まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「風のささやき(The Windmills of Your Mind)」ノエル・ハリソン(1968)

 おはようございます。

 今日は映画「華麗なる賭け」で使われ、グラミー賞の最優秀主題歌賞にも輝いたスタンダード曲「風のささやき」です。


Windmills of Your Mind (Remastered Version)

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Round like a circle in a spiral
Like a wheel within a wheel
Never ending nor beginning
On an ever spinning reel

 

Like a snowball down a mountain
Or a carnival balloon
Like a carousel that's turning
Running rings around the moon

 

Like a clock whose hands are sweeping
Past the minutes of its face
And the world is like an apple
Whirling silently in space

Like the circles that you find
In the windmills of your mind


Like a tunnel that you follow
To a tunnel of its own
Down a hollow to a cavern
Where the sun has never shone

 

Like a door that keeps revolving
In a half forgotten dream
Or the ripples from a pebble
Someone tosses in a stream


Like a clock whose hands are sweeping
Past the minutes of its face
And the world is like an apple
Whirling silently in space

 

Like the circles that you find
In the windmills of your mind

Keys that jingle in your pocket
Words that jangle in your head
Why did Summer go so quickly
Was it something that you said?

 

Lovers walk along a shore
And leave their footprints in the sand
Was the sound of distant drumming
Just the fingers of your hand?

 

Pictures hanging in a hallway
Or the fragment of a song
Half remembered names and faces
But to whom do they belong?

When you knew that it was over
You were suddenly aware
That the autumn leaves were turning
To the colour of her hair


A circle in a spiral
A wheel within a wheel
Never ending nor beginning
On an ever-spinning reel

As the images unwind
Like the circles that you find
In the windmills of your mind

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 "まわる 螺旋の環のように 車輪の中の輪のように

 終わりも始まりもない 永遠に廻る糸車

 山肌を滑り落ちる雪玉のよう それともカーニバルの風船

 月光の環のようにまわる回転木馬のように

 その針が過ぎた時間を盤上から払い去ってゆく時計のように

 そして、地球は宇宙のなかを静かに回っている

 それはあなたが見つけた、心の風車が描く輪のように

 

 トンネルをたどるとまたトンネルがあるように

 陽のあたらない洞窟へと続く空洞のように

 半ば忘れかけた夢の中で回転し続けるドアのように

 それとも、誰かが投げた小石で出来た 波紋の輪

 その針が過ぎた時間を盤上から払い去ってゆく時計のように

 そして、地球は宇宙のなかを静かに回っている

 それはあなたが見つけた、心の風車が描く輪のように

 

 あなたのポケットの中で音を立てる鍵 あなたの頭の中で騒ぎ立てる言葉

 どうして夏はこれほど早く終わってしまうの?

 それはあなたが言ったことだっただろうか

 海辺を歩く恋人たちは 砂に足跡を残す

 遠く聴こえる音は あなたが指で鳴らしたの?

 

  廊下に飾られた絵と歌の一片

 うろ覚えの名前と顔 だけど、彼らは誰のものだったのだろう

 終わりが来た時にあなたは気づく 

 秋の葉が 彼女の髪と同じ色になっていたことを

 

 螺旋の環のように 車輪の中の輪のように

 終わりも始まりもない 永遠に廻る糸車

 イメージは巻き戻ってゆく 

 あなたの中を風車のように巡っている想いの輪のように” 

                       (拙訳)

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「風のささやき」の楽譜はこちら

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 この「風のささやき」を作曲したのはミシェル・ルグラン。日本でも大変人気の高い作曲家です。

 彼には本当に素晴しい作品がたくさんありますが、日本で特に有名なのは「シェルブールの雨傘」でしょう。


Michel Legrand 映画「シェルブールの雨傘」 Je t'attendrai toute me vie...

 また1990年代の渋谷系のムーヴメントの中で再評価され、後にTVCMにも使われるほど人気になったのが「ロシュフォールの恋人たち」です。


Arrivée des camionneurs

 フランス映画で多大な実績を残した彼が、初めて手掛けたハリウッド映画が「華麗なる賭け」でした。彼を選んだのは監督のノーマン・ジェイソンで、彼はインストだけじゃなく挿入歌も書くようルグランに依頼します。

 

 それで、作詞家が必要になった彼はクインシー・ジョーンズに相談するとアラン&マリリン・バーグマンという夫婦を紹介されます。彼らはちょうどクインシーが音楽を手掛け、ノーマン・ジェイソンが監督した「夜の大捜査線」という映画の主題歌の歌詞を書いていました。

 

 レイチャールズが歌う主題歌「IN THE HEAT OF THE NIGHT」

www.youtube.com

 監督は歌詞の内容として、スティーヴ・マックィーン演じる主役の大富豪の強盗トーマス・クラウンの言葉にしていない心の奥の興奮や不安を表現してほしいというリクエストをします。

 劇中ではこんなシーンで使われました。ちなみに編集段階でノーマン・ジェイソンはこのシーンにビートルズの「ストロベリーフィールズ・フォーエバー」をあてていて、最初から彼はここには歌が必要だと考えていたそうです。


Glider flying 'Windmills Of Your Mind' film 'The Thomas Crown Affair' 1968

 

 終わりなく循環してゆくものを詩的なイマジネーションで並べてゆき、最後にそれはあなたの心の中を巡り続ける想いのようだ、と締めくくる、という本当に見事な歌詞です。

 これは、スティーヴ・マックイーン演じるトーマス・クラウンの言葉にできない心情を表現したものだそうです。

 

マリリン・バーグマン

「つまり、彼にとってこの曲は、ある種のマインド・トリップであり、この男の頭の中で起こっている、消し去ることのできない落ち着かないものだったのです。彼はとても頭がよくて、とても成功していて、決して眠らない人物でした」

 

アラン・バーグマン

「不安は循環する感情だ、、、」

 (Performing Songwriter   September 30, 2010)

 

 この曲を歌ったノエル・ハリソンはイギリスのスキーの五輪代表選手から俳優に転向した人で、父のレックス・ハリソンはオードリー・ヘプバーンの「マイ・フェア・レディ」で相手役も務めた名優です。

 流行歌とはかなり趣の異なったこの歌詞に彼はピンと来なくて、直したほうがいいと思ったそうですが、後になってこの曲の凄さに気づいたんだそうです。

 

 マリリン・バーグマンはこう回想しています。

「この曲は、ミシェル(・ルグラン)と一緒に書いた最初の映画の主題歌です。彼は私たちの家に滞在していたのですが、8曲ほどメロディーを書いてくれたのを覚えています。まるで蛇口をひねるようでした。どのメロディも違っていて、とても面白くていい曲ばかりでした。3人ともどれが映画にぴったりなメロディなのか決められなかったので、一度寝ることにしたんです。翌朝、朝食のテーブルについたときには、3人とも同じ曲に決めていました」

 (Performing Songwriter   September 30, 2010)

 

 この後も彼ら三人は曲作りを続けました。

 例えばジェイムズ・イングラムパティ・オースティンの「君に捧げるメロディ(How Do You Keep The Music Playing?)」。1982年の映画「結婚しない族(Best Friends)」の主題歌でした。


James Ingram & Patti Austin - How Do You Keep The Music Playing

 

 また、「華麗なる賭け」は1999年にリメイクされています(タイトルは「トーマス・クラウン・アフェア」)。そして、「風のささやき」はスティングがカバーしていました。映画の出来はともかく(?)、スティングの声とメロディはよく合ってると僕は思いました。


Sting - Windmills of Your Mind HD (my edition)

 

 

 

アラン&マリリン・バーグマンが作詞した名曲

popups.hatenablog.com

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華麗なる賭け」をモチーフにしたMVを制作していましたね

popups.hatenablog.com

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