まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「イフ・ナット・フォー・ユー (If Not for You)」ボブ・ディラン(1970)

 おはようございます。

 今日はボブ・ディランの「イフ・ノット・フォー・ユー」です。


Bob Dylan - If Not for You (Audio)

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If not for you
Babe, I couldn’t find the door
Couldn’t even see the floor
I’d be sad and blue
If not for you

If not for you
Babe, I’d lay awake all night
Wait for the mornin’ light
To shine in through
But it would not be new
If not for you

If not for you
My sky would fall
Rain would gather too
Without your love I’d be nowhere at all
I’d be lost if not for you
And you know it’s true

If not for you
My sky would fall
Rain would gather too
Without your love I’d be nowhere at all
Oh! what would I do
If not for you

If not for you
Winter would have no spring
Couldn’t hear the robin sing
I just wouldn’t have a clue
Anyway it wouldn’t ring true
If not for you

 

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君がいなければ

僕はドアを見つけることはできなかった

床を見ることだってできなかった

悲しく、ブルーになるだろう

君がいなければ

 

君がいなければ

一晩中眠れなかっただろう
朝の光が差し込んでくるのを待って

だけど、それは新しい朝ではない

君がいなければ

君がいなければ

僕の空は落ち

雨もまた集まるだろう
君の愛なしでは どこにも居場所はない

道に迷うのさ 君がいなければ

君もそうだとわかっている

 

君がいなければ

僕の空は落ち

雨もまた集まるだろう

君の愛なしでは どこにも居場所はない

ああ、僕に何ができるのか

君がいなければ

君がいなければ

冬の後に春は来ない

コマドリの歌は聞こえない

僕にはただ何の手がかりもない

とにかく、本当らしく聞こえないのさ

君がいなければ                (拙訳)

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  ボブ・ディランを”ポップス”の文脈で語るのはどうだろう?と興味はありつつも、あまりにも難易度が高そうで、ずっと尻込みしていました。

 でも、ポップスとして心に感じるものがある曲であれば、そんな難しいことを言わずにとりあげてみようと思い直して、今回この曲をセレクトしてみました。

 

 「イフ・ノット・フォー・ユー」は、彼のレパートリーの中ではとてもめずらしい、シンプルなラヴ・ソングです。当時奥さんだったサラのために書いた、と彼は語っています。

 彼がサラと結婚したのは1965年、彼が25歳で彼女が27歳のときでした。二人の結婚生活は1977年まで続き、子供は4人います。ウォール・フラワーズのジェイコブ・ディランもそのひとりです。

 「ローランドの悲しい目の乙女」や「ラブ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」と言った曲も彼女がインスピレーションになったと言われ、離婚の一年前にリリースされたアルバム「欲望」のクロージング・ナンバーが「サラ」でした。

 

 この時期の彼は、家庭生活を大切にし満足していた時期だと言われていて(ジェイコブが1969年末に生まれています)、それが反映されているととらえる向きもあるようです。

 僕はまた、「セルフ・ポートレイト」でトラディショナルな曲を多くカバーしていたことが、「イフ・ノット・フォー・ユー」の歌詞のシンプルさに繋がっているのではないかとも思っています。

  

 

 さて、この「イフ・ノット・フォー・ユー」は1970年に発表された「新しい夜明け(New Morning)」というアルバムの冒頭を飾っていた曲でしたが、その前に彼は「セルフ・ポートレイト」という曲の3分の1がカバーというアルバムをリリースしていて、そのセッションの後半に一度この曲を録音していたそうでが、アルバムに収録されることはありませんでした。

 

 そして同年の5月1日、ボブ・ディランジョージ・ハリスン、チャーリー・ダニエルズ(ベース)、ラス・カンケル(ドラムス)というメンバーであらためて録音されますが、これも結局リリースされず、のちに『The Bootleg Series Volumes 1-3 (Rare & Unreleased)』で初披露されることになります。


Bob Dylan - If Not for You (Alternate Take - Audio)

 そして、6月にまたこの曲を録音しますが、バイオリンとピアノのみで演奏されたヴァージョンが2013年にリリースされた『The Bootleg Series Vol. 10: Another Self Portrait (1969-1971)』に収録されます。

 本人がイメージするアレンジが見つからなかったのでしょうか、8月のあらためて録音されたのが、アルバムに収録されたもので、その以前のヴァージョンと比べるとずいぶんと軽快な演奏になっていることがわかります。

 

 さて、5月に「イフ・ノット・フォー・ユー」をディラン一緒に録音したジョージ・ハリスンはその月の終わりからソロ・アルバム「オール・シングス・マスト・パス」のレコーディングをスタートさせ、この曲もレコーディングしています。

 ディランとのセッションで弾いたフレーズを発展させ、リズムももっと軽快にさせています。


If Not For You (Remastered 2014)

「新しい夜明け」は1970年10月21日、「オール・シングス・マスト・パス」は同年11月27日ですから、非常に発売のタイミングが近かったんですね。「新しい夜明け」は全米7位と好評でしたが、「オール・シングス・マスト・パス」のほうは3枚組という大作でありながら全米7週連続1位というとんでもないヒットになりました。「イフ・ノット・フォー・ユー」も自然とジョージのヴァージョンの方が広く知られるようになったようです。

 

 さて、これは僕のただの推理なのですが、8月にディランがこの曲を新しく録音する前に、ジョージの録音したものを聴いたんじゃないでしょうか。それまで、ゆったりとしたテンポで何度かトライしていてしっくりこなかったディランが、ジョージの録音を聴いて、方向転換をしたんじゃないかと。全くの推測ですが、、、

 

 さて、1970年代を代表する歌姫、オリヴィア・ニュートン・ジョンの最初のヒット(全米25位、全英7位)は実はこの曲のカバーで、一躍世界から注目を集めることになりました。ジョージのヴァージョンからわずか3ヶ月後のリリースですから、かなり早いアクションでした。


Olivia Newton-John - If Not For You

 この曲をカバーするように彼女に進言したのがプロデューサーのジョン・ファーラー(のちに「そよ風の誘惑」などの彼女のヒット曲を書く名ソングライターでもあります)。

 彼女自身は全く気乗りせずうまく歌える自身もなかったそうですが、ヒットしたおかげでジョンに感謝しているとのちに語っているようです。

 アレンジはジョージのヴァージョンに準じていますが、彼女はジョージのヴァージョンしか知らなかったようです。

 

 

 

 ディランがこの曲を録音した時のレコード会社の社長はクライヴ・デイヴィスで、この曲を気に入った彼はシングル・カットするよう求め、アルバムから唯一のシングルになっています(アメリカではカットされなかったようです)。ただし、ジョージやオリビアのヴァージョンがすでに広まっていたせいもあって、芳しい成果を上げることはできなかったようです。

 

 

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