まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングを、エピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などを交えて紹介しています。親しみやすいポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”な存在になってしまったのかもしれませんが、このブログがみなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。追加情報や曲にまつわる思い出などありましたらどんどんコメントしてください!text by 堀克巳(VOZ Record

「恋人と別れる50の方法 (50 Ways To Leave Your Lover)」ポール・サイモン(Paul Simon)(1975)

 おはようございます。今日はポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法 (50 Ways To Leave Your Lover)」です。

www.youtube.com

"The problem is all inside your head," she said to me
"The answer is easy if you take it logically
I'd like to help you in your struggle to be free
There must be fifty ways to leave your lover"

She said, "It's really not my habit to intrude
Furthermore, I hope my meaning won't be lost or misconstrued
But I'll repeat myself at the risk of being crude
There must be fifty ways to leave your lover"
Fifty ways to leave your lover

You just slip out the back, Jack
Make a new plan, Stan
You don't need to be coy, Roy
Just get yourself free
Hop on the bus, Gus
You don't need to discuss much
Just drop off the key, Lee
And get yourself free
Ooh, slip out the back, Jack
Make a new plan, Stan
You don't need to be coy, Roy
You just listen to me
Hop on the bus, Gus
You don't need to discuss much
Just drop off the key, Lee
And get yourself free

She said, "It grieves me so to see you in such pain
I wish there was something I could do to make you smile again"
I said, "I appreciate that, and would you please explain
About the fifty ways?"
She said, "Why don't we both just sleep on it tonight
And I believe in the morning, you'll begin to see the light"
And then she kissed me, and I realized she probably was right
There must be fifty ways to leave your lover
Fifty ways to leave your lover

You just slip out the back, Jack
Make a new plan, Stan
You don't need to be coy, Roy
Just get yourself free
Oh, you hop on the bus, Gus
You don't need to discuss much
Just drop off the key, Lee
And get yourself free
Slip out the back, Jack
Make a new plan, Stan
You don't need to be coy, Roy
You just listen to me
Hop on the bus, Gus
You don't need to discuss much
Just drop off the key, Lee
And get yourself free

****************************************

「問題は全部あなたの頭の中にあるのよ」彼女は僕に言った
「論理的に考えれば答えは簡単
自由になろうともがいているあなたを助けてあげたいの
恋人と別れる方法なんて50通りはあるはずよ」

彼女は言った
「私は口出しするタチじゃないけど
それより、私の意図が誤解されないでほしい
品がないって思われても繰り返して言うわ
恋人と別れる方法なんて50通りはあるはずよ」
恋人と別れる50の方法

こっそり逃げるの、裏(バック)から、ジャック
作るのよ新しいプランを、スタン
恥じらわないで、故意に、ロイ
ただ自分を解放するの
飛び乗ればいいのバスに、ガス
そんな議論しなくていい
置いていけばいいの鍵(キー)を、リー
そして自分を自由にしてあげて

こっそり逃げるの、裏(バック)から、ジャック
作るのよ新しいプランを、スタン
もったいぶらないで、故意に、ロイ
ただ自分を解放するの
飛び乗ればいいのバスに、ガス
私の言うことを聞いて
置いていけばいいの鍵(キー)を、リー
そして自分を自由にしてあげて

彼女は言った「あなたがそんなにつらそうなのを見ると胸が痛むの」
またあなたが笑える何かをしてあげることができればいいのに」
私は言った「感謝するよ。それでその50の方法を教えてくれる?」

彼女は言った「今夜はこのことはひとまず寝かせてみない?
明日の朝になればきっと光が見えるはずよ」
そして彼女が僕にキスをしてくれた時、僕は気付いた
彼女の言うことはたぶん正しい
恋人と別れる方法は50通りあるんだ
50通りもあるんだ

こっそり逃げるの、裏(バック)から、ジャック
作るのよ新しいプランを、スタン
恥じらわないで、故意に、ロイ
ただ自分を解放するの
飛び乗ればいいのバスに、ガス
そんな議論しなくていい
置いていけばいいの鍵(キー)を、リー
そして自分を自由にしてあげて

こっそり逃げるの、裏(バック)から、ジャック
作るのよ新しいプランを、スタン
もったいぶらないで、故意に、ロイ
ただ自分を解放するの
飛び乗ればいいのよバスに、ガス
私の言うことを聞いて
置いていけばいいの鍵(キー)を、リー
そして自分を自由にしてあげて    (拙訳)

<PR>

「恋人と別れる50の方法 (50 Ways To Leave Your Lover)」(ポール・サイモン)のヤマハぷりんと楽譜はこちら

***************************************

 たくさんの名曲を持つポール・サイモンのレパートリーの中でも代表曲の一つですね。   とてもインパクトのあるタイトルです。僕がこの曲を初めて聴いたのは小六か中一の頃、英語はわからなかったので”50の方法”を延々と説明する歌だと思ったのですが、実際は5個しか説明してないんですよね。しかも、主人公が女友達に50の方法を説明するように頼むと、一晩寝かしましょうよ、なんてはぐらかされるわけです。でも、よく考えてみると、女友達に恋人と別れる50の方法の説明責任を押し付けて、曲を書いたポール・サイモン自身はその責任を巧みに逃れているわけで、本当にテクニシャンだと思います、ポール・サイモン

 50というのは特に意味のない数字で、そんな方法はいくらでもあるということなんでしょうけど、それでも、50個説明してないじゃないか、と思った人はいるようで、わざわざ残りの45個を考えた方もいました。ポールサイモンは実は50個考えていた、なんて話をでっち上げてますがw

www.pointsincase.com

 また彼の技巧はサビでも発揮されています。Jack, Stan, Roy, Gus,Leeと五人の男性の名前が、それぞれback, plan, coy, bus,keyと韻を踏んでいるんですね。普通は、各行の最後で韻を踏んでリズム感を出すものですが、この歌では、Back,JackとかPlan,Stanと連続させています。

「The Howard Stern Show」という番組でポール・サイモンは自分の息子のハーパーがまだ幼かった頃に韻を教えるためにこのパートを考えたと語っています。

 このうたで歌われている恋人と別れる”5つの方法”も読んでみると、特別なことは言ってないですよね。かえって韻を踏む方に重点が置かれています。なので、僕はこの韻が

「恋人と別れる50の方法」の肝だと思ったので、不自然さを承知の上でそれを反映させて和訳にしてみたんですよね、、

 バック、プラン、バス、キーはカタカナにしても通じますが、困ったのは<coy>。僕には馴染みのない単語でした。調べてみると「恥じらう」とか「内気な」と言った意味でしたが、もうちょっと調べてみると<shy>や<modest>などに比べると、ちょっと作為的な、というか、わざとらしさがニュアンスとしてある言葉のようでした。なので思いついたのが<故意>。この僕の苦労(わざわざする必要もない苦労のような気もしますが)をなんとかわかっていただけるとありがたいです,,,

 

 そして、<タイトル><韻>と並ぶこの曲の大きなポイントは、やっぱり曲の始まりから流れるドラムのリフですよね。叩いているのは、スティーヴ・ガッド。多くのミュージシャン、アーティスト、音楽関係者が口を揃えてリスペクトする、史上最高のドラマーの一人です。ここ数年一緒に仕事をさせていただいている神保彰さんも、この曲でのスティーヴ・ガッドのドラムを、自身のフェイヴァリットとして何度も言及されていました。

神保彰が完全にノックアウトされた曲は | これのドラムを聞け!5秒だけでもいい Vol. 33 - 音楽ナタリー コラム

 スティーヴ・ガッドのインタビューを読むと、もともとこの曲は最初から最後まで同じようなバックビートで演奏されていたそうです。

「最初の段階から、フィル(ラモーン/プロデューサー)とポールは何かが必要だと思っていたんだ、その何かがどこからやってくるのか分からなかったけど、サビはカッコいいけど、Aメロには手を入れる必要があるって、彼らは分かっていたんだ」(musicrader 16 March 2023)

 フィルとポールが長時間にわたってあれこれ話し合ったり検討している間、彼はずっとドラムルームにいて、ずっといろんなアイデアを練習していたそうです。

「大きな音を出すわけでもなく、テクニカルなことでもなく、ただ小さな、色々なパターンを試す。例えば、フットペダルでハイハットを踏んでから左手で叩くとか。そういう感じのことをね。

 フィルが僕の練習を耳にしていて、たぶん僕はそれをちょっとしたグルーヴに仕上げていたんだと思う。そしたら彼が『Aメロでそういうのを試してみたらどうだ?』って言ったんだ。」(musicrader 16 March 2023)

 前述した「The Howard Stern Show」という番組でポールは、彼が”僕は陸軍の軍楽隊のドラマーをやっていて行進曲用のドラムを学ばなければならなかったんだ”といってあのフレーズを叩いて見せたと語っています。

 最善を目指して粘っていると、意外なところからその解決案が出てくるものなんですね。

 この時期のポール・サイモンスティーヴ・ガッド以外にも当時最高のミュージシャンを集めてアルバムを制作していました。この曲が収録された彼のアルバム「時の流れに( Still Crazy After All These Years)」はソングライティングと演奏の技能を最高レベルにまで突き詰めながらも難解にならず、耳触りのよいものに仕上がっている、というポップ・ミュージックの一つの究極の達成のように僕は思います。ただ、詞、曲、アレンジ、演奏の全てを技術的に最高のものを求めながら、わかりやすい形に着地するというのは間違いなく<理想形>だと思いますが、あくまでも<正解のひとつ>だとも思います。もっと粗かったり、アンバランスなものが不思議に魅力的に思えてしまうのもポップスだと思いますから。

 ちなみにこの曲のサビのコーラスはフィービー・スノウ、パティ・オースティン、アッシュフォード&シンプソンのヴァレリー・シンプソンというすごいメンバーでやっていてこれもすごく効果的ですよね。

 それでは、あのフレーズを叩く、スティーヴ・ガッドも見れるライヴ動画がありますので、そちらを最後に。 

www.youtube.com

 

 

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

 

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

 

<PR>

イケベ楽器オンライン(アコースティックギター)