まいにちポップス(My Niche Pops)

毎日好きな曲を聴いて気持ちを整えながら、なんとか人生をやってこれた筆者が、古今東西のポップ・ソングを、意外なエピソード、マニアックなネタ、拙い対訳、勝手な推理、などを交えて紹介しています。みなさんの音楽生活に少しでもお役に立てればうれしいです。text by 堀克巳(VOZ Records)

「ハート・オブ・マイン(Heart Of Mine)」ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)(1988)

 おはようございます。今日はボズ・スキャッグスの「ハート・オブ・マイン(Heart Of Mine)」を。

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One day you may find true love that will last forever and ever
'Till then you'll spend a lifetime wishing one together
You never thought she'd say goodbye
And you'll never understand the reasons why

Heart of mine
How will you keep from dying
Stop reminiscing who is she kissing?
Heart of mine
Oh what's the use in trying
No one can mend you now

Love plays cruel games
You can't believe she's found another lover
"Does she miss me?"
Sometimes you just can't help but wonder
No, you can't hold the hands of time
And you'll always be the one she left behind

Heart of mine, how will you keep from dying stop reminiscing
Who is she kissing heart of mine, 
Oh what's the use in trying 
No one can mend you now

And you'll never understand the reasons why

Heart of mine, how will you keep from dying stop reminiscing
Who is she kissing heart of mine, 
Oh, what's the use in trying 
No one can mend you now
Oh, heart of mine heart of mine 
Heart of mine

**************************************

いつか君も
永遠に続く本当の愛を見つける日が来るかもしれない
それまでは一緒にいられたらと願い続ける人生を送るだろう

彼女がさよならを言うなんて思いもしなかった
そして君はその理由を決して理解できないまま

僕の心よ
君はどうすれば生き延びれる?
思い出にすがるのはやめて
彼女は誰とキスしているのだろう?

僕の心よ
もう何を頑張る意味がある?
今の君を
誰も癒すことはできない

愛は残酷なゲームを仕掛けてくる
彼女がもう別の恋人を見つけたなんて
信じられない
「彼女は僕を恋しく思うだろうか?」
そう思わずにはいられない夜もある

でも時間の針を止めることはできない
君はいつまでも
彼女に置き去りにされたままさ

僕の心よ
君はどうすれば生き延びれる?
思い出にすがるのはやめて
彼女は誰とキスしているのだろう?

僕の心よ
もう何を頑張る意味がある?
今の君を
誰も癒すことはできない

そして君は
その理由を決して理解できない

僕の心よ
君はどうすれば生き延びれる?
思い出にすがるのはやめて
彼女は誰とキスしているのだろう?

僕の心よ
もう何を頑張る意味がある?
今の君を
誰も癒すことはできない

おお、僕の心
僕の心、僕の心よ   (拙訳)

**************************************

 数年前に世界的に大ブレイクした日本のシティポップ。そのルーツというか、お兄さんのような存在の洋楽のジャンルがAOR(エーオーアール)です。これはアダルト・オリエンテッド・ロック(Adult-Oriented Rock)の略語で、アダルト向けのロックということなんですが、完全な和製英語で日本独自のジャンル名なんですね。

(ちなみに、アメリカではAOR(Album-Oriented Rock)という、シングル向きじゃなく、アルバムの中で存在感を発揮する楽曲を指す言葉もありましたが、今ではほとんど耳にしません)

 AORは、都会的に洗練され聴きやすいポップ/ロックで、富裕層のラグジュアリーな生活や恋愛を夢想させるものでした。当時の日本人の多くはそういう世界に憧れていたんですね。アメリカのオシャレな流行を知らせるファッション誌、情報誌が人気でしたし。

  21世紀に入ってアメリカではそういうバブリーなイメージを揶揄して”ヨット・ロック”(カリフォルニアでプライベート・ヨットで優雅にクルーズするイメージ)なんて、名前をつけられてそのまま定着してしまいました。また、聴きやすいロックということでソフト・ロックという言い方も昔からありました。

 ただ、AORをヨット・ロックやソフト・ロックにそのまま置き換えるのには僕は抵抗があって、それはAORR&Bの影響が大きいロックだという重要な視点がヨット・ロックやソフト・ロックの分類ではぼやけてしまうからです。白人がR&Bを歌うジャンルをブルー・アイド・ソウル(Blue Eyed Soul)”なんて言いましたが、AORはそことも濃く繋がっていました。また、この当時、R&Bがジャズ/フュージョンと融合して、洗練されたスタイルになっていったんですけど、そういう音楽もAORとシンクロしていました。

 さて、僕はAORに夢中になった田舎の中学生だったんですけどw、ファンとしての実感から言うと、AORの王/長嶋、馬場/猪木にあたる二大巨頭はボズ・スキャッグスボビー・コールドウェルと思います。

 二人とも白人でいながら、黒人のファン層にも広く支持されたほどの、R&Bフィーリングの強いボーカリストでもあります。後年ボズはよりブルージーに、ボビーはジャズの方向性へと進んでいきましたが。

 そのAOR二大巨頭が初めて、そして唯一、揃い踏みした貴重な楽曲がこの「ハート・オブ・マイン」だったんです。 

 この曲を初めて聴いた時、失恋しているのが君なのか僕なのか、人称がよくわからなかったのですが、いい曲なので気にせずそのまま放置(笑)していたのですが、今回訳してみて、この歌は「僕」が「僕の心」に向かってずっと話しかけているんだな、と気づきました。君(You)とは「僕の心(Heart of Mine)」のことなんですね。

 でも、やっぱり人称で混乱して聴いてしまう人が多かったのでしょうか、この曲の作者であるボビー・コールドウェルが翌年1989年のアルバム「Heart of Mine」でセルフ・カバーした時は、サビ以外の”you”を” I ”に変更しています。日本ではタバコのTVCMでも使われたのでこちらのバージョンに馴染みのある人のほうが多いかも知れません。

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 ボビーのほうは、最初は自問自答して、サビだけ「僕」が「僕の心」に向かって話しかけている構成になっています。やっぱり、こちらの方がわかりやすいかもしれないですね。

 さて、ボズ・スキャッグスのオリジナルは1988年リリースのアルバム「アザー・ロード(Other Roads)」からのシングルとして全米チャート35位になっています。前作「ミドル・マン」から8年ぶりのリリースでした。

 僕は当時レコード会社に入社して2年目、営業マンとしてこのアルバムを担当レコード店に売り込んだ記憶があります。商品を一枚でも多く仕入れてもらって、目立つところに置いてもらうとか店頭での展開を交渉したりするんですよね。アルバムの内容は「ミドル・マン」に比べてちょっと地味だなあ、と内心思ったのですが、この「ハート・オブ・マイン」のウケがよく、そこそこ(?)売れたように思います。

 ボビー・コールドウェルはこの曲についてこうコメントしています。

「一番最初はこの曲はボズのために書いたんだ。でもそうはならなかったんだ。そして、話があちこち回ってね。シカゴのアルバムに入る予定だったこともあったし、でも結局入らなかった。それからボズがデモを録ったんだけど、俺はそれが本当に最高だと思った。あのデモがどうなったのかはわからない。その後、彼は一度この曲に興味を失ってしまったんだ。でもまたこの曲をやることになって、結果的にはアダルト・チャートでナンバーワンを取ったんだ。本当にいろんな変遷をたどった曲だよ。でも彼が歌ったときは、ああ、ボズって感じだって思った。」(Write on Music)

 この当時、ボズ・スキャッグスは継続して売れてステイタスを築いていたのですが、ボビーは「風のシルエット(What You Won't Do For Love)」の”一発屋”と見られていました。それで、彼はマイアミからLAに移住し、他のソングライターたちと共作していろんなアーティストに曲を提供することで、次のチャンスを狙っていたんですね。

 この曲の共作者にはマイケル・センベロと一緒に「マニアック」を書いたデニス・マトコスキー、後にシカゴでピーター・セテラの後任として活躍するジェイソン・シェフの名前があります。

 ボビーは「ハート・オブ・マイン」を「ボズのために書いた」と言っていましたが、よく調べてみると、実はこれ「ボビーのために書いた」曲だったんです。

 この曲を最初に着想したのは実はジェイソン・シェフでした。

 彼は当時まだ実績のないソングライターで、知り合いになったボビーの家に泊まりにいったのだそうです。

「そこでアップライトピアノの前に座りながら考えたんだ。”ソングライターとして、なんとかしてボビーの注意を引かなきゃ。ボビーなら、どんな曲を歌うだろう?”そう思いながら、「Heart Of Mine」のコード進行とメロディを書き始めた。」

 それから、当時ボビーがくつろいだ部屋に行き、しばらく、二人でテレビをぼんやり見たあと、彼は意を決してボビーに、その曲のアイデアを聴いてほしいと、と遠慮しながら切り出すとボビーはすぐに聴かせてみろよ、と言ったそうです。

「僕はやっとの思いで、「Heart Of Mine」のAメロのメロディをかすれ声で歌った。
するとボビーが大興奮する。「何だそれは!?」と叫んで、僕を横に押しのけ、そのまま「Heart Of Mine」の美しいサビのコード進行に入っていった。そしてなんと、その場で歌詞込みでサビを書き上げてしまったんだ。二人とも、その瞬間に確信していた。
「これは、すごいものだ」って」(jasonsheff.com)

 ジェイソンがボビーが歌うことを想定して書き始められ、その後加わったボビーはボズが歌うことをイメージしたわけですね。

 Aメロとサビはできましたが完成形までいかなかったようで、そこでデニス・マトコスキーが加わっても着地せず、この曲は長い間放置されていたそうですが、最終的にはジャイソンがデモを作り、ボビーとともに楽曲を仕上げ、ボビーがボーカルディレクションをしてジェイソンのボーカルでデモを作ったそうなんです。

 AORファンとしては、ボズとボビーがクロスした貴重な楽曲なのですが、ジェイソン・シェフなしでは生まれなかったもの、そして、ボズとボビーの持ち味はけっこう近しいものだったということを証明することになった曲でもあったわけですね。

 最後はジェイソンのデモらしきものがアップされていましたのでご紹介します。これを聴くと、もともとのAメロはボビーのヴァージョンのように"One day I may”とIだったのを、ボズが”One day You may"と"You"に変えちゃったんですね。

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