まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「ジャマイカの月の下で(Under The Jamaican Moon)」ニック・デカロ(1974)

 おはようございます。

 昨日に続いてスティーヴン・ビショップの曲を。

 彼には「オン・アンド・オン」以前にも”ジャマイカもの”の歌があります。それが、ニック・デカロの「ジャマイカの月の下で」。


Nick DeCaro - Under The Jamaican Moon (1974)

 

 ”夏の夜を楽しむために 君は僕のそばにいただけさ

     情に屈してしまった僕は 正しいのかどうかもわからなかった

 

  ジャマイカの月の下では 何もかもはっきり見えなくなってしまう

  今なら 今なら何も知らないふりができる

 

  僕たちが初めて会ったイーストサイドに君は戻ったんだってね

  だけど、君の心はここにある 君が手にした愛も全部ね

 

  ジャマイカの月の下では 何もかもはっきり見えなくなってしまう

  今なら 今なら何も知らないふりができる

 

     何度も何度も繰り返し

  鎖に繋がれた自分に君は気づかされる

     街の憂鬱と痛みは いつだって同じさ

 

     ラジオも騒々しい音が漏れ出す 壁にあいた穴から

  路上では汚れた作業服を着た男たちが汗まみれになっている

 

  ジャマイカの月の下では 何もかもはっきり見えなくなってしまう

  今なら 今なら何も知らないふりができる

  今なら 今なら何も知らないふりができる                      " (拙訳)

 

 

 「オン・アンド・オン」ではジャマイカの女性を”男から金を掠め取ったらすぐ捨てる”なんてタチ悪く描いて顰蹙を買っていましたが、こちらは”ジャマイカの月の下では 何もかもはっきり見えなくなってしまう”と、ジャマイカのお月様を悪者呼ばわり(?)しています。

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 ジャマイカに個人的な恨みがあるわけじゃなく、”バカンス気分で女性にうつつを抜かして痛い目にあう男”というテーマが当時の彼にはあって、その舞台にたまたまジャマイカが選ばれたのじゃないか、と僕は推測しますが。

 

 この曲の歌詞を手助けしたのがリア・カンケル。

 ママス&パパスのキャス・エリオットの妹で彼女もシンガーでした。

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 また彼女は当時、キャロル・キングジェイムス・テイラージョニ・ミッチェルジャクソン・ブラウンなどのバックをつとめた名ドラマー、ラス・カンケルの奥さんでもありました。

 不遇な状況にあったスティーヴンはリアと出会うことでチャンスを得ます。スティーヴンが楽曲を提供したジェイムス・リー・スタンレイというアーティストのセッションがきっかけだったようです。そして、二人で書いた曲やスティーヴンの曲を、ラス・カンケルが関係者に配ってくれたのです。

 アート・ガーファンクルに曲を持って行ったのもラスだったそうです。

 それまで、小さなマイナー・レーベルのアーティストに2曲しか提供実績のなかったスティーヴンにとっての初めての大きな実績となった「ジャマイカの月の下で」に最初に目をつけたのは、アルバムのプロデューサーであり、レーベルのオーナーでもあったトミー・リピューマだったといいますから、これもラスからデモを手渡されたのではないかと思われます。

 

 この曲が冒頭に収録されているアルバム「イタリアン・グラフィティ」は当時はまったく売れませんでしたが、今では”AORの原点”としての揺るぎない地位が日本では確立されています。

 特に、デヴィッド・T・ウォーカーのギター・ソロは”名演”として名高いものです。

 

 リア・カンケルもアート・ガーファンクルの力添えで1979年と1980年に二枚のアルバムをリリースしていて、ファーストの「リア(LEAH KUNKLE)」には「ジャマイカの月の下で」が収録されています。


Leah Kunkel - Under The Jamaican Moon (1979)

 ソロ楽器がサックスというのも、1970年代後半らしいですね。彼女のボーカルもママ・キャスのようなパンチがないですがとても雰囲気があって、こういう曲にはよくあっている気がします。

 彼女はソロ・アーティストとしては成功しませんでしたが、音楽活動を続けながら弁護士の資格を取り、エンターテインメント法を中心に弁護士活動も続けていたそうです。

 

 スティーヴン本人は2007年になってようやくセルフカバー。ボサノヴァ・タッチのアルバム「ロマンス・イン・リオ」の冒頭に収録されています。2曲めは「オン・アンド・オン」なので、”ジャマイカつながり”になっています。


Under the Jamaican Moon♪ ~Stephen Bishop

 

  そして、なんといってもこの曲の隠れた名カバーは日本人によるもの。

ニック・デカロのオリジナルへの敬意がたっぷり感じられる素晴らしい出来です。

信田かずお(kyd,vo)と松下誠(g,vo)という、敏腕スタジオ・ミュージシャンによるツー・メン・ユニット”ミルキー・ウェイ”の1979年のアルバム「サマータイム・ラブ・ソング」に収録されています。

 松下誠は日本のAOR、シティポップを代表するギタリスト、信田かずおのほうは松田聖子の初期のサウンドを作ったアレンジャー。このカバーの日本語詞を書いたのは三浦徳子で、三浦と信田はこの翌年「裸足の季節」の作詞家と編曲家になるわけですね(松下も松田聖子のファースト・アルバムの信田アレンジ曲にギターで参加しています)。

 


The Milky Way: ジャマイカ・ムーン Under The Jamaican Moon

 

 

イタリアン・グラフィティ

イタリアン・グラフィティ

 

 

 

リア

リア

 

 

 

ロマンス・イン・リオ

ロマンス・イン・リオ