まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「Kiss」プリンス(1986)

 おはようございます。

 今日はプリンス。あらためて振り返って、彼ほど革新的でクリエイティヴな人はいなかったなあと思います。

 特にこの「Kiss」を初めて聴いた時の衝撃は忘れられません。

 それまで、僕はファンキーな音楽というのは、大所帯のバンドが演奏して大勢を一斉にノせる、”多数”から”大多数”にアプローチするものだと思っていました。でも、この「Kiss」は”個人”から”個人”にアプローチしてノせるファンク・ミュージックだと感じたのです。

 しかも、イントロから始まるドラムマシーンの微妙な揺れだけで、グルーヴを感じます。すげえ、さすが天才!と当時僕はすっかり感服してしまいました。

 

 しかし、このビートを発明したのは、プリンスではありませんでした。

 作ったのは、プリンスのアマチュア時代から付き合いがあり、80年代の彼の作品に関わったエンジニア、デヴィッド・Z(デヴィッド・リブキン)でした。

  彼は1980年に全米NO.1ヒットになった「ファンキー・タウン」で有名なリップス(Lipps.Inc)のギタリスト兼エンジニアでした。リップスは、プリンスが現れる以前のミネアポリスを代表するアーティストだったんです。


Funkytown- Lipps Inc (original)

 

 当時プリンスは自分のレーベル”ペイズリー・パーク”を立ち上げ、そこから”マザラティ”というグループをリリースすることに決め、デヴィッドをプロデューサーに指名します。

 そして、彼らのシングル用にプリンスが書き下ろした曲が「Kiss」だったのです。

プリンスのデモはアコギーを弾きながら地声で歌っている、まるで”フォーク・ソング”のようなもので、一番のAメロ(Verse)とサビ(Chorus)しかありませんでした。

 そういえば、デヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」も元のデモがフォーク・ソング調でした。

 

popups.hatenablog.com

 

 

 全然ファンキーじゃない原曲をどうしようかと考えながら、デヴィッドはドラムマシーン(リン・ドラム)でいろいろ実験をしてみたそうです。

 マシーンのハイハットディレイをかけながらインプット、アウトプットのスイッチを切り替えたり、アコギをハイハットにつなげて、ハイハットをたたくたびにギターがそれに合わせてリズムをとっているように聴こえる設定にして、あの独特のリズムが生まれていったそうです。

 そして、マザラティのメンバーとほぼ一日でアレンジを仕上げたそうです。

 そして、翌日スタジオに行くと、そのデモを聴いたプリンスが自分用に作り替えていました。ベースを抜き、かわりにファンキーなギターを入れ、ファルセットでボーカルを入れたのです。

 「君たちには良すぎるから、返してもらうよ」プリンスはデヴィッドに言ったそうです。

 「ビートに抱かれて(When Doves Cry)」ももともとあったベースの音をカットしたと言われていますが、全盛期のプリンスの特徴にひとつは、グルーヴのある音楽の主役であるはずのベース・ギターが基本的に活躍しないことがあげられます。

 代わりに、キック・ドラムに、リヴァースという逆回し系のリヴァーブをかけること(AMS RMX16のReverse2というセッティング)で、キックとベースの両方の音を出せて、それがプリンスの象徴的なサウンドの一つになっていたとデヴィッドは語っています。

 さて、YouTubeにはマゼラティの「Kiss」もアップされています。

 


Mazarati - Kiss (outtake)

 確かにドラムマシーンのサウンドは斬新ですが、それだけじゃダメなんですね。

プリンスは敬愛するジェイムズ・ブラウンのギターリフをフックに使いました。


James Brown ~ Papa's Got A Brand New Bag (1965)

 デヴィッドのアレンジにインスパイアされて、1980年代版「Papa's Got A Brand New Bag」というイメージをプリンスが見出したのかもしれないですね。

 録音で使ったトラックはわずかに9!ミックスにかかった時間わずかに5分!という究極の”ミニマニスト”ポップスが出来上がりました。

 


Prince - Kiss (Official Music Video)

 

Kiss

Kiss