まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Kiss」プリンス(1986)

 おはようございます。

 今日はプリンス。あらためて振り返って、彼ほど革新的でクリエイティヴな人はいなかったなあと思います。

 特にこの「Kiss」を初めて聴いた時の衝撃は忘れられません。

 


Prince - Kiss (Official Music Video)

 

You don't have to be beautiful to turn me on
I just need your body, baby, from dusk till dawn
You don't need experience to turn me out
You just leave it all up to me, I'm gonna show you what it's all about


You don't have to be rich to be my girl
You don't have to be cool to rule my world
Ain't no particular sign I'm more compatible with
I just want your extra time and your kiss

 

You got to not talk dirty, baby, if you wanna impress me
You can't be too flirty, mama, I know how to undress me
I want to be your fantasy, maybe you could be mine
You just leave it all up to me, we could have a good time


You don't have to be rich to be my girl
You don't have to be cool to rule my world
Ain't no particular sign I'm more compatible with
I just want your extra time and your kiss


Yes, oh, I think I wanna dance, uh
Gotta, gotta, oh
Little Girl Wendy's Parade
Gotta, gotta, gotta


Women, not girls, rule my world, I said they rule my world
Act your age, mama, not your shoe size, maybe we could do the twirl
You don't have to watch “Dynasty” to have an attitude
You just leave it all up to me, my love will be your food


Yeah, you don't have to be rich to be my girl
You don't have to be cool to rule my world
Ain't no particular sign I'm compatible with!
I just want your extra time and your kiss

 

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    君が美しくなくたっていいんだ 僕に火をつけるのに

 ただ君のボディが欲しいのさ ベイビー 

 夕暮れから夜明けまで

 経験なんていらないよ 僕をその気にさせるのに

 僕に全部まかせて それが何かを君に教えてあげるよ

 

 君がリッチじゃなくてもいいんだ 僕のものになるには

 クールじゃなくてもいいのさ 僕の世界を支配するには

 僕と相性のいい星座なんて特にないよ

 ただ僕が欲しいのは 君との延長時間と、君のキッス

 

 

 下品な言葉は使わないで ベイビー

    もし僕の気を引きたいならね

 そんなに誘惑しなくても大丈夫さ

 服の脱ぎ方ならわかってる

 僕は君のファタジーになりたい たぶん君は僕のもの

 僕に全部まかせて 楽しめるはずさ

 

 君がリッチじゃなくてもいいんだ 僕のものになるには

 クールじゃなくてもいいのさ 僕の世界を支配するには

 僕と相性のいい星座なんて特にないよ

 ただ僕が欲しいのは 君との延長時間と、君のキッス

 

  そうさ、踊りたくなってきたみたいさ

  踊らなきゃ リトル・ウェインディのパレードさ 踊らなきゃ

 

     女性たちが ガールじゃない 僕の世界を支配する

  彼女たちが僕の世界を支配する

  年相応に振る舞うのさ  君の靴のサイズのことじゃない

  たぶん僕たち クルクルまわれるさ

   高慢になるのにTVで「ダイナスティ」を見る必要はない

   僕に全部まかせて 僕の愛が君の糧になるだろう

 

     君がリッチじゃなくてもいいんだ 僕のものになるには

  クールじゃなくてもいいのさ 僕の世界を支配するには

  僕と相性のいい星座なんて特にないよ

  ただ僕が欲しいのは 君との延長時間と、君のキッス

                          (拙訳)

 

 

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 それまで、僕はファンキーな音楽というのは、大所帯のバンドが演奏して大勢の聴衆を一斉にノせる、すなわち”多数”から”大多数”にアプローチするものだと思っていました。

 でも、この「Kiss」は”個人”から”個人”にアプローチしてノせてくるような、パーソナルなファンク・ミュージックだと感じたのです。

 しかも、イントロから始まるドラムマシーンの微妙な揺れだけで、グルーヴを感じます。すげえ、さすが天才!と当時僕はすっかり感服してしまいました。

 

 しかし、このビートを発明したのは、プリンス本人ではなかったんですね。

 

 作ったのは、プリンスのアマチュア時代から付き合いがあり、80年代の彼の作品に関わったエンジニア、デヴィッド・Z(デヴィッド・リブキン)でした。デヴィッドはプリンスがアマチュア時代からの知り合いで、彼がメジャーに売り込んだデモテープのエンジニアも務めていました。

 

  デヴィッドは1980年に全米で4週連続NO.1ヒットになった「ファンキー・タウン」で有名なリップス(Lipps.Inc)のギタリスト兼エンジニアでもありました。リップスは、プリンスがブレイクするより先に大ブレイクしたミネアポリス出身のアーティストだったんですね。

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 ちなみに、最初のオリジナルのMVはこちらだったようです。

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 当時日本ではグループ名を”リップス”と呼んでいましたが正式には”リップス・インク”、英語の発音では”リップシンク”。そう、”口パク”を意味する”Lip Sync”がバンド名の元だったそうです。

 

 当時プリンスは自分のレーベル”ペイズリー・パーク”を立ち上げ、そこから”マザラティ”というグループをリリースすることに決め、旧知のデヴィッドをプロデューサーに指名します。

 そして、彼らのシングル用にプリンスが書き下ろした曲が「Kiss」だったのです。

プリンスのデモはアコギーを弾きながら地声で歌っている、まるで”フォーク・ソング”のようなもので、一番のAメロ(Verse)とサビ(Chorus)しかありませんでした。

 そういえば、デヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」も元のデモがフォーク・ソング調でしたね。

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 プリンスのデモらしき音源がアップされていました。

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 全然ファンキーじゃない原曲をどうしようかと考えながら、デヴィッドはドラムマシーン(リン・ドラム)でいろいろ実験をしてみたそうです。

 マシーンのハイハットディレイをかけながらインプット、アウトプットのスイッチを切り替えたり、アコギをハイハットにつなげて、ハイハットをたたくたびにギターがそれに合わせてリズムをとっているように聴こえる設定にして、あの独特のリズムが生まれていったそうです。

 そして、マザラティのメンバーとほぼ一日でアレンジを仕上げたそうです。

 そして、翌日スタジオに行くと、そのデモを聴いたプリンスが自分用に作り替えていました。ベースを抜き、かわりにファンキーなギターを入れ、ファルセットでボーカルを入れたのです。

 「君たちには良すぎるから、返してもらうよ」プリンスはデヴィッドに言ったそうです。さすが殿下です。。

 

 「ビートに抱かれて(When Doves Cry)」も、もともとあったベースの音をカットしたと言われていますが、全盛期のプリンスの特徴にひとつは、グルーヴのある音楽の主役であるはずのベース・ギターが基本的に活躍しないことがあげられます。

 

 代わりに、キック・ドラムに、リヴァースという逆回し系のリヴァーブをかけること(AMS RMX16のReverse2というセッティング)で、キックとベースの両方の音を出せて、それがプリンスの象徴的なサウンドの一つになっていたとデヴィッドは語っています。

 さて、YouTubeにはマゼラティの「Kiss」もアップされています。

 


Mazarati - Kiss (outtake)

 確かにドラムマシーンのサウンドは斬新ですが、それだけじゃやっぱりダメなんですね。

 

 プリンスは曲のフックとして敬愛するジェイムズ・ブラウンのギターリフを使いました。


James Brown ~ Papa's Got A Brand New Bag (1965)

 

 デヴィッドのアレンジにインスパイアされて、1980年代版「Papa's Got A Brand New Bag」をやってみようとプリンスが思いついたのかもしれないですね。

 「Kiss」の録音で使ったトラックはわずかに9つ!だったといいます。しかも、ミックスにかかった時間わずかに5分!

 それで、究極の”ミニマニズム”ファンクが出来上がったというわけです。

 

 デヴィッドはその後、プロデューサーとしても活躍しますが、最もヒットしたのがファイン・ヤング・カニバルズの「シー・ドライヴズ・ミー・クレイジー」(1989)。やっぱり彼はインパクトのあるドラムサウンドが得意なようですね。

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ファンキー・タウン

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