まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「素晴らしき恋人たち (Wives & lovers)」ジャック・ジョーンズ(1963)

 おはようございます。

今日はジャック・ジョーンズで「素晴らしき恋人たち」です。


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Hey, little girl
Comb your hair, fix your make-up
Soon he will open the door
Don't think because
There's a ring on your finger
You needn't try any more

For wives should always be lovers, too
Run to his arms the moment he comes home to you
I'm warning you

Day after day
There are girls at the office
And men will always be men
Don't send him off
With your hair still in curlers
You may not see him again

For wives should always be lovers, too
Run to his arms the moment he comes home to you
He's almost here

Hey, little girl
Better wear something pretty
Something you'd wear to go to the city
And dim all the lights
Pour the wine, start the music
Time to get ready for love

 

Oh, time to get ready
Time to get ready
Time to get ready
For love

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ヘイ、お嬢さん

髪をとかし 化粧を直すんだ

もうじき彼がドアを開けるよ

考えなくていい だって

君の指にはリングがある

これ以上何もやることはないさ

 

妻はいつだって恋人でもなくちゃいけない

彼が家に帰ってきた瞬間、彼の腕に飛び込むんだ

忠告しておくよ

来る日も来る日も

オフィスには女の子たち

男はいつだって男なんだ

髪にカーラーをつけたまま

彼を送り出しちゃダメだよ

もう彼には会えないかも

妻はいつだって恋人でもなくちゃいけない

彼が家に帰ってきた瞬間、彼の腕に飛び込むんだ

もう直ぐ帰ってくるよ

 

ヘイ、お嬢さん

何か可愛い服を着た方がいいよ

街に出かけるときに着るようなやつをね

家中の灯りのトーンを落として

ワインを注いで、音楽をかけて

恋の準備にとりかかるんだ

準備にとりかかるんだ

恋の準備にとりかかる時間だよ      (拙訳)

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  この曲は映画はジャネット・リーが主演したコメディ映画「Wives &Lovers」の宣伝用にバート・バカラックとハル・デイヴィッドが依頼されて作ったものです。

 (しかし、バカラックが当時他の映画スタジオと契約があったため、この曲は劇中では使われませんでした)

 

 歌っているジャック・ジョーンズは1960年代にアメリカで人気のあったポピュラー・シンガーで、ジャズとポップスのちょうど中間のスタイルを持っていました。

 全米100位以内に入った曲が20曲もありながら、日本での知名度がいまいち低いのは、TOP10ヒットが1曲もないという”決定打不足”のためなのかもしれません。

 

 そんな彼の最大のヒットがこの「素晴らしき恋人たち」で、全米最高14位まであがり、1964年のグラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスも受賞しています。

 

  ジャック・ジョーンズは父親が俳優でシンガー、母親が女優という芸能一家で育ち、彼は1957年19歳でレコード・デビューしていますが、なかなかヒットに恵まれませんでした。

 そして、彼の念願の初ヒットはデビューから5年後の1962年「ロリポップス・アンド・ローゼズ(Lollipops and Roses)」という曲です。全米チャートは66位でしたが、アダルト・コンテンポラリーチャートでは6位になっています。

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  そしてこの曲を”売った”のは、のちに大プロデューサーになるトミー・リピューマだったそうです。

 レコード倉庫での配送の仕事からはじめ、プロモーション・マンになったトミーはアルバムに入っていたこの曲を気に入りラジオのDJに対して宣伝しはじめ、そのことを上司に伝えると、その上司が今度はレコード会社の本部にそれを報告したことで、この曲はシングル発売されることになったそうです。

 そして、この曲のヒットにより彼は、「素晴らしき恋人たち」の2年前の1962年にもグラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスを受賞しています。

 

 彼の最大のアイドルはフランク・シナトラだったそうで、彼の真似ばかりしていたと語っていますが、そのシナトラもこの曲をカバーしています。カウント・ベイシー・オーケストラと一緒にやっています。プロデュースはクインシー・ジョーンズ

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 ワルツだった曲が4分の4拍子にアレンジされていて、驚いたバカラックはクインシーに電話をして問い詰めたところ、

「『バート、ベイシーのバンドは4分の3拍子が弾けないんだ』との答えが返ってきた」

  (「バート・バカラック自伝 ルック・オブ・ラブ」)

 

 

 僕は曲を聴いている時にダイレクトには英語が入ってこないので、この曲は昔からバカラックらしいオシャレな曲だなと思ってけっこう気に入っていたのですが、あらためて歌詞を訳してみてちょっとびっくりしました。

 女性に向かって、きれいにしておかないと旦那さんに逃げられるぜ、なんて歌詞を、今の世の中で歌ったら大変な問題になるだろうな、と思ったんです。

 しかし、調べてみると、今の世の中じゃなくとも、かなり昔からジャック・ジョーンズはこの曲が原因で非難されていたようです。

 自身のレパートリーで一番好きな曲は何かという質問に対して彼はこう答えています。

 「僕のお気に入りの曲は『素晴らしき恋人たち』じゃないんだ、だってこの曲は笑いを起こすか、誰かに拳を振り上げさせるから。全米女性同盟(the National Organization for Women)が結成された時、彼女たちは怒って全て僕の責任にしたんだ。僕は曲すら書いていないのに。グラミーをとったから」

 (自身のHPでのインタビュー June 22, 2012)

 

 全米女性同盟は1966年に結成されているので、曲がヒットして2年後にはもう非難されはじめていたんですね。

 そこで彼はステージでは”差別的な(politically incorrect)歌です”などと最初に免責事項を言ってから歌い始めたり、それからは新しい歌詞に変えたりしたそうですが、それは全く無駄だったと語ります。 

 新しい歌詞とは、例えば"Hey little girl, Comb your hair, fix your makeup. "を" Hey, little boy, cap your teeth, fix your hairpiece(つけ歯をして、かつらを直して)"という風におっさんの自虐ネタにもっていったりしたそうです。まあ、どう考えてもそれが本質的な解決になるとは思えませんけどね。

 

 最大のヒット曲でグラミー賞までとり、自身の地位を築いてくれた作品が、時とともにどんどん”politically incorrect”になってしまうというのも、当人としてみたらなかなか複雑なものだと思いますが、ポップソングは時世を映し出すものですから、そういうことは往往にして起こりうるものなんでしょう。

 

 歌詞はともかく、曲としてはバカラックらしい妙味がよく出ているものだけに、たくさんのアーティストがカバーしています。

 

 その中から、新しめで、女性が歌っているものを最後に。

 イギリスのシンガー、ルーマーのバカラックのカバー・アルバム「This Girl's In Love(A Bacharach & David Songbook)」から。

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