まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ふたりだけの夜(STEAL AWAY)」ロビー・デュプリー(1980)

 おはようございます。

 今日はロビー・デュプリーの「ふたりだけの夜(STEAL AWAY)」です。

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Come on and hold me
Just like you told me
Then show me
What I want to know


Why don't we steal away
Why don't we steal away
Into the night
I know it ain't right


Don't tease me
Why don't you please me
And show me
What you came here for


Why don't we steal away
Why don't we steal away
Into the night
I know it ain't right


Into the night, babe
Baby, tonight

I caught you glancing my way
And I know what you're after
No second chances tonight

 

Why don't we steal away
Why don't we steal away
Why don't we steal away
Why don't we steal away

 

Into the night
I know it ain't right
Into the night
I know it ain't right

Why don't we steal away
I know it ain't right
Into the night, babe


Why don't we steal away
Make it tonight
Why don't we steal away

***********************

さあ、抱きしめてくれ
君が僕に言ってくれたように
そして見せてほしい
僕が知りたいことを


こっそり抜け出そうよ
一緒に逃げ込もうよ
夜の中へ
よくないことだってわかっているさ


僕をからかわないで
どうして喜ばせてくれないの
そして見せてほしい
何のために君がここに来たのか

 

こっそり抜け出そうよ
一緒に逃げ込もうよ
夜の中へ
よくないことだってわかっているさ

 

夜の中へ、ベイビー、今夜

 

君は僕の方をチラッとみてたね
それで君が何を求めているのかわかった
チャンスは二度とないんだ 今夜

 

こっそり抜け出そうよ
一緒に逃げ込もうよ

こっそり抜け出そうよ
一緒に逃げ込もうよ

 

夜の中へ
いけないことさ
夜の中へ
わかっているさ

 

こっそり抜け出そうよ
いけないことだとわかってる
夜の中へ、ベイビー


こっそり抜け出そうよ
実行するのさ今夜
こっそり抜け出そうよ                (拙訳)

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 この曲を初めて聴いた時、ドゥービーブラザーズの「ある愚か者の場合」のまんまパクリじゃないか!と一瞬憤慨したのですが、何度か聴いていくうちにこれはこれでいいかもなあ、などと結構好きになってしまったことを覚えていますw。

 

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  ウィキペディアによると、当時ロサンゼルス・タイムの記事でこの曲について”「ある愚か者の場合」を”あからさまに、軟弱にしたパクリ”と書かれていたそうで、ワシントン・ポストでは両方の曲のボーカル・スタイルとバッキングのキーボードの相似点を指摘しながら、「ある愚か者の場合」を作ったマイケル・マクドナルド音楽出版社が法的措置をとろうとしているが、マイケルはその意思はないと報じていたそうです。

  当時のドゥービーのマネージメントは、デュプリーの音楽的な誠実さ(integrity)に敬意を表するのと、マイケル・マクドナルドは”騒ぎを起こしたくないから、とその理由を語っていたようです。

 

 それに加えて、これは僕の推測ですが、「ある愚か者の場合」の記事でも書きましたが、「ある愚か者の場合」もキャプテン&テニールの「愛ある限り」にインスパイアされて作ったからだと思います。

 

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 「ふたりだけの夜」と「ある愚か者の場合」はメロディーそのものはほとんど似ていなくて、パクリだと思ってしまう一番の要因はキーボードのリフなんですね。

 そして、「ある愚か者の場合」も「愛ある限り」のキーボードのリフにインスパイアされている。

 インスパイアのされ方が一緒だから、マイケルはロビーを訴えなかったのだと思います。そういうことまで”パクリ”だと言われたら作曲なんてできないでしょう。

 

 ただ、「ふたりだけの夜」の大サビは明らかにマイケル・マクドナルド調のコーラス・ワークになっていて(「Open Youe Eyes」という曲とか)、ロビー本人も、長い間「ふたりだけの夜」のバックコーラスにマイケル・マクドナルドがいるんじゃないか?とたくさんの人に言われたそうです。

 バックコーラスの声がマイケルに似ているとは思わないと彼は言っているが、声が似ているんじゃなくてコーラス・アレンジがそっくりだから、マイケルがいるように思われるわけで、そのあたりも本当はわかってるくせに~ と思うのですが(苦笑。

 

 まあ「愛ある限り」から「ある愚か者の場合」を作ったことに比べると、「ある愚か者の場合」から「ふたりだけの夜」を作ったというのは、とオリジナリティという点ではは数段落ちるかな、とは僕は正直思います。

 でも、なんか不思議と好感を持ってしまう曲なんですね。悪質で安直なパクリだったらやっぱり訴訟になっていたような気がします。ロビーの音楽性の確かさや曲に滲み出るパーソナリティもあるのでしょうか。

 

 「ふたりだけの夜」のヒットを受けて、彼はファーストアルバムを録音し一旦完成しますが、もう1曲ヒットしそうな曲が欲しいというエンジニアの提案で、エンジニアの知り合いであるビル・ラヴァウンティを急遽呼び出し、彼のストックからセレクトし二十四時間で録音したというのが、次のシングル「ホット・ロッド・ハート(HOT ROD HEARTS)」でした(全米15位)

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  こちらのアレンジも「ある愚か者の場合」のバリエーションですね。

 それから、僕の推測ですが、「ふたりだけの夜」と「ロッド・ホット・ハート」によって、「ある愚か者の場合」のリフがますますいろんな曲に使われるようになったんじゃないかと思うんです。マイケル・マクドナルドのキーボードのリフを、もっとメロディアスなオーソドックスな曲にちょっと入れ込むと、絶妙な”つかみ”になる、という方法論を実践してみせたわけですから。

(僕が日本の曲で最初にこのパターンを使ってることに気づいたのは、竹内まりやの「二人のバカンス」でした)

 

 「ふたりだけの夜」と「ホット・ロッド・ハート」を聴くと、彼は典型的な西海岸野郎、サーフィンでも楽しんでそうな人物をイメージしてしまいますが、実はニューヨークのブルックリン出身、幼い頃からマーヴィン・ゲイカーティス・メイフィールドアイズレー・ブラザーズなどのR&Bにどっぷりハマっていたそうです。

 ですから、1990年代以降の彼の作品ではかなり都会的で、ブルー・アイド・ソウルっぽい曲を楽しむことができます。

 しかし、2010年代から起こった"ヨット・ロック”(AOR周辺の音楽をちょっとパロディも含めて再定義したもの)のブームで彼も復活し、ヨット・ロックのアーティストを集めたツアー”ヨット・ロック・レヴュー”にも参加し、この曲を全米各地で歌っていたようです。

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 とにかく、この曲はアメリカではオンエア数が300万回を超える堂々たるラジオ・クラシックスになっています。

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