まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「オール・オーヴァー・クリスマス(All Over Christmas)」リンダ・ルイス(1996)

 おはようございます。

 今日はあまり人には知られていない(?)クリスマス・ソングを。リンダ・ルイスの「オール・オーヴァー・クリスマス」。


Linda Lewis - All Over Christmas

 

 ”季節はめぐる 

  また一年がやってきたと思ったら  あっという間に過ぎてゆく

  最後にあなたに触れてからもうずいぶん経つわ

  私に微笑みかけるあなたの顔を見たくて 待ちきれない

 

    昨晩、星の下で

    あなたがまた家に帰る道を見つけるように祈ったわ

 木々がうっすらと雪をまとう頃

 あなたの心が私に呼びかけたの(あなたの叫び声が聞こえる)

 

 あなたにキスしてあげる クリスマスのあいだ中ずっと

 あなたにしてあげなきゃいけないのはそれだけ

 この年の幸せを心から願って

 あなたがいないクリスマスなんて考えたくない

 だからあなたにキスの雨を降らしてあげるわ

 

    暖炉のそばで一緒にあたたまりましょう 

 寒さから逃れて どんな天気でも二人の愛を広げるの

 月が空を渡り あなたの瞳は夢見る子供のよう

 そしてあなたは言うの

 

 君にキスしてあげる クリスマスのあいだ中ずっと

 君にしてあげなきゃいけないのはそれだけ

 この年の幸せを心から願って

 君がいないクリスマスなんて考えたくない

 だから君にキスの雨を降らしてあげる

 

 これは私たちのパーティ ふたりで祝いましょう

 この休日は盛り上がるわよ

 シャンパンを抜いて 気分はアガって 行儀悪くたって構わない

 火をつけて この心を感じて 胸のベルを鳴らして 聞えるでしょ

 友達も親戚もみんな集まって 

 憂鬱なことをまた笑い飛ばしましょう

 今夜はみんなが待ち焦がれた日

 

 あなたにキスしてあげる クリスマスのあいだ中ずっと

 あなたにしてあげなきゃいけないのはそれだけ

 この年の幸せを心から願って

 あなたがいないクリスマスなんて考えたくない

 だからあなたにキスの雨を降らしてあげるわ    ” (拙訳)

 

 

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The seasons change.
Another year has come and gone so fast,

such a long time since I touched you last,

and I can't wait to see your face smiling down on me...

 

Cos underneath the stars the night before,

said a prayer that you'd find your way back home once more.

As the snow dusted the trees your hearts calling out to me..
I hear you cryin'

 

I'm gonna kiss ya all over Christmas,
that's all I gotta give ya
this year with all my best wishes

Don't wanna miss ya another Christmas
cos its all over you dear

I want my kisses to blow oh oh oh ..

 

We'll unchill beside the fire together

cradled from the cold ,unfold our love in all kind of weather,

while the moon cruises the sky  your eyes dreamy like a child...

then you tell me

 

I'm gonna kiss ya all over Christmas
that's all I gotta give ya

this year with all my best wishes
Don't wanna miss ya another Christmas

cos its all over you dear
I want my kisses to blow oh oh oh ..

 

This is our party  we can celebrate  the holidays get crazy,

Crack the champagne, get in a state, Do some misbehaving!

Light a flame, feel the spirit, ring my bell, can you hear it.

All my friends and my kin  we can laugh away our blues again

This is the night we have waited to arrive..

 

I'm gonna kiss ya all over Christmas,
yes it's all I gotta give ya

this year with all my best wishes
Don't wanna miss ya another Christmas

cos it all over you dear
I want my kisses to blow oh oh oh oh

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 リンダ・ルイスはイギリスのシンガー・ソングライター。1950年生まれですから、今年で70歳。

 時代も含めて近いタイプでいうと「Lovin' You」のミニー・リパートンあたりでしょうか。二人とも声域が5オクターヴ(!)と言う共通点もありますし。

 しかし、ミニーは基本シンガーで曲作りには相方が必要でしたが、リンダはソングライターとしても優れていて、様々な音楽のジャンルが融合されたオリジナリティは他に類のないものでした。

 

 ロンドンのイーストエンドで育ち、舞台学校に通っていてビートルズの映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』にもファンの一人として出演していたそうです。

 レコード・デビューは17歳のとき(1967年)で、モータウン調のノーザン・ソウル・チューンでした。


Linda Lewis. You turned my bitter into sweet.

 1970年代には6枚のアルバムをリリースしていますが、なかでも「LARK(ラーク)」は隠れた名盤として今も愛聴するファンは少なくありません。


Old Smokey

    皮肉なことに、彼女の最大のヒットはカバー曲でした。

 ベティ・エヴェレットの1964年リリースのポップ・クラシック「The Shoop Shoop Song (It's in His Kiss)」。しかも、ディスコ・サウンドでのカバー。このアイディアを出したのは彼女のレコード会社アリスタの社長、クライヴ・デイヴィス(このブログによく登場します)だったそうで、彼女をニューヨークまで呼びつけ、ルーサー・ヴァンドロスデニース・ウィリアムスなどがバック・コーラスをした豪華なセッションでした。


Linda Lewis - It's in His Kiss (Official Audio)

 

   また、彼女の声の魅力にとりつかれたアーティストは少なくなく、デヴィッド・ボウイの「アラジン・セイン」のほか、キャット・スティーブンスロッド・スチュワートアル・クーパーノエル・ギャラガーポール・ウェラーなどのレコーディングでコーラスをつとめています。

 しかし、1983年のアルバムを最後に彼女は長くアーティスト活動から身を引いてしまいます(バックコーラスの仕事は少ししていたようですが)。

 1990年代に入り、イギリスのアシッド・ジャズと日本の”渋谷系”のムーヴメントの中で、彼女の曲の人気に火がつき、1995年にカムバック・アルバム「セカンド・ネイチャー」をリリース、日本でも人気になりました。

 

 ちなみに、彼女をリアル・タイムで最も評価していた日本人は「ミュージック・マガジン」の創刊者である音楽評論家の中村とうよう氏でした。

 ワールド・ミュージックを軸に評論していた人なので、ポップじゃなくワールド・ミュージック的な視点で彼女を評価していたのだろうと思っていたのですが、彼が書いた文章の中に、

 日本で彼女(リンダ・ルイス)に最も近い資質のアーティストは尾崎亜美だろう

 といった趣旨のことが書いてあって、驚いたことがあります。

 僕もまさにそういう風に思っていたからです。

 

 実はずいぶん前に、僕はレコード会社(ソニー)に勤めていて、彼女を担当していたことがあります(アルバム「Whatever」)。そしてロンドンで彼女と直接会って、なんか尾崎亜美っぽいなあと思ったのです。

 ある取材で、インタビューアーの方が彼女に対して、自分のことを一言で表現すると?とたずねると

 ”Living In a Fantasy”

 と答えていたのをおぼえています。そのあと自嘲気味に”いつまでたっても、ファンタジーおばさんなのよ”といったことを言っていたような。

 ほんとうに、空想好きの女の子がそのまんま大人になったという印象の人でした。

 

 そして、そのときに僕がつたない英語で直接「クリスマス・ソングを書いてもらえませんか?」と彼女に頼んで、ひと月ほどして送られてきたのがこの「オール・オーヴァー・クリスマス」だったのです。

 思ったより可愛らしい曲だと思いましたが、でも、ファンタジーの世界に住んでいる人らしいかもなあ、と思いました。

 

 しかし、せっかく作ってもらったのに僕の努力不足でしっかりプロモーションできず、そこはずっと後悔が残っていました。

 

 そして、先日近くの駅ビルで買い物をしていたら、有名なクリスマス・ソングに続いてこの曲がかかったのでびっくりして、ちょっとうるうるしてしまいました、、。

 そこで、せっかく作ってもらった曲なんだから、とあらためて思って、24年もたっているのですが、今回ピックアップさせてもらったというわけです。

 

 この「オール・オーヴァー・クリスマス」のシングルのカップリングに入れたのが、彼女の中で最も”尾崎亜美”度が高い(!)と僕が思っている曲なので、よかったらこちらも聴いてみてください。なんてピュアで可憐な歌なんだろうと、初めて聴いた時思いました。

 (2017年に出た「Funky Bubbles」という彼女のコンピレーション盤にも収録されています)

www.youtube.com

 

 

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