まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Lovely Day」ビル・ウィザース(1977)

 おはようございます。

 今日はビル・ウィザースの「Lovely Day」です。晴れた日に聴きたい、とかドライヴにぴったり、とかいうテーマのコンピレーションCDの定番曲ですし、FMでもよく耳にするので、聴いたことのある方は多いかもしれません。


Bill Withers - Lovely Day (Audio)

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When I wake up in the morning, love
And the sunlight hurts my eyes
And something without warning, love
Bears heavy on my mind

Then I look at you
And the world's alright with me
Just one look at you
And I know it's gonna be
A lovely day
lovely day, lovely day, lovely day

When the day that lies ahead of me
Seems impossible to face
When someone else instead of me
Always seems to know the way

Then I look at you
And the world's alright with me
Just one look at you
And I know it's gonna be
A lovely day

When the day that lies ahead of me
Seems impossible to face
When someone else instead of me
Always seems to know the way

Then I look at you
And the world's alright with me
Just one look at you
And I know it's gonna be
A lovely day

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 朝、目がさめると

目が痛いほどの太陽の光

不意に何かが重く心にのしかかるんだ

 

そして、君を見つめると

世界は何の問題もないように思えるんだ

ただ一度君を見るだけで

今日は素敵な日になりそうだってわかるのさ

素敵な日、素敵な日、素敵な日

僕の目の前に見えるその1日に

立ち向かえないって思える時

僕の代わりに誰かが

いつもその方法を知っているような気がするんだ

 

そして、君を見つめると

世界は何の問題もないように思えるんだ

ただ一度君を見るだけで

今日は素敵な日になりそうだってわかるのさ

 

僕の目の前に見えるその1日に

立ち向かえないって思える時

僕の代わりに誰かが

いつもその方法を知っているような気がするんだ

 

そして、君を見つめると

世界は何の問題もないように思えるんだ

ただ一度君を見るだけで

今日は素敵な日になりそうだってわかるのさ

                          (拙訳)

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「Lovely Day」の楽譜はこちらから

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  日本ではビル・ウィザースの代表曲といえば、もうこの曲になったのかもしれませんね。

 彼には「Lean On Me」や「Ain't No Sunshine」など、この曲よりもっとヒットした曲があって、たぶん本国アメリカでの評価は今でもそちらの曲のほうが認知されているはずです。

   客演ではありますが「Just The Two Of Us(邦題:クリスタルの恋人たち)」も世界中で人気で日本のアーティストもよくカバーしていますよね。

 

 しかし、大ヒットした映画「ボディガード」サントラ(1992年)にソウル・システムというグループがこの曲をサンプリングした「It's Gonna Be Lovely Day」という曲が入って少し流れが変わったようですが、大きかったのは1999年にGAPのTVCMでこの曲が使われたことだったようです。そのせいか、2000年代に入ってからアメリカでは、この曲のカバーがどんどん増えています。

 

 日本ではいつのまにか長い年月をかけて、彼の代表曲になっただけではなく、晴れた日に聴きたい曲、気分を良くしたい時に聴きたい曲の大定番にまでなりました。

 FMなどでのオンエア、コンピレーションCDやサブスクのプレイリストでの選曲、そういったことが長期間積み重なっていったことで得られた結果だという気がしています。

   ちなみに、イギリスでもこの曲が一番ヒットしたようなので、洗練されたR&Bを好む嗜好性は日本人と近いのかもしれません。

 

 歌詞を読んでみても、実に気分を良くしてくれる、シンプルだけど心にすっと入ってくるものです。

   Songfactsのインタビューでビル・ウィザーズはこの曲のインスピレーションについてこう語っています。

 

   「インスピレーションは共作者だ。僕たちはみんなある意味スポンジみたいなもんなんだ。とてもいい人たちのそばにいると、自分の中のいいところが出てくる。嫌な人がまわりにいると、嫌な人になろうとしてしまう。体育会系の人ばかりの部屋にいるときと、クラリネット奏者ばかりの部屋にいるときとでは、自分の性格が違うことに気づいたことがあるかな?僕たちはみんな合わせてしまうんだ。あるいは、君がおばあさんと話すときと、同世代の親友と話すときの違いもそうさ。

 

 スキップ・スカボロウは、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲を書いているソングライターなんだけど、僕が誰かとコラボレーションするときはいつも、彼らは主に作曲を担当し、私は主に歌詞を担当するんだ。みんな、私に任せてくれるみたいで。スキップは、最近亡くなってしまったけど(2003年)、とても善良なジェントルマンだった。彼は僕が自分の考えを徹底して探らせるようにしてくれて、もっと彼以上に彼らしい何かが僕に起こったんだ。スキップの生き方は、毎日がまさに”Lovely Day"だった。彼は楽天家だったんだ。もし僕が同じ音楽を聴いて座っていたとしても、一緒に作業する人が違う性格の人だったとしたら、おそらく歌詞として何か違うものが頭をよぎっていたと思うんだ」

 

 

  むちゃくちゃ面白い意見ですね。ビル・ウィザースのインタビューって、人間の”芯を食った”ようなことをいつもさらっと言うんですよね(ビル・ウィザースの名言集、みたいな本が出たら僕は絶対買います)。

 確かに僕たちは、どんなパーソナリティの人と一緒にいるかによって、その都度自身を意識的にしろ無意識にしろ調整しながら生きています。その人のキャラによって調整の程度が少ないか過剰かの違いはあるのでしょうけど。

 他人と接するときに自分のトゲトゲした面を出すと、相手もトゲトゲした面を出してくるのが普通です。なるべく友好的に接した方が、不当に不快な思いをする割合はぐっと減りますよね(残念ながら100%はなくなりませんが)

 ともかく、そういう調整機能があるおかげで人間社会がなんとか維持されているのは間違いないでしょう。

 

 そして、彼はスキップ・スカボロウという楽天的で優しい人間と共作したために、彼の人間性、生き方が歌詞に反映されたのだというのです。クリエイターとしても、その調整機能が作用していると。

 同じメロディでも、共作者の性格が違ったなら、違う歌詞になっただろうとまで言っているわけです。

 

 しかし、これはけっこう難しいことではあると思います。

 何かをクリエイトする場合、自分の世界とか自分らしさを最初から意識してしまって、変なバイアスをかけてしまうことが多いのではないでしょうか。

 またそういう人に限って、作るものが大したものじゃないという傾向があります(これはクリエイターを目指していた若い頃の自分への自戒の意味もこもっています(苦笑))。

 ビル・ウィザースは、変なバイアスなどいっさいなく、自分の感性を限りなくオープンにできたんですね。共作者のパーソナリティまで自分の中を通って出てきたわけですから。

 小説や絵画などとは違って、音楽は特にそういう”開けた感性”や”共感”みたいなものが大事なジャンルなように思います。

 

 ビートルズでは、ジョンとポールの化学反応が、本人たちの才能を想定以上のレベルまで開花させ、それがジョージの才能までに大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。

 エルトン・ジョンバーニー・トーピンの歌詞がなければ、作曲の才能を十分に発揮できなかったわけですし。

 バート・バカラックキャロル・キングにしても、息のあった作詞家パートナーとの曲が、あきらかに素晴らしいですし。

 

 それが音楽で”共作”をする大事な意味なのかもしれません。

 ”自分が思いもしなかったものが相手の影響で自分の中から出てくる”

 いま、音楽の世界では、特に海外では圧倒的に共作が増えているのは、”予想外の化学反応”のようなものがなかれば、新鮮なものは生み出せない、ということなのかもしれいと僕は思います。

 

 

 さて、話を戻して、スキップ・スカボロウですが、彼は本当に洗練されたメロディを書く素晴らしい作曲家です。

 アース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲では「Can't Hide Love」が有名です。

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 ただ、「Lovely Day」のように、そんなに楽天的な軽快な曲のイメージはないんですよね。ミディアムかスロー・テンポの曲の方が多いんじゃないでしょうか。

 しかし「Lovely Day」と同じ時期に彼がE,W&Fに書いた曲はちょっと「Lovely Day」と相通じるものがあります。「Love Music」。

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 もともと楽天家だったとビル入っていますが、この時期にスカボロウさんにとって特に何かいいことでもあったのかなあ、などと勘ぐってしまいますが、ともかく、「Lovely Day」の曲と歌詞のマッチングは、類稀なるレベルのものだと僕は思います。

 

 さて、最後は恒例のカバー・ヴァージョン。

 この曲を(たぶん)真っ先にカバーしたのはたぶん、イギリス白人R&Bのパイオニア、ジョージー・フェイム。動画がカットされていたのでご紹介できませんが、、

 映画「フート」(2006年)のサントラではマルーン5がカバー。ビル・ウィザースと娘のコリがコーラスで参加しています。

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 最近のカバーではこれがいいです。ジャズ・アーティストながら幅広い音楽性を持つホセ・ジェイムズ。2018年のビル・ウィザースへのトリビュート・アルバム「リーン・オン・ミー」から。デュエットの相手はレイラ・ハサウェイ。

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「Lovely Day」収録のオリジナル・アルバム

  

 

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