まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「たくさんの花(The Flowers)」Polycat(2017)

  おはようございます。

 今日は突然、タイ産のCITY POP、しかも、日本語で歌っているんです。

Polycatの「たくさんの花」です。


POLYCAT - たくさんの花 | THE FLOWERS [Official MV]

 

 このPolycatはタイのチェンマイのパブで演奏していた男性3人組で2011年に結成されています。YouTubeを見ると8000万回以上も再生されている曲もあって、なぜそこまで人気があるのかは不勉強なためわかりませんが、ともかくかなり人気があるようです。

 バンコクにもインディーズ・シーンがあって、日本の音楽を好きなバンドもいるらしく、このバンドのボーカルのNa(ナ)は、アニメ「スラムダンク」の主題歌だったWANDS「世界が終わるまでは…」をきっかけに日本の音楽に興味を持ち、好きなアルバムは山下達郎RIDE ON TIME』、安全地帯『安全地帯IV』、カシオペア『MINT JAMS』、久保田利伸『SHAKE IT PARADISE』などを挙げているそうです。

 

 2016年にリリースされたセカンドアルバム「80 Kisses」が大ブレイクし、YouTubeの再生数が多い曲はだいたいこのアルバムに収録されているものでした。

 

「Chapter 2 เวลาเธอยิ้ม | you had me at hello」

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 *2023年10月現在で1億回再生されている「มันเป็นใคร | Alright」

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 日本でもここ何年も”CITY POP”が静かにブームが続いていて、たくさん若いバンドも出てきていますが、僕はこのPolycatや以前に紹介したIkkubaruのような、東南アジア産のCITYPOPのほうになぜかシンパシーを感じてしまうんです。

 

 それはなぜなんだろう?と、僕はリアルタイムでCITY POPを好んで愛聴していた人間でもあるので自己分析してみました。

 

 シティポップって、本来AORフュージョンなどの<洋楽の背中を懸命に追いかけた音楽>なんですよね。

 <異国の文化>の憧れ、刺激されて作られていったものです。

 

 そして、それを当時の日本の経済成長が後押ししていたわけです。

  リスナーは聴きながら、東京や湘南のおしゃれなエリア、NYの摩天楼やLAの海岸エリアなどを夢想したわけです。

 

 僕は新潟で生まれ育った田舎者でしたから、都会への憧れは人一倍強かったのでもう完全にハマってしまいましたw。

 恋愛に対して甘く妄想しまう”ダサくてセンチメンタルな心情”を、シティポップと呼ばれている音楽が絶妙にくすぐってくるわけですね。

 ですから、僕のようにダサくてセンチメンタルな心情と、絵空事を妄想できる楽観性を持ち合わせた人間には、CITYPOPや AORというジャンルはとても魅力的なんです。

 

 また、作り手を見てみると、シティポップの作り手はアカ抜けた東京っ子のミュージシャンが多かったわけですが、加藤和彦細野晴臣山下達郎、、彼らにしてもアメリカやイギリスのポップスやロックに刺激され憧れて、それがモチベーションになっていたわけですよね。

 

 シティポップは<憧れ>が、動力になっている音楽なんですね。

 (これはポップミュージック全般に言えることでもあるとは思いますが、シティポップにはそれがよりはっきり表出されるように思います)

 

 それを考えると、今の日本の若い人たちは、なにより楽観的な”憧れ”を持ちづらくなってしまったのかもしれないということに、思い当たります。

 

 経済は停滞し、社会は不穏で、とても楽観的な気持ちになんてなれないでしょう。東京やニューヨークにもはや昔ほどキラキラしたものはないですしね。

 

 シティポップがブームになるきっかけになった<ヴェイパーウェイヴ><フューチャー・ファンク>など呼ばれる動きで、YouTube動画でレトロな大量消費社会をイメージした映像にシティポップの楽曲を使ったり、そのあと、日本の古いアニメにシティポップの楽曲をシンクロさせた動画がアップされていきましたが、

 これは海外の人たちが、シティポップを新鮮な異国文化として楽しむ目線があったというのが重要です。

 

 日本で暮らしていると、シティポップ的な音楽はずっと耳にしますから、そこまで新鮮なものとは受け取れないですよね。

 

 それに比べて、海外で生まれ育って、日本のアニメとリンクした形でシティポップを聴くというのは、新鮮な衝撃だったのだろうと思います。

 

 しかも、タイやインドネシアなど多くの東南アジアの国々は、経済成長を続けていて、人口の構成も若年層が圧倒的に多い”ピラミッド型”です。

 今の日本と真逆、というか、シティポップが生まれた頃の日本に似ている状況なんですよね。

 

 もちろん、PolycatもIkkubaruも、まずはメンバーたちの才能やセンスが一番評価されるべきだと思いますが、そういう環境の違いというのもすごく大きいと思います。

 

 異国の文化を”面白がって”、憧れながら、楽天的に追いかける”情熱”とそれを支える環境(かつての日本の音楽シーンが持っていたような)、それが東南アジアの音楽シーンにはあるのかもしれないと思いました。

 

 そして、当時、憧れながらシティポップを聴いていた僕は、彼らの音楽に当時の日本のシティポップに近い何かを感じとってしまったのかもしれません。

 

 とはいえ、”強い憧れ”に突き動かされているアーティストや作品はやっぱりいいですよね。

 

 ポップな曲、メロディアスな音楽がどんどん減っていってるのは、社会から楽観性が消え”憧れ”が持てなくなってきたからかな、などとも考えてしまいます。

 そういう音楽がアメリカから真っ先に消えていき、日本もそうなってきているからです。

 <憧れ>はポップスのみならず、あらゆるエンタテインメントの”エンジン”だと僕は思うので、この社会でどうやって<憧れ>を生み出し続け、まわしていくのか、はとても大きな命題だと思えます。

 

 

 最後に「たくさんの花」が収録されているPolycatの「土曜日のテレビ」からもう1曲「君のピアス」を。

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