まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「三月の雨(三月の水)(Águas de Março)」エリス・レジーナ&アントニオ・カルロス・ジョビン(1974)

 おはようございます。

 今日はエリス・レジーナアントニオ・カルロス・ジョビンでボサノバの名曲中の名曲「三月の雨」です(少し前までは「三月の水」と呼ばれることのほうが多かったですが。。)


Elis Regina & Tom Jobim - "Aguas de Março" - 1974

********************************************************************************

それは小枝、それは石 それは道の終わり

残された切り株 ちょっとさみしい

ガラスの破片 

それは人生 それは太陽 それは夜 それは死

それはワナ それは釣り針

野に繁るペローパの樹  木の節目

カインガ、カンデイア、それはマチッタ・ペレイラ

 

それは風車 峡谷の滝

それは深い謎 あなたが望もうと、望むまいと

それは吹く風 坂道の終わり

それは梁(はり)それは窓を開けた空間

家の新築パーティ

 

それは降る雨 それは、三月の水の川辺の会話

苦労の終わり

それは足 それは地面 道路を歩く

手の中の小鳥 ぱちんこの石

それは空の鳥 地上の鳥 それは小川 それは泉

一切れのパン

それは井戸の底 それは道の終わり

嫌悪感の浮かぶ表情 少しさみしい

 

それは鋭い杭 釘 それは先端 それは点

落ちる水滴   それは記録、そして物語

それは魚 それはジェスチャー 銀色のきらめき

朝の光 届いたレンガ

 

それは薪 その1日 痕跡の終わり

それはサトウキビジュースの瓶 破片が道に

それは家の設計図 それはベッドの体 

それは動かない車 それは泥、それは泥

 

それは足あと それは橋

それはヒキガエル それはアマガエル

されは森の跡 朝の光の中で

それは三月の水、夏を終わらせる

それは人生の約束 あなたの心の中に

 

それは蛇 それは小枝 それはジョアン それはジョゼ

それは手に刺さったトゲ 足の切り傷

それは三月の水、夏を終わらせる

それは人生の約束 あなたの心の中に

 

それは小枝、それは石 それは道の終わり

残された切り株 ちょっとさみしい

それは足あと それは橋

それはヒキガエル それはアマガエル

美しい地平線 マラリア

それは三月の水、夏を終わらせる

それは人生の約束 あなたの心の中に      

 

(拙訳。ポルトガル語はほとんどわからないため、ポルトガル語の英語訳を主に参考に、ポルトガル語翻訳ソフトと照らし合わせながらやってみたので、クオリティには自信がありません、、)

*********************************************************************************

"É pau, é pedra,  é o fim do caminho
É um resto de toco, é um pouco sozinho

É um caco de vidro, é a vida, é o sol
É a noite, é a morte, é o laço, é o anzol

É peroba do campo, é o nó da madeira
Caingá candeia, é o matita-pereira

É madeira de vento, tombo da ribanceira
É o mistério profundo, é o queira ou não queira

É o vento ventando, é o fim da ladeira
É a viga, é o vão, festa da cumeeira

É a chuva chovendo, é conversa ribeira
Das águas de março, é o fim da canseira

É o pé, é o chão, é a marcha estradeira
Passarinho na mão, pedra de atiradeira

É uma ave no céu, é uma ave no chão
É um regato, é uma fonte, é um pedaço de pão

É o fundo do poço, é o fim do caminho
No rosto o desgosto, é um pouco sozinho

É um estrepe, é um prego, é uma ponta, é um ponto
É um pingo pingando, é uma conta, é um conto

É um peixe, é um gesto, é uma prata brilhando
É a luz da manhã, é o tijolo chegando

É a lenha, é o dia, é o fim da picada
É a garrafa de cana, o estilhaço na estrada

É o projeto da casa, é o corpo na cama
É o carro enguiçado, é a lama, é a lama

É um passo, é uma ponte, é um sapo, é uma
É um resto de mato, na luz da manhã

São as águas de março fechando o verão
É a promessa de vida no teu coração

É uma cobra, é um pau, é João, é José
É um espinho na mão, é um corte no pé

São as águas de março fechando o verão
É a promessa de vida no teu coração

É pau, é pedra, é o fim do caminho
É um resto de toco, é um pouco sozinho

É um passo, é uma ponte, é um sapo, é uma
É um belo horizonte, é uma febre terçã

São as águas de março fechando o verão
É a promessa de vida no teu coração"

*********************************************************************************

 コラージュのように、目に映るイメージを ただただ並べてゆく独特の歌詞で、これはジョビン本人が歌詞も書いています。

 三月はブラジルのリオデジャネイロで雨の多い月(12月〜4月くらいが雨季)で、その雨は夏の終わりを告げるものと言われることもあるようです。

 原題の"Águas de Março"は英語直訳では”Waters of March"。それで、当初邦題が「三月の水」としたのでしょう。"Água de Beber"は「おいしい水」という邦題でしたし。しかし日本人には「おいしい水」は理解できても「三月の水」って何?ということになりますよね。

 そこで、雨季である三月のことを歌っているのはあきらかですので「三月の雨」というタイトルで表記することが増えてきたのでしょう。

 

 ブラジル音楽の第一人者中原仁さんのブログではオラヴォ・ビラッキという詩人の作品にこの曲はインスパイアされているらしく、その詩には"Águas de Março"という言葉が出てくるそうです。

 中原仁さんのブログ

 

 同じくジョビンが作詞作曲した「バラに降る雨」の原題は"Chovendo na Roseira"でChovendo=雨という言葉を使っていますので、「三月の雨」の雨はただの雨ではなく、”雨がもたらす水の総体”(なんだかよくわからない表現ですがw)を指すように僕は思います。

 

 降りしきる雨だけではなく、それによって水かさを増して流れる川までをふくめているから、”雨”じゃなく”Águas "(Waters)という水の複数形だったのではないかと(複数形では主に海や水域を指すようです)。ひょっとして、雨によって濡れたあらゆるもの、例えば太陽の光に照らされきらめいている葉っぱや家の窓の水滴までも、このWatersに含まれているような気もします。そして、そういう見方をジョビンはオラヴォ・ビラッキの作品からインスパイアされたのかもしれません。

 なので、僕が考えるこの曲の日本語タイトルは「三月の雨がもたらす水たち」。う〜ん、すっきりしませんね、、。

  

 さて、この曲は彼が1972年にリリースするアルバム「マチッタ・ペレー」のタイトル曲となる大曲「マチッタ・ペレー」に取り組んでいるときに、不意に浮かびギターで一晩で書イントロやいくつかのフレーズを書き、そのあとスタジオで一気に仕上げたと言われています。ずっととりかかっていた難易度の高い大曲を作るストレスから少し離れて、リラックスしたことで、ブラジル音楽を代表する名曲が生まれた、というわけなんですね。

 

 「マチッタ・ペレー」


Matita Pere

 

  この曲が最初の収録されたのは、1969年に創刊され1970年代半ばまで続いたタブロイド紙Pasquim」が音楽ビジネスに進出するために企画されたレコードで、中原さんのブログによると、薄い冊子の中にレコードが入っている形態で、新聞スタンドで販売されたのではないかということです。

 これは新しい才能を紹介する意図があったようで、レコードの片面が当時の新人の曲(ジョアン・ボスコ)、そして、売り上げのためにもう片面は有名人の曲を入れようということで、ジョビンに依頼があった、というわけです。

 ちなみに、この「三月の水」の初録音ヴァージョンはテンポがかなり速いです。


1972 Aguas de Março (Tom Jobim) - Disco de bolso 🎧

 

 そして、その後この曲をブラジル最高の歌姫エリス・レジーナが最初にカバーします。


Águas De Marco

 

 そして、ジョビンはアルバム「マチッタ・ペレー」用にあらためてこの曲を録音します。


Águas De Março

 

 そして、ジョビンとエリスの二人が共演したヴァージョン(1974年リリースの「エリス&トム」に収録)が、この曲の決定盤と呼ばれるようになります。

 また、これと並び称されるのが、ジョアン・ジルベルトの1973年のカバーです。


João Gilberto - Águas de Março

 

 この曲は”フォーリャ・ジ・サンパウロ”という新聞が200人のジャーナリストに”史上最高のブラジルの曲”のアンケートをとった結果、堂々1位、ブラジル版「ローリングストーン」誌の同様の企画では第2位と、”国民的名曲”の座を不動のものにしています。

 

 また英語圏でも大変人気で英語の歌詞のカバーもたくさんありますが、その中からちょっとマニアックですが、ジャズ・シンガー、マーク・マーフィーの1978年のカバーを最後にどうぞ。


Waters Of March

 

三月の水

三月の水

Amazon

 

 

ジョビンの名曲。

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

f:id:KatsumiHori:20210313142730j:plain

 

*追記:日記ブログはじめました。こちらでは本や映画などについても書いています

voz.hatenablog.com