まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「エスケイプ(Escape(the Pina Colada Song)」ルパート・ホームズ(1979)

 おはようございます。

 ルパート・ホームズの「エスケイプ」。

 全米NO.1ヒットにもなったキャッチーなポップ・ソング。歌詞がわからなくても楽しめますが、歌詞がわからなかったら”もったいない”曲です。

 それは、この曲の歌詞のストーリーにオチがあるんです。O・ヘンリーを当時のニューヨーク風にアップデートした短編小説といった感じです。


www.youtube.com

 

I was tired of my lady
We'd been together too long
Like a worn out recording
Of a favorite song
So while she lay there sleeping
I read the paper in bed
And in the personal columns
There was this letter I read:


"If you like piña coladas
And getting caught in the rain
If you're not into yoga
If you have half a brain
If you like making love at midnight
In the dunes on the cape
Then I'm the love that you've looked for
Write to me and escape"

 

I didn't think about my lady
I know that sounds kind of mean
But me and my old lady
Had fallen into the same old dull routine
So I wrote to the paper
Took out a personal ad
And though I'm nobody's poet
I thought it wasn't half bad:


"Yes, I like piña coladas
And getting caught in the rain
I'm not much into health food
I am into champagne
I've got to meet you by tomorrow noon
And cut through all this red tape
At a bar called O'Malley's
Where we'll plan our escape"


So I waited with high hopes
And she walked in the place
I knew her smile in an instant
I knew the curve of her face
It was my own lovely lady
And she said, "Aw, it's you"
Then we laughed for a moment
And I said, "I never knew..."

 


"...That you like piña coladas
And gettin' caught in the rain
And the feel of the ocean
And the taste of champagne
If you like making love at midnight
In the dunes on the cape
You're the lady I've looked for
Come with me and escape"


If you like piña coladas
And getting caught in the rain
If you're not into yoga
If you have half a brain
If you like making love at midnight
In the dunes on the cape
Then I'm the love that you've looked for
Write to me and escape


Yes, I like piña coladas
And getting caught in the rain
I'm not much into health food
I am into champagne
I've got to meet you by tomorrow noon
And cut through all this red tape
At a bar called O'Malley's
Where we'll plan our escape

*******************************************************************

僕の妻にうんざりしていたんだ
もうずいぶん長く連れ添ったしね
磨り減ったレコードみたいさ
お気に入りの歌だったけど
だから、彼女が眠っている間
僕はベッドで新聞を読んでいた
そして、読者のコラムの欄に
こんな投稿があったのさ


"もしピニャ・コラーダと
雨に降られるのがお好きなら
もしヨガに夢中になれないなら
もし少しでも常識をお持ちなら
もし真夜中に愛を交わすのがお好みなら
岬の砂丘とかで
だったら、私こそがあなたが探していた相手です
私に手紙を書いて、一緒に逃げ出しましょう"

 

妻のことは気にかけていなかったのさ
ひどいやつに聞こえるだろうが
だけど、僕と古女房は
同じような退屈に繰り返す日常にハマりこんでいた
だから新聞に手紙を書いて
個人的な広告を出したんだ
僕は詩人でもなんでもないけど
けっこうイケてるって思ったよ


"そう 僕はピニャ・コラーダが好きだ
雨に打たれるのもね
健康食品にはあまり好きじゃない
シャンパンが大好きさ
明日の正午までに君に会わなくちゃ
面倒な段取りなんて省略して
オマリーズというバーでどうかな
そこで脱出計画をたてるんだ


それで、期待に胸を膨らませて待っていると
彼女がそこにやってきた
僕は一瞬で彼女の笑顔に気づいた
彼女の顔の曲線を知っていた
それは僕の愛しい女性だった
そして、彼女は言った "ああ、あなたなのね"
僕たちはしばらく笑った後
そして僕は言ったのさ "全然知らなかったよ.."

 


君がピニャコラーダが好きだってこと
雨に打たれることが好きなのも
広い海の感じやシャンパンの味が好きなことも
もし真夜中に愛を交わすのが好きなら
岬の砂丘
君こそが僕の探していた女性さ
僕と一緒に逃げ出そう

 

"もしピニャ・コラーダと
雨に降られるのがお好きなら
もしヨガに夢中になれないなら
もし少しでも常識をお持ちなら
もし真夜中に愛を交わすのがお好みなら
岬の砂丘とかで
だったら、私こそがあなたが探していた相手です
私に手紙を書いて、一緒に逃げ出しましょう"

 

"そう 僕はピニャ・コラーダが好きだ
雨に打たれるのもね
健康食品にはあまり好きじゃない
シャンパンが大好きさ
明日の正午までに君に会わなくちゃ
面倒な段取りなんて省略して
オマリーズというバーでどうかな
そこで脱出計画をたてるんだ”               (拙訳)

*******************************************************************

 

 主人公は長く一緒にいすぎたせいで奥さんにすっかり飽きてしまった男。奥さんの方も同じ。彼はベッドの横で彼女が寝ている時、新聞の個人広告欄で恋人募集の記事を発見します。

「ピニャコラーダが好きで、雨に濡れるのがキライじゃなくて、ヨガなんかにハマっていなくて、ちゃんとまともで、そして真夜中の岬の砂浜で愛し合ってくれる人、あなたが探しているの人は私です。連絡ください、そして今の生活から抜け出しましょう」

 彼は「僕はピニャコラーダが大好きです、、、お会いして、逃避行のプランを立てましょう」などと彼女に連絡し、待ち合わせの店を決めます。

 そして、待ち合わせの日、ワクワクしながら店で待っていると、なんと現れたのは彼の奥さん。

 えっ、君はピニャコラーダが好きだったの?知らなかった

 やっぱり君こそ僕が探してた人だったんだね、さあ、逃避行に出発しよう!

 というハッピーエンドのオチがつくわけです。

 この場合、自分のことを棚に上げて”あなた浮気しようとしてたのね!”などとモメる夫婦もいそうですけど、、、まあ、お互い後ろめたいわけですしね。

 それに、もともと昔はすごく愛し合っていたわけで、奥さんとの関係を

 聴きすぎてレコードが擦り切れてしまった一番好きな歌みたい

(Like a warn out recording of a favorite song)

  などと実に上手い表現をしているほどです。

 

 こういうストーリーの面白さというのももちろんヒットの要因ですが、一番のきっかけはサビで出てくる「ピニャコラーダ」という言葉だったようです。

 ピニャコラーダは、カリブ海発祥のカクテル。ジンベースでパイナップルにココナッツジュース、そこに氷を入れてシェイクして作ります。

 

 最初は「それがジャングルの掟(It's the Law of the Jungle)」という歌詞だったのですが、それを「もしあなたがハンフリー・ボガート(映画「カサブランカ」で有名な渋い俳優)が好きなら(If You like Humphrey Bogart)」に変えて、それでレコーディングに臨んだそうです。

 

 しかし、歌う直前になって彼は、主人公は浮気相手と南国にバカンスに行こうとする話なんだから、きっとそこで南国っぽいお酒を注文するだろう、と思いはじめ、あれこれカクテルを思い浮かべたあとピニャコラーダならハマる、となり急遽歌詞を変更したそうです。そして、それに合わせてアレンジも南国っぽい味付けを加えようということになります。ハンフリー・ボガートのままだったら、サックス・ソロが入ったりロックっぽいギター・サウンドになって全然違うサウンドになっていたと彼は語ります。

 

 そして、この曲をプロモーションした時に、ラジオ局の関係者もリスナーも”ピニャコラーダの歌”として認識していることがわかり、慌ててレコード会社が曲の副題に「ピニャコラーダ・ソング」とつけて発売し直すと、一気にヒットしたそうです。

 歌入れ直前に閃いた「ピニャコラーダ」が、ヒットに導いたわけです。

 そういうちょっとした”さじ加減”で大きく運命が変わる、というのもポップ・ミュージックの面白さでもあります。

 ちなみにルパート・ホームズは当時はおろか今に至るまでピニャコラーダを飲んだことはないらしいです。祝杯ぐらいしてもよかったのにとも思いますが、、。

 

 生粋のニューヨーカーのイメージが強いルパート・ホルムズは、実はイギリス生まれで3歳からニューヨークに移住したそうです。3歳以降ということは、彼のパーソナリティのかなりの部分はニューヨークで培われたものでしょうが、根っこにはイギリス人らしい気質もあるのかもしれません。

 

  様々なスタジオ・セッションに参加し、ソングライターやアレンジャーとしてもスマッシュヒットを飛ばした彼は1974年にアルバム「Widescreen」でメジャー・デビュー、このアルバムはセールス的には成功しませんでしたが、バーブラ・ストライサンドが気に入り、彼女のアルバムのプロデューサーに抜擢されます。それが、1975年の「Lazy Afternoon(まどろみの昼下がり)」です。エンジニアでもあるジェリー・レッサーと共同プロデュースを手がけた彼はアルバム全曲のアレンジも手がけています。

 その中から1曲。シングルにもなっていませんが、ポール・ウィリアムス&ロジャー・ニコルズの作品でルパートのアレンジというのがレアな「I Never Had It So Good」という曲です。


www.youtube.com

 

 当時最高の歌姫のプロデューサーという称号を得て、彼はプロデュース業に励みながら自身のソロ作品も1978年までに計4枚リリースしていきますが、セールス的には成功しませんでした(4枚のアルバムは”プレAORAOR”の隠れた好盤として現在では評価されています)。

 

 そしてそんな彼をソロ・アーティストとしてブレイクさせたのがこの「エスケイプ」でした。しかし、彼はこの曲が大ヒットするなどとは微塵にも思わなかったようで、

ファースト・シングル向きなのはセカンド・シングルの「ヒム(Him)」(1980年全米6位)だと信じていたそうです。

 


www.youtube.com

 

  僕はアメリカのドラマや映画をよく観るのですが、この「エスケイプ」が今だによく使われるんですよね。

 ちょっと気になってSpotifyを見てみたら再生回数がなんと約4億4千万回!とんでもない定番曲になっていました。。

 

 

 

 

グレイテスト・ヒッツ

グレイテスト・ヒッツ

Amazon