まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「Happy」ファレル・ウィリアムス(2013)

 おはようございます。

 今日は多分2010年代世界最大のヒット曲。日本でもTVCMで使われてすっかりおなじみの曲ですが、あえてピックアップしてみます。

 


Pharrell Williams - Happy (Official Music Video)

 この曲がリリースされた2013年は、まさに”ファレルの年”でした。

 彼が参加したダフト・パンク「ゲット・ラッキー」、ロビン・シック「ブラード・ラインズ」もリリースされています。イギリスは3曲全てが100万枚を超えたそうで、これはビートルズ以来のことなんだそうです。

popups.hatenablog.com

 彼は21世紀の音楽シーンを代表する音楽家ですが、彼の最大の特徴は”コラボレイター(共同制作者)”である、ということです。彼はこう語っています。

 ”僕の代表的な曲は全部、他の人と一緒に書いたか、他の人のために書いたものなんだ”

 レノンーマッカートニーに次ぐ数の全米NO.1ヒットを持つマックス・マーティンも

その多くの作品が他者との共作で作られています。

 21世紀の音楽シーンでは優れた”コラボレイター”であることは必須条件です。例えば、一人で全て完結できる天才アーティストがいても、10年20年という長いタームでは活躍できない、それが21世紀なんです。他者との交わりで絶えず学習し、自分をアップデートすることが、クリエイターにとっての”生命線”でもあるわけです。

 彼はこうも語っています。

 ”コラボレーションというのは大抵の場合、特訓のようなものだ。何か新しいことを学ぶんだ。いろんなアイテム、物事からアーティストとしての鍛錬まで学べる訓練なんだ"

  "コラボレーションはいつも僕のDNAの一部にもなっているんだ。はっきり正直に言えば、自分の力だけで仕上げた曲は全部、他のアーティストのために書いたものなんだ”

 この「Happy」もシーロ・グリーンのために書いた曲だったそうです。


Cee Lo Green - Forget You

  「Happy」があれほどの超大ヒットになった今も、彼はシーロが歌った方がもっと良いものになったはずだと語っています。

 曲つくりのプロセスのついては、こう語っています。

 ”あるひとつのフィーリングをいつも追っているんだ。何かただ気持ちよくなるものを。そしてそこから、音楽は言葉のためのテンプレートをセットしてくれる。そのフィーリングが全てのクリエイティヴィティの指示を出す。ビートが最初にある。僕の仕事はただビートが語ることに耳を傾けることだ。情感としてそこに何を満たしていくか、ドラムはどうすべきか、メロディーはどう進むべきか、それは全部感性なんだ。”

 

 ちなみに、この「Happy」には元ネタがあると言われています。ヴェルヴェット・ハンマーの「Happy」という曲です。1977年に発売されたインディーズ・バンドのしかもシングルのB面ですから、かなりレアなものです。


Velvet Hammer - Happy

 曲そのものは似ていないですよね。ただ、彼はまずビートから作ると語ってます。このヴェルヴェット・ハンマーも曲全体の”ノリ”をこんな感じにしようという時にヒントにしたのだと思います。それは「ブラード・ラインズ」が「黒い夜」みたいなノリで行こう!と最初にイメージにしたのと一緒ですよね。

 元々がドラマーであるファレルは創作にあたって、まず既存の曲のグルーヴをざっくりとイメージする、ということがあるのかもしれないですね。

 それから、彼の「気持ちよくなるフィーリングを追いかける」ということも彼の個性になっています。「Happy」「Get Lucky」「ブラード・ラインズ」という超大ヒットには、気持ちよくなる、ポジティヴなノリという共通点があります。

 他者との”コラボ”を前提としているという、彼の当初から風通しのいい創作だからこそ生み出し得るものです。

 自分のために自分だけで作る音楽は、自分の内面、というものに囚われてしまいがちです。そこから、大衆とシンクロするような領域にまで踏み込んで表現できるのならいいですが、そういうクリエイターはほんのごくわずかです。

 ”ポップス”とはまず大衆と共振する音楽でなければいけない、それが大前提のはずです。

 「Happy」は、重く閉塞的な時代のムードを反映したような音楽ばかりが流れる世の中では、圧倒的なレアでした。でも、大衆が内心求めているものを持っていました。みんな世の中の重苦しいムードにうんざりしていたんです。だからこそ、世界中の人々がこの曲に飛びついて、踊る映像をアップしたわけです。この曲は見事に大衆と共振して、閉塞的な空気感に”風穴”をあけた、僕はそう感じました。

 ついでに言うと、同時期に日本で同じような”風穴”として機能したのが、星野源の「恋」だと僕は捉えています。

 

 ポップスは今の時代の音楽の主流ではなくなってしまっていますが、今後も、時代の風穴、大衆の”ガスを抜くもの”としての大切な役割があるんじゃないでしょうか。

 大衆の気分を少しだけでも上向きにさせるものとして。

 そして、それがないと、世の中はどんどん殺伐としていってしまうような気がします。

 

Happy (From "Despicable Me 2")

Happy (From "Despicable Me 2")