まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「よくあることサ(It's Not Unusual)」トム・ジョーンズ(1965年)

 おはようございます。

 今日は21世紀に入って、日本でいくつかのCMに使われて再び脚光を浴びたトム・ジョーンズの「よくあることサ」です。


It's Not Unusual

 

It's not unusual to be loved by anyone
It's not unusual to have fun with anyone
But when I see you hanging about with anyone
It's not unusual to see me cry
Oh, I wanna die


It's not unusual to go out at any time
But when I see you out and about it's such a crime
If you should ever want to be loved by anyone
It's not unusual


It happens every day, no matter what you say
You find it happens all the time
Love will never do, what you want it to
Why can't this crazy love be mine?

 

It's not unusual, to be mad with anyone
It's not unusual, to be sad with anyone
But if I ever find that you've changed at anytime
It's not unusual to find out I'm in love with you
Whoa-oh-oh-oh-oh

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誰かから愛されることはめずらしいことじゃない
誰かと楽しく過ごすことはよくあることさ
でも、キミが誰かと一緒のところを見たら
泣いてる僕を見るのも めずらしくはない
ああ 死んでしまいたいよ

 

いつ出かけてもおかしくはないさ
だけど、キミを外で見かけたら、それは酷いことさ
誰かに愛されたいと思ったら
それはよくあることさ

 

それは毎日起こるものさ、キミがなんと言おうとね
いつも起こることだって君もわかるよ
愛は決してしてくれないのさ 君が望むことを
どうして、このイカれた愛は 僕のものにならないんだ?

 

誰かに怒るのはめずらしいことじゃない
誰かに悲しくなることはよくあることさ
だけど、いつだって君が変わってしまったことに気づいたら
君に恋してることに気づいてもおかしなことじゃないさ

 

                         (拙訳)

 

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「よくあることサ(It's Not Unusual)トム・ジョーンズ」の楽譜はこちら

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 この曲はもともとはサンディ・ショーというイギリスの女性シンガーのために書かれたものでした。彼女は1964年にバート・バカラックの「(There's) Always Something There To Remind Me」(邦題は「恋のウェイトリフティング」!)で大ヒットを飛ばしたばかりでした。

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 しかし、この曲のデモを聴いた彼女は”誰が歌っているにしろ、この曲はこの歌手のものよ”と言って断ったのだそうです。それだけこの曲とデモを歌っていた歌手は見事にハマっていたんですね。

 

   (*ちなみに、デモの歌が良過ぎて、提案された歌手が歌うのを拒んでしまうということは、日本でも全然”よくあることサ”なんです。

 僕は作曲家のマネージメント的な仕事を長くやっているのですが、デモ・シンガーは重要なポイントです。もちろん歌がうまくなければいけませんが、逆にうますぎたり、自分のスタイルが強すぎる人は敬遠されがちなんです。)

 

 さて、実はこのデモを歌っていたのがトム・ジョーンズだったんです。

 

 ウェールズ出身の彼はトミー・スコット&セネターズというグループで歌っていたところをマネージャーのゴードン・ミルズに見出され、ウェールズからロンドンに移ります。

 彼の本名がトーマス・ジョン・ウッドワードだったことと、当時有名な小説を映画化した「トム・ジョーンズの華麗な冒険」が大ヒットしていたことから、芸名を”トム・ジョーンズ”にしました。

 そして二枚目のシングルがこの「よくあることサ」で、全英1位、全米10位の大ヒットになり、彼は一躍スターになります。

 この曲は、レス・リードとマネージャーのゴードン・ミルズの共作。ゴードンは作詞作曲もできました。アレンジはレス・リードが担当しました。

 

 レス・リードはこの年の翌年、1966年にはカーペンターズのカバーでも有名なこの曲を書いています。

 ハーマンズ・ハーミッツ「見つめあう恋(There's a Kind of Hush)」

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 ちなみに、「よくあることサ」のレコーディングにレッド・ツェッペリンジミー・ペイジが参加していたと言われていて、彼のWEBのセッションの一覧にも掲載されているのですが、レス・リードはそれを否定しているので真偽は定かではありません。

 

 しかし、このレコーディングには、別の超大物が参加していたことがわかっています。それが、まだデビュー前のエルトン・ジョンでした。

 

 トム・ジョーンズの使っていたキーボーディストが参加できなくなり、ドラマーのクリス・スレイド(1970年代にマンフレッド・マンズ・アース・バンドのメンバーになる人)が慌てて、隣のコーヒーショップにいたエルトンを口説いて参加させたと言われています。

 その後トム・ジョーンズはヒットを連発し、ショービジネスの超大物として君臨することになります。

 

 ちなみに、僕の子供の頃の記憶では、当時日本で一番流行っていた彼の曲はこれだと思います。日本の歌手がTVでトムのモノマネで歌っていて、それを大衆が理解していたくらいですから、日本での知名度は相当高かったのだと思います。

 

「ラブ・ミー・トゥナイト」(1969年 全英9位 全米13位)

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 ちなみに、田原俊彦の「抱きしめてTONGHT」(作曲:筒美京平)はこの曲の歌謡ユーロビート版ととらえてもいいんでしょうね。

 

 その後、1970年代以降彼はヒット曲にはなかなか恵まれなくなりますが、その唯一無二の”パワフルなボーカル”のことを誰かが思い出したかのように、突然再評価されることになります。

 

 1988年、プリンスの「Kiss」をアート・オブ・ノイズと一緒にやっています。(全英5位)


Tom Jones and Art Of Noise - Kiss (Official Video)

 

 そして日本でも大ヒットしましたね、「恋はメキメキ(If I Only Knew)」(1994年全英11位 全米ダンスチャート4位)


Tom Jones - If I Only Knew

 

 1999年には自分よりずっと年下のアーティスト達とコラボした『RELOAD~オール・スター・デュエット・アルバム』をリリース。見事全英1位を獲得しています。

 

 そのアルバムからカーディガンズとのコラボで、トーキング・ヘッズのカバー「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」(全英7位)

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 昔は日本にも、尾崎紀世彦とか松崎しげるとか、男臭いパワフルなシンガーはいましたけど、もう若い人からはそう言う人は出てきてませんね。日本に限らず海外の男性シンガーはほとんど、みんな女性のような高いキーで歌い、ずいぶんとナイーヴです。

遺伝子レベルで体質が変わってきているのかもしれません。トム・ジョーンズみたいな人はもはや”絶滅種”なのかもしれないですね。

 

 最後は、おしゃれで洗練されたバート・バカラックと、”コッテリ味の”トム・ジョーンズ、という一見水と油のような組み合わせが奇跡的に(?)バッチリとハマった「何かいいことないか子猫ちゃん(What's New Pussycat?)」(1966年全米3位、全英11位、同名コメディ映画の主題歌)をどうぞ。

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(追記 :2024年1月)2021年、81歳にしてリリースしたニュー・アルバム「Surrounded by Time」が全英1位を獲得し、彼は衰えぬパワフルさを見せつけてくれています。

 

「恋はメキメキ」を含むオールタイム・ベスト

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配信はこちら

よくあることさ

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