まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「恋するふたり(Cruel to Be Kind)」ニック・ロウ(1979)

 おはようございます。

    突然ですが、今日からポップスをランダムに選んで毎日紹介していこうと思います。 

 

 などと思い立ったのは、自分が50数年生きてきて、自分の歩みをふと振り返ってみたときに、当然人並みにいろいろアップダウンもあったわけですが、けっこう楽しかったなあ、と思い出すのが高校時代の後半だったんですね。

 なんで楽しかったんだろう?と具体的に思い出した時に、あるメソッド(大袈裟ですが)があったのに気づきました。

 

 普通、高校に行くなんて”かったるく””憂鬱な”わけで、僕も最初はそうだったんですが、その対抗手段として毎日、明るくて気分が高揚するポップソングを聴いてから登校することを”日課”にしてみたんです。

 そして、その余韻が残ったくらいの”軽い上機嫌な”テンションのまま他の連中に接すると、なんだか物事が多少うまくまわるような感じになることを発見したんです。

 <能天気でハイテンション>なのはウザがられるけど、ほどほど上機嫌なのは他人から結構歓迎されるんだなあ、と。

 もちろん、それを台無しにしてくれるような出来事もたくさんあったはずですし、そんな気分になれない朝も数多くあったと思いますが、とにかく習慣というか”朝の儀式”のように続けました。そして、いまになって思い出してみると、けっこう効果があったんじゃないかな、と思ったわけです。

 それで、何十年かぶりにそういう”日課”をやってみたくなりました。そして、せっかくなら個人の日課で終わらせないで、ブログでやれば、たまたま読んだ人がその曲を聴いて気分が良くなる可能性もなくはないな、と手前勝手ですが、考えたわけです。

 

 自分の気分の目盛りを前向きなほうに、少しだけでもまわしてくれる、そういう音楽と接することの効用は、ぼうっとしているだけで知らぬ間に心が病んでしまうような今のような時代においてはなおさら、”日常の心のメンテナンス”として、決して侮れないように思います。

 

 さて、第一回目は、当時僕が登校前に聴いていた曲の中でたぶん一番のヘビーローテーションだった曲です。

 歌っているのはニック・ロウ。曲は「恋するふたり」、”Cruel to BE Kind”です。

 


NICK LOWE - CRUEL TO BE KIND - HQ Best Version. New Audio.

 

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Oh I can't take another heartache
Though you say you're my friend, I'm at my wit's end
You say your love is bonafide, but that don't coincide
With the things that you do
And when I ask you to be nice, you say

You've gotta be cruel to be kind, in the right measure
Cruel to be kind, it's a very good sign
Cruel to be kind, means that I love you, baby
(You've gotta be cruel)
You gotta be cruel to be kind

Well I do my best to understand dear
But you still mystify and I want to know why
I pick myself up off the ground
To have you knock me back down, again and again
And when I ask you to explain, you say

You've gotta be cruel to be kind, in the right measure
Cruel to be kind, it's a very good sign
Cruel to be kind, means that I love you, baby
(You've gotta be cruel)
You gotta be cruel to be kind

Well I do my best to understand dear
But you still mystify and I want to know why
I pick myself up off the ground
To have you knock me back down, again and again
And when I ask you to explain, you say

You've gotta be cruel to be kind, in the right measure
Cruel to be kind, it's a very good sign
Cruel to be kind, means that I love you baby
(You've gotta be cruel)
You gotta be cruel to be kind

(Cruel to be kind), oh in the right measure
(Cruel to be kind), it's a very very very good sign
(Cruel to be kind), it means that I love you, baby
(You've gotta be cruel)
You gotta be cruel to be kind

(Cruel to be kind), oh in the right measure
(Cruel to be kind), yes it's a very very very good sign
(Cruel to be kind), it means that I love you, baby
(You've gotta be cruel)
You gotta be cruel to be kind

(Cruel to be kind), oh in the right measure
(Cruel to be kind), yes it's a very very very good sign
(Cruel to be kind), it means that I love you  

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” もう傷つくなんてまっぴら 君は僕の友達だっていうけど

   途方に暮れるばかりさ

     君は自分の愛は誠実だっていうけど やってることと一致しないよ

   僕がやさしくしてよって頼むと こういうのさ

 

     冷たくするのはやさしくしたいから

  それが正しい方法なの

     やさしくするために冷たくするのは、いいサイン

  やさしくするために冷たくするのは、愛してるってこと

   ベイビー、やさしくなるには冷酷さが必要なの

     

   なんとか理解しようと頑張っているのに

   君は相変わらず僕を惑わせるのはどうしてなんだい?

   僕が懸命に立ち上がるのは

   君にまた打ち倒されるためみたいさ   何度も何度も

  それで 君に説明を求めたら、こう言うんだ

 

      冷たくするのはやさしくしたいから

  それが正しい方法なの

     やさしくするために冷たくするのは、いいサイン

  やさしくするために冷たくするのは、愛してるってこと

   ベイビー、優しくなるには冷酷さが必要なの  ” (拙訳)

 

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 ニック・ロウはイギリスのシンガー・ソング・ライターでプロデューサーです。ロック・ポップスへの深い造詣を持ちながらも、軽快なスタイルを崩さないまさに粋人です。

 もともとは、彼がソロになる前にメンバーだったブリンズリー・シュウォーツというバンド用に書いたものでした。しかし、この曲が収録されるはずのアルバムは結局発売されませんでしたが、後年になってそのヴァージョンも発表されました。

 

 ちなみにこの曲、後になって調べてみると、冷たくするのは愛しているって意味なのよ、という気まぐれな彼女に翻弄される男の嘆きの歌(でも、やっぱり好きなんだというハッピーなニュアンスですが)で、高校生がよし学校に行くぞ!ってモチベーションにするような曲じゃなかったんですね。。。

 

 この”Cruel To Be Kind”(やさしくするために、冷たくする)というフレーズの原点をさかのぼってゆくと、なんとシェークスピアの「ハムレット」にたどりつくんです。第3幕第4場面で、ハムレットが母親に向かっていうセルフの中に

 "I must be cruel, only to be kind" (私は残酷にならねばならない、優しくなるために

 というフレーズが出てきます。

 また、「コンクリートとクレイ」というヒット曲のあるイギリスのバンド”UNIT4+2”に、「You've Got To Be Cruel To Be Kind」(1965)という曲があります。


You’ve Got to Be Cruel to Be Kind

 ハムレットとUNIT 4+2のどちらが、ニックのインスピレーションになったのは不明ですが、、

 

  このニック・ロウの最大のヒット(全米、全英チャート共に最高12位)は、彼自身はあまり乗り気じゃなかった曲のようです。  

エルヴィス・コステロも契約したコロムビアA&Rヘッドのグレッグ・ケラーが、僕らのデモや作業中の物を全部聴いたあとで、一番興味を示したのが<恋するふたり>だったのには、正直驚いたんだ。あれはあまり誇れる曲じゃなかった。だって書いたのは1974年だよ。それを時代の先端を行くニュー・ウェイヴ風に焼き直した曲だったからね」

「(グレッグ・ケラーは)穏やかなんだけど鋼みたいに折れないんだ、<恋するふたり>をレコーディングしろって。僕なんかじゃ太刀打ち出来なくて、最終的には彼に言い負かされる形だったよ」

(「恋するふたり ニック・ロウの人生と音楽」)

 

 僕の生涯屈指のフェイヴァリット・ソングの録音を強硬に後押ししてくれたグレッグ・ケラーさんには本当に感謝したいと思います。

 

 そして、作り手(アーティスト)には、得てして自分の作品を客観的にジャッジすることは難しくて(僕の経験上では、オリジナリティの高い作品を作れる人のほうがよりその傾向が強いように思います)、やはりアーティストのそばには客観的な”耳”を持つ人間は必要なんだなと思ってしまいます。

 

 

 ブリンズリー・シュウォーツ時代のオリジナル・ヴァージョン。1978年のニック・ロウのシングル「Little Hitler」のB面にも収録されていました。これもなかなか悪くないです。


Nick Lowe - "Cruel To Be Kind (Original Version)" (Official Audio)

  

「恋するふたり」収録のオリジナル・アルバム

レイバー・オブ・ラスト

レイバー・オブ・ラスト

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 かなり詳しいエピソードがいっぱいで面白かったです

 

 

popups.hatenablog.com

 

ニック・ロウ作の名曲!

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