まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「追憶(The Way We Were)」バーブラ・ストライサンド(1973)

 おはようございます。

 連日このブログに登場しています、夫婦で映画の主題歌の作詞を手掛けているアラン&マリリン・バーグマン。彼らが書いた「風のささやき」と並ぶスタンダード曲を今日はピックアップしました。1973年の映画「追憶」の主題歌です。

 


Barbra Streisand "The Way We Were"

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Memories
Light the corners of my mind
Misty water-colored memories
Of the way we were


Scattered pictures
Of the smiles we left behind
Smiles we gave to one another
For the way we were


Can it be that
It was all so simple then?
Or has time re-written every line?
If we had the chance to do it all again
Tell me, would we?
Could we?

 

Memories
May be beautiful and yet
What's too painful to remember
We simply choose to forget


So it's the laughter
We will remember
Whenever we remember
The way we were
The way we were

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 ”思い出 心の片隅を照らし出す

  かすんだ水彩画のような 二人過ごした記憶

    散らばった写真には 私たちが置き忘れた笑顔が映っている

 たがいに微笑み合っていた あの日の二人

 

 どうして、あの頃はあんなにシンプルでいられたの?

 それとも時間が記憶をそう書き換えただけ?

 もし二人が初めからやり直せるチャンスがあったなら

 ねえ、どうなっていたの? どうしていたの?

 

 記憶は美しい そうかもしれないけど

 思い出すのがとてもつらいから

 二人はただ忘れることにしたの

 

 私たちが思い出すのは そう笑っている二人 

 いつでも思い出すのは  あの頃の二人 ”  

                                                                     (拙訳)

 

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 映画で使われたヴァージョンはストリングスをメインにしたものでした。


Barbra Streisand - The Way We Were (Movie Version)

   「追憶」を作曲したのはマーヴィン・ハムリッシュ。彼はミュージカル「コーラスライン」の音楽で有名ですが、「追憶」と同じ年に「スティング」 の音楽も担当し、1974年のアカデミー賞では「追憶」で最優秀歌曲(主題歌)賞、作曲賞(ドラマ部門)「スティング」で作曲賞(歌曲・編曲部門)と、音楽関係の3冠を史上初めて独占しました。

 

  *アフリカ系アメリカ人の作曲家スコット・ジョプリンが1902年に作った曲を彼は自身のピアノとアレンジで蘇らせました。 ↓ 


Marvin Hamlisch - The Entertainer

  

 映画版じゃなくシングルとしてヒットしたほうの「追憶」のアレンジはマーティ・ペイチ。TOTOデヴィッド・ペイチのお父さんですね。

 それから注目したいのは、ドラムスがハル・ブレイン、ベースがキャロル・ケイという、アメリカの数々のポップ・ヒットのバッキングを務めた名スタジオ・ミュージシャンたち(”レッキング・クルー”)のリズム隊だということです。

 

 このブログでも「ビー・マイ・ベイビー」(ロネッツ)「ふられた気持ち」(ライチャス・ブラザース)「素敵じゃないか」(ビーチ・ボーイズ)「ビートでジャンプ」(フィフス・ディメンション)「59番街橋の歌」(ハーパーズ・ビザール)など、彼らの演奏したものです。

 女性ベーシスト、キャロル・ケイによると、この「追憶」はこの音は弾くな、などと細かく支持されて何度もテイクを重ねて記憶に残るものだったそうです。

 こういうバラードで聴ける、派手さを抑えた彼らのプレイに耳を傾けるのもまた趣があるっていいなあと僕は思います。

 

 「追憶」の作詞をしたのはアラン&マリリン・バーグマン。NYブルックリンの同じ産院で生まれたという二人が出会ったのは、LAに移り住んでソングライターの活動を始めたからでした。

 アランはガーシュインのミュージカル「ポーギーとベス」に衝撃を受けたことをきっかけにブロードウェイ・ミュージカルに心酔しソングライターを目指し、「ムーン・リバー」などを手がけアメリ音楽史上最高の作詞家と言われるジョニー・マーサーに師事していたそうです。

 マリリンのほうは6歳からピアノを始め真剣に音楽を学んでいましたが、クラシックのピアニストになる才能がないと断念し、大学時代に肩を大怪我したことをきっかけに、友人の勧めで作詞を始め、いきなりペギー・リーに採用されました。。

 そして、作曲を仕事につなげるためにテレビのディレクターをしていたアランはマリリンに出会い、一緒に曲を書くようになりました。

 

 彼らが作詞を手がけた最初のヒットは、ハイチの古い楽曲に新たに英語詞をつけ、それをノーマン・ルボフ合唱団が歌った「イエロー・バード」という曲でした。

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 そして、1960年にフランク・シナトラが彼らの「Nice 'n' Easy」という曲を取り上げたことで、名前が知れ渡るようになりました。

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 その後、たくさんの映画やTVの楽曲を手掛けた彼らですが、音楽への理解が深く映画でどのように音楽を使えばそのシーンや登場人物が映えるかを理解していた監督としてノーマン・ジェイソンとシドニー・ポラックの名前を挙げています。「風のささやき」(「華麗なる賭け」)と「追憶」の監督ですね。

 アランとマリリンは二人ともしっかり音楽を学んで作曲もできる作詞家でしたし、やはり映画から生まれる名曲というのは、言葉だけじゃなく音楽への理解が深い人たちが集まらなければできないものなのかもしれませんね。

 

 

 「追憶」は全米1位に輝いていますが、もう1曲アラン&マリリン・バーグマンが歌詞を書いてバーブラが歌った全米1位の楽曲があります。それが「愛のたそがれ(You Don't Bring Me Flowers)」(1978年)です。ニール・ダイヤモンドとのデュエットで彼が作曲もしています。それを最後に。

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