まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「マイ・ガイ(My Guy)」メリー・ウェルズ(1964)

 おはようございます。

 今日はメリー・ウェルズの「My Guy」。作詞作曲したのはスモーキー・ロビンソンです。

 


Mary Wells - My Guy

 

 ”あなたが何を言ったって 私をあの人から引き離せないわ

  あなたには何もできないの だって私はあの人に糊みたいにくっついてるから

  手紙に貼った切手みたいに 離れないの

     まるで同類みたいに 一緒にいるの

  もう一回言うわね 私はあの人から離れられないの

  あなたが何をしたって 私はあの人を裏切らない

  あなたが何を買ってくれても 私はあの人に嘘をつかない

     私はあの人に固く約束したの 他の人には目もくれないって

  あなたも信じるしかないのよ 私はあの人を騙したりしないって

 

     意見は分かれるかもしれないけど 私には彼が最高なの

  私の意見は 彼が最上級なの

     厳密に言ったら 好みの問題だけど

  彼は、単に事実として 私の理想なの

    
    マッチョな男も 私の手を彼から離せないわ
 どんなイケメンも彼の代わりにはなれないの

 そりゃ映画スターみたいじゃないかもしれないけど

 幸せかっていえば 間違いなし

 今は私を彼から奪えるような男はひとりもいないの”   (拙訳)


 メリー・ウェルズはモータウンで最初に売れた女性ソロ・シンガーです。それに、モータウンのアルバム第一弾が彼女の「Bye Bye Baby I Don't Want to Take a Chance 」で、創立期の重要アーティストだったわけです。

 

 デトロイト出身の彼女は、自分の作った曲を当時大人気だったジャッキー・ウィルソンに歌ってもらうために、ベリー・ゴーディーに売り込みに行ったそうです。

 彼女が歌うのを聴いたベリーは、彼女自身が歌うべきだと思ったようでモータウンでレコーディングすることになります。

 それが「Bye Bye Baby」という曲で、全米45位、R&Bチャート8位とデビューにしては幸先の良いスタートでした。


MARY WELLS BYE BYE BABY

 

    彼女はもともとハスキーな声質ですが、ベリーが22回もぶっ続けで歌の取り直しをしたそうなので、この曲では相当声が枯れていますね。

   ぽっちゃりした外見にハスキーな声で、当初は結構元気で勢いのある曲が多かったのですが、それを変えたのがスモーキー・ロビンソンでした。

 三枚目のシングルのセールスが失敗したため、新たにプロデューサーになったスモーキーは、ソフトで落ち着いた曲の方が彼女に似合っていると見抜いたようで、彼の指導で彼女は歌い方を変えていき、それが成功につながりました。

 1962年には三枚のシングルが続けて全米TOP10入りします。


The One Who Really Loves You


Mary Wells - You Beat Me To The Punch


Two Lovers

 

 翌63年は少しトーン・ダウンしますが、1964年に見事全米NO.1に輝いたのがこの「マイ・ガイ」でした。そして、全英でも第5位と、モータウン史上イギリスで初めて大ヒットした曲にもなりました。

 

   「マイ・ガイ」がNO.1になった前の月には、ビートルズが全米チャートの1位から5位まで独占するという、前代未聞の大ブレイクが起こっていました。

 彼女は、そのビートルズと一緒にイギリスをツアーすることになり、彼らが行く先々で彼女を絶賛してそれがいろんな記事になったこともあって、一気に大スターになりました。

 

 そして、ビートルスのメンバーからも知恵を授けられたという説もあるようですが、彼女は成功に見合うだけの報酬をもらっていないと気づいてモータウンを相手に訴訟を起こし、他のレーベルの誘いに乗って、人気の絶頂期に移籍してしまいます。

 

 そして、結果的に「マイ・ガイ」が彼女の最後の大ヒットになってしまいました。

 

 モータウンはアーティストに対してひどく不当な契約を結んでいたことは広く知られていますが、クリエイティヴな面では特別な”マジック”を持っていたのも確かです。

 アーティストにとって、会社との契約問題というのは常に悩ましいものであり続けています。

 

 とにかく、メリー・ウェルズの移籍失敗が、モータウンの他のアーティストたちにも影響を与えたんじゃないかな、と僕は推測します。

 

 それによって、その後次々とブレイクしたモータウンのアーティストたちが、たとえ契約に不満はあっても、安易に移籍せずに我慢して続けてみようと思うようになったんじゃないか、と。

 モータウン黄金時代の”結束感”は、メリーの失敗が多少なりとも”貢献”しているんじゃないか、というのが僕の勝手な推論です。

 

 まあ、音楽と直接関係のない話は、書いていても楽しくないのでこのへんで終わりにします、、。

 

 この「マイ・ガイ」を聴き直して思うのは、ソングライター、プロデューサーのスモーキー・ロビンソンと歌い手、メリー・ウェルズの波長がピッタリあっている気持ちの良さです。

 

 この曲の入っているアルバム「マイ・ガイ」は、休みの日の午後にゆったり過ごすのに本当にぴったりな作品。こんな気持ちのいい作品は、レコーディング自体がいい空気感で行われないとできないんじゃないかなあ、とさえ思います。

 こんな幸せな空気に満ちたアルバムの一年後に、訴訟だ移籍だってなるわけですから皮肉なものですが、、、。

 

 最後にカバー・ヴァージョンを。

 僕がリアルタイムで記憶しているのはシスター・スレッジ。1982年に全米23位まであがっています。


Sister Sledge - My Guy

 ポップス・ファンにはクロディーヌ・ロンジェのヴァージョンを。


My Guy

 

  メリー・ウェルズ本人は1983年にリメイク。当時流行していたエレクトリック・ファンクのサウンドでやっています。

 


MARY WELLS my guy VERSION 1983

 

マイ・ガイ

マイ・ガイ