まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ピース、ラヴ・アンド・アンダスタンディング(What's So Funny 'Bout)Peace, Love, and Understanding」エルヴィス・コステロ&ザ・アトラクションズ(Elvis Costello & The Attractions)(1978)

 おはようございます。

 今日は平和を歌った曲の中で僕が一番好きな歌です。「(What's So Funny 'Bout)Peace, Love, and Understanding」。今日はエルヴィス・コステロのヴァージョンで。


Elvis Costello & The Attractions - (What's So Funny 'Bout) Peace, Love And Understanding

As I walk through
This wicked world
Searchin' for light in the darkness of insanity.
I ask myself

Is all hope lost?
Is there only pain and hatred, and misery?
And each time I feel like this inside,
There's one thing I want to know:

What's so funny 'bout peace love & understanding? 
What's so funny 'bout peace love & understanding?

And as I walked on
Through troubled times

My spirit gets so downhearted sometimes
So where are the strong
And who are the trusted?
And where is the harmony?
Sweet harmony.

'Cause each time I feel it slippin' away, just makes me want to cry.
What's so funny 'bout peace love & understanding? 
What's so funny 'bout peace love & understanding?

So where are the strong?
And who are the trusted?
And where is the harmony?
Sweet harmony.

'Cause each time I feel it slippin' away, just makes me want to cry.
What's so funny 'bout peace love & understanding? 
What's so funny 'bout peace love & understanding? 
What's so funny 'bout peace love & understanding?

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"悪意に満ちた世界の中を歩きながら 
狂気の暗闇の中で光を探していた
僕は自分に問いかける

希望はすべて消えてしまったのか?
残されたものは痛みと憎しみと惨めさだけなのか?
そして僕はそんな思いにとらわれるとき
一つだけ知りたいことがある

平和と、愛と、理解のどこがそんなにおかしいんだい?
平和と、愛と、理解のどこがそんなにおかしいんだい?

困難に満ちた日々を歩き続けると
僕の魂は時々打ちひしがれる
頼りになるものはどこにいる?
信じられるものは誰なんだ?
ハーモニー(調和)はどこに行ってしまったんだ
あの素晴らしいハーモニーは

それがなくなってしまったことを感じると 僕は泣きたくなるんだ
平和と、愛と、理解のどこがそんなにおかしいんだい?
平和と、愛と、理解のどこがそんなにおかしいんだい? ”

            (拙訳)

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  この曲を書いたのはこのブログの第一回目にとりあげた「恋するふたり(Cruel To Be Kind)」のニック・ロウ。この2曲だけでもう、僕は彼のことを”心の神棚”(?)に祀ってしまっています。

 今の世界は不穏なことが多く決して平和ではないと誰しも思っているので、平和を声高に訴えることには全然違和感はないと思います。

 しかし、少し前まで、特に僕が青春期を過ごした80年代からバブル期は、平和だ愛だなどと訴えることに対して、シニカルな、冷ややかな、茶化したような、見方をするのが大勢を示していました。正直僕もそっち側だったと思います。その時代の”平和”を当たり前で普遍のものだと思っていた、思慮のなさからくる姿勢だったと今では思います。

 そんな時代でも

 平和と、愛と、理解、のいったいどこがおかしいっていうんだ?

 っていうこの曲の投げかけは、平和ボケした僕の頭にも何かを投げかけてくるような感覚はありました。

 何かにいら立っているようなエルヴィス・コステロの佇まいと、バンドの性急なほどの疾走感がその言葉をいっそう際立たせているようにも思えました。 

 この曲はもともと、ロウが所属していた”ブリンズリー・シュウォーツ”のアルバムに収録されていたものです。


Brinsley Schwarz - (What's So Funny 'Bout) Peace, Love & Understanding

 彼がこの曲を書く動機になったのは、”ヒッピー”のムーヴメントが終わってしまったことだったようです。

 愛と平和や自由を謳った若者のムーヴメントで世界的な社会現象にもなったのですが、その終焉とともに古臭くナンセンスなものへと変わってしまいました。

 自身もヒッピーの活動に没頭していたロウは、どこかの年老いたヒッピーを念頭に置いて、

 ”きみは笑うかもしれないが、だからといって平和や愛のいったいどこが可笑しいというんだい?”と彼が言っている、そんなイメージでこの曲を作ったようです。

 そこには、ヒッピーは流行としては終わったかもしれないけれど、平和や愛を願った理念は間違っちゃないだろ?そんな皮肉がこめられていました。

 

 そしてこの曲をエルヴィス・コステロがとりあげることにより、他の人たちを触発するようなトーンが一気に強まったのです。これが実に効果的でした。

 ”老いたヒッピーの皮肉なつぶやき”だった歌が”怒れる若者の叫び”に変わったのです。

 (ただし、煽るようなコステロのスタイルはこの曲の本来の意図とは違ったのでしょう、ロウ自身が演奏するときはだいたいいつもスローテンポで淡々と歌っています)

 当初はニック・ロウのシングルのカップリングでコステロの名前も表記されていなかったようですが、反響が大きかったようでコステロのアルバム「アームド・フォーセズ」のアメリカ盤に収録されることになりました。

 

 そして、この曲を世界的に知らしめる”想定外の出来事”が起こります。1992年に映画「ボディガード」のサントラ盤にこの曲のカバーが収録されたのです。シンガーはカーティス・スタイガース、アレンジ、プロデュースはダニー・コーチマーでした。

    カーティスのボーカルの個性が映えるように、古いR&Bスタイルにアレンジされています。


Curtis Stigers ~ (What 'S So Funny 'Bout) Peace, Love And Understanding ~ The Bodyguard [10]

 「ボディガード」は史上最も売れたサントラ盤でそのセールスは4500万枚以上と言われていますから、印税の額は想像もつきませんが、ロウは当時音楽だけでは食っていけてなかった、この曲を一緒に演奏したかつての仲間”ブリンズリー・シュウォーツ”のメンバーに印税を分けた、と語っています。

 2017年にはウィルコもカバーするなど、アルバムの中の1曲、次にシングルのカップリング曲と地味な形で世に出たこの曲ですが、長い年月とともにゆっくりと着実にスタンダードになっていったのです。

 そういえば、2010年にジャクソン・ブラウンシェリル・クロウ東京国際フォーラムでジョイント・コンサートをやったときに、アンコールのラストでこの曲を演奏していました。

 2004年のジョージ・ブッシュジョン・ケリーが戦った大統領選で多くのミュージシャンがケリーを支持し、そのキャンペーンとしてライヴが展開されていましたが、ブルース・スプリングスティーンエディ・ヴェダーパール・ジャム)、マイケル・スタイプ(R.E.M)、ジョン・フォガティ、ボニー・レイットなどとともにこの曲を演奏しています。ステージの端にはジャクソン・ブラウンもいました。 


Bruce Springsteen: What's so funny 'bout peace, love & understanding

 平和を歌う重要なアンセムのひとつになっているんですね。政治にあまり関心のない人たちに訴えかけるには、この曲が最適なのかもしれないと僕は思います。

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