェイの有名なクリスマス・ソング、「This Christmas」です。

www.youtube.com

Hang all the mistletoe
I'm gonna get to know you better
This Christmas
And as we trim the tree
How much fun it's gonna be together
This Christmas


Fireside is blazing bright
We're caroling through the night
And this Christmas will be
A very special Christmas for me

 

Presents and cards are here
My world is filled with cheer and you
This Christmas
And as I look around
Your eyes outshine the town they do
This Christmas


Fireside is blazing bright
We're caroling through the night
And this Christmas will be
A very special Christmas for me, yeah

 

Fireside is blazing bright
We're caroling through the night
And this Christmas will be
A very special Christmas for me

 

Hang all the mistletoe
I'm gonna get to know you better
This Christmas
And as we trim the tree
How much fun it's gonna be together
This Christmas


Fireside is blazing bright
We're caroling through the night
And this Christmas will be
A very special Christmas for me

 


Merry Christmas
Shake a hand, shake a hand now
Wish your brother merry christmas
All over the land, 

**********************************************************************************

ヤドリギを全部飾って
僕は君のことをもっとよくわかるようになるんだ
今年のクリスマスは
そして、ツリーの手入れをしながら
ふたり一緒にいれば、どんなに楽しくなるだろう
今年のクリスマスは


暖炉は真っ赤に燃えている
僕たちは夜通し聖歌を歌うのさ
そして、今年のクリスマスは
僕にとってすごく特別なクリスマスになるだろう

 

プレゼントやカードはここさ
僕の世界は、喜びと君とで満たされている
今年のクリスマス
そして、見渡せば
君の瞳は、クリスマスの街よりもっと輝いている
今年のクリスマス

 

暖炉は真っ赤に燃えている
僕たちは夜通し聖歌を歌うのさ
そして、今年のクリスマスは
僕にとってすごく特別なクリスマスになるだろう

 

ヤドリギを全部飾って
僕は君のことをもっとよくわかるようになるよ
今年のクリスマスは
そして、ツリーの飾り付けをしながら
ふたり一緒にいれば、どんなに楽しくなるだろう
今年のクリスマス


暖炉は真っ赤に燃えている
僕たちは夜通し聖歌を歌うのさ
そして、今年のクリスマスは
僕にとってすごく特別なクリスマスになるだろう

 

メリークリスマス
手をつなごう 手をつなごう さあ
あなたの兄弟、仲間たちにメリークリスマス
この国中に、、

                   (拙訳)

 

<広告>

「This Christmas」楽譜はこちら

**********************************************************************************

 

   きっとR&Bのアーティストのクリスマス・ソングの中で一番人気があって、たくさんカバーされている曲なんじゃないでしょうか。2014年にアメリカの著作権団体(ASCAP)が、アメリカで史上最も演奏されたクリスマス・ソングのランキングを発表したのですが、数あるスタンダード曲やワムやマライアの大ヒット曲に並んでこの曲は30位に入っていました。

 でもこの曲が有名になり始めたのは1990年代、発売から20年くらいたってからなんです。

 ダニーがデビューした1970年の12月にこの曲はリリースされています。シングルとしてはまだ2枚目です。まだ売れていない新人の2枚目のシングルがクリスマス・ソングというのは本当に異例なことです。クリスマス・ソングというのは、大衆に十分に人気が出たアーティストが”人気の証し”としてリリースすることが当時は普通でしたから。

 

 じゃあ、なぜダニーはクリスマス・ソングを出そうと思ったのでしょう?

 

 そこには、この曲を彼と共作したナディーン・マッキナーという女性の存在があって、彼女が大きな鍵を握っていたようです。

 

 彼女はダニーと同じくシカゴに住んでいて、当時郵便局員でした。彼女は歌詞を書くのが好きだったようでノートにたくさん書き留めていたそうです。

 そして、この「This Christmas」の歌詞は、レコードになる3年前、1967年に彼女が書いたものでした。

 

「私は(ナット・キング・コールの)”クリスマス・ソング”が大好きで、音楽が飛び交う様子、デパートのウィンドウ、サウスサイドのイルミネーション、そんなものをとらえたかったの、クリスマスのシカゴね」

 *サウスサイド・・・シカゴで黒人居住区としても長い歴史を持つエリア。

「休日の雰囲気に恋をしてる感じというか。私の子供たちがまだ小さかった頃、私はおもちゃを買いに出かけ、そのムードを楽しんでいた。それはその季節とのロマンスなの」

  (シカゴ・トリビューン Dec 20, 2017)

 

”Fireside blazing brigh” という歌詞は、離婚した両親の家を行き来しながら、彼女がその前に座った2つの暖炉からインスピレーションを得て、"I'm Gonna get to know you better"というラインは1968年にヒットしたスパンキー&アワ・ギャングの「Like to Get to Know You」 にインスパイアされたと彼女は語っています。

 

 ちなみに、彼女はダニー・ハサウェイのことはまったく聞いたことがなく、この曲はアンディ・ウィリアムスに歌ってほしいと考えていたといいます。

 

 ところが、彼女の当時のボーイ・フレンドが、ダニーと彼のビジネス・パートナーのリック・パウエルの事務所のインテリア・デザインをやっていたそうで、彼らが新しいマテリアルが必要だと話し合っているのを又聞きして、ナディーンのことを彼らに紹介したのです。そして彼女は何曲か選んで彼らに提案し、その中にこの「This Christmas」もありました。

 

 彼女はこの曲のレコーディングにも立ち会ったようで、その時のことをこう語っています。

「ダニーの仕事は、まるで、糸と色を紡ぎ織るデザイナーの仕事を見るようでした。ここではサウンドとコード・チェンジのことですが」

           (シカゴ・トリビューン Dec 20, 2017)

 

 知的で内省的で、時おり深い悲しみすら感じさせるダニー・ハサウェイの作品群の中で、この「This Christmas」の楽観性は大変異色なものですが、それはただクリスマス・ソングだったからということじゃなく、一人の郵便局員の女性がピュアにクリスマス・シーズンへの愛情をつづった歌詞が、まだ若かった彼の”明るさ”を引き出した、のだとも言えるように僕は思います。

 

 ホール&オーツの「プライベート・アイズ」などを共作したジャナ・アレンやアース、ウィンド&ファイアーの「セプテンバー」などを共作したアリー・ウィリスなど、

ポップスの歴史には、アーティストにとって”確変”となる曲を書かせるきっかけになる(それまでまったく無名の)女性が現れますが、ナディーンもそのひとりだったのかもしれません。

 

 ダニー・ハサウェイについても少し。

 彼はキャリアを通じて黒人(アフリカン・アメリカン)の人種問題を音楽に反映させてきました。しかも、それは闘争ではなく、あくまでも音楽の表現の中で平和を願い、希望と繋げようとしたものでした。彼は白人アーティストのレパートリーを、R&Bにアレンジして歌うことも得意としていましたが、音楽で人種の壁を越えようという意識があったのだと僕は思います。

  人種問題を扱った彼の代表作はこの曲でしょう。


Donny Hathaway - Someday We'll All Be Free

 いつかみんな自由になれるから、そのために自分自身を大切にして、しっかり顔を上げて自分にとって一番大切な歌を歌いながら、恐怖心にとらわれないで、自分の歩幅で歩くんだ、そういう歌です。

 

 ちなみに、この歌の中で彼は”Take It From Me” という言葉を何度も繰り返します。「僕にはちゃんとした根拠や経験があるから信じてくれていいんだよ」という意味なんですね。人に助言を求められたときに、自身の経験を基に言う時に使うことが多いようです。

 僕は英語のネイティヴじゃないのでよくわかりませんが、Believeなどを使うより、より切実で説得力のある言い方なんじゃないかと思います。

 

 さて、「This Christmas」についてですが、僕が思うのは、彼がナディーンの書いた歌詞を読んだ時に、この当時、クリスマスを楽しめるような恵まれた環境にいた黒人は決して多くなかったと思いますから、当たり前に楽しく過ごすクリスマス、こそが希望”だとおもったのではないでしょうか。

 黒人アーティストが、自然に楽しめるクリスマス・ソングを作って歌うことだけでもかなり大きな意義を感じたのだと思います。

 まだ無名の若手だった彼が、デビュー2枚目のシングルをクリスマス・ソングにした意図はそこにあったのではないでしょうか。

 

 しかしセールスとしては、曲がリリースされた直後に少しチャートに載ったくらいで、大きな反響を得ることはできませんでした。

 

 その後、彼は1972年に今なお名盤の誉れ高い「LIVE」を発表し、大学時代からの友人ロバータ・フラックとのデュオが大ヒットし、一気に注目を集めるようになります。

 しかし彼は精神的に非常に繊細だったようで、心をひどく病んでしまい、ピークにいながら1973年以降表立った活動をしなくなります。

 そして、1978年からレコーディングを再開するのですが、精神状態は安定しなかったようで順調に進まず、1979年に彼は滞在中のホテルのバルコニーから転落死してしまいます。自殺だったのではないかとも言われています。

 

 彼の死を悼んで、ザ・ウィスパーズというグループが「ソング・フォー・ダニー」という曲をリリースしたのですが、「This Christmas」の歌詞を変えたものでした。

 例えば、クリスマスがスペシャルなものに、とう箇所が、きみの音楽がスペシャルなものだった、という風に。

 

www.youtube.com

   シングルで発売されただけじゃなく、100万枚を超えた彼らの大ヒットアルバムの1曲目にも入っていましたから、歌詞は違えども曲自体はたくさんの人から聴いてもらえることができたわけです。

 

 また、僕がこの曲のストレートなカバーを初めて聴いたのはこれでした。

 アレキサンダー・オニール。1988年発表のクリスマス・アルバム「My Gift To You」に収録されています(僕の大好きなクリスマス・アルバムです)。


This Christmas

 ウィキペディアによると、1991年にダニーが在籍していたレーベル「アトコ」が1968年にリリースしたコンピレーション「Soul Christmas」を再発売するときに「This Christmas」が追加収録されたことが、再評価のきっかけになったようです。

 確かに、1990年以降一気にカバーが増えていきます。検索すると、デスティニーズ・チャイルドクリスティーナ・アギレラ、クリス・ブラウン、など錚々たる人たちのカバーが出てきます。

 このブログで紹介した「Baby ,It's Cold Outside」の歌詞修正版が入っているジョン・レジェンドのクリスマス・アルバムにもこの曲が入っています。 

 

  僕が注目したのは、去年からSpotifyで盛り上がっているという、ピンクがイメージカラーのR&Bシンガー”Pink Sweet$”によるカバー。ダニーとバーチャルでデュエットしています。


Pink Sweat$ & Donny Hathaway - This Christmas (Official Audio)

  追記:2022年11月に、彼の娘レイラ・ハサウェイが父ダニーとの”ヴァーチャル”デュエットでこの曲をリリースしましたのでそちらのMVを。

www.youtube.com

Collection

Collection

Amazon

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com