まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「青い影(A Whiter Shade of Pale)」プロコル・ハルム(Procol Harum)(1967)

 おはようございます。

 今日はプロコル・ハルムの「青い影」です。

www.youtube.com

We skipped the light fandango
Turned cartwheels 'cross the floor
I was feeling kinda seasick
But the crowd called out for more
The room was humming harder
As the ceiling flew away
When we called out for another drink
The waiter brought a tray

And so it was later
As the miller told his tale
That her face, at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale

She said, 'There is no reason'
And the truth is plain to see
But I wandered through my playing cards
And would not let her be
One of sixteen vestal virgins
Who were leaving for the coast
And although my eyes were open
They might have just as well've been closed

And so it was later
As the miller told his tale
That her face, at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale

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僕たちは 軽い馬鹿騒ぎをして跳ね回った
フロアの端から端まで側転したり
僕は船酔いしたみたいな気分になった
だけど、みんなもっとやれとはやし立てた
部屋の騒音は激しくなった 天井が飛んでいきそうなくらいに
僕たちが大声でもう一杯頼むと 
ウェイターはトレイを運んできた

そしてその後のことだった
粉屋が話をしていくうちに
最初は幽霊のようにぼんやりしていた彼女の顔の
淡い色が白くなっていったんだ

彼女は言った ”理由なんてないわ
"真実は単純明白よ”
だけど僕は手持ちのカードをどうするか迷って
海岸から旅立った16人のウェスタの処女のひとりに
彼女をさせようとしなかったんだ
僕の目が開いていたとしても 
閉じていたのと同じようなものだった

そしてその後のことだった
粉屋が自分の話をしていくうちに
最初は幽霊のようにぼんやりしていた彼女の顔の
淡い色が白くなっていったんだ    ”  (拙訳) 

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プロコル・ハルム「青い影(A Whiter Shade of Pale)」ヤマハぷりんと楽譜

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  ロック史上に永遠に残る名曲です。「青い影」という邦題もそれにふさわしい見事なもので、日本人にとってこの曲とタイトルは切り離せないものでしょう。

  Whiter「より白い」、Shade「影」、Pale「青ざめた」だから、「青い影」。なるほど、と何十年も思っていました。

 しかし、今回はじめて和訳に挑戦してみて(異様に難しくて今もこれでいいのか疑問符?がついたままですが)、歌の内容自体は「青い影」じゃなかったのか、と今さら気づきました、、。

 この曲の大ヒット以降英語圏では、<比較級er shade of ・・>と言い方がよくされるようになったらしく、例えば <darker shade of same colour> というと「同じ色のもっと濃い色合い」ということになります。

 shadeは「色合い、色調」で、paleは色でいうと、青白色ではなく淡い色、薄い色全体のことのようなので、"a whiter shade of pale”「より白に近い淡い色」、女性の薄い肌色が真っ白になっていく、そういうイメージのようですね。

(日本語の表現では”顔面蒼白”でいいでしょうけどw)

 とはいっても「青い影」という邦題にケチをつける気はまったくなく、曲調と語感が見事に融合しているのだからそれでいいのだと思います。

 

 さて、歌詞に「粉屋」というのが出てきますが、これはイギリスの詩人チョーサーが14世紀に書いた「カンタベリー物語」の中にある「粉屋の話(The Miller's Tale)」というのを連想させるもののようです。

 チョーサーは<これから語る話は下品なものだが、あくまで粉屋が語ったことで、読む読まないは読者の自由だ>と注釈してから話を始めていて、内容は、大工の若妻アリスンの浮気にまつわるから騒ぎを描いた喜劇だということです。

 粉屋が話をする=歌の主人公が彼女に対し、浮気話をする、もしくは、彼女が浮気していることを知っていると話す、というように解釈されることが多いようです。

 それから「ウェスタの処女」というのが出てきます。

 これは古代ローマで信仰された火床をつかさどる女神ウェスタに使えた巫女たちのことのようで、「青い影」の中では、「粉屋の話」に出てくる浮気者の妻とは真逆な”純潔”を象徴するものとして使われていると解釈されています。(ちなみに、ウェスタの処女は16人じゃなく6人なのだそうです)

 いやあ、ほんと、むずしい歌詞です、、、。

 

 さて、プロコル・ハルムは1967年にヴォーカルでピアニストのゲイリー・ブルッカーを中心に結成されたイギリスのバンドです。

 バンド名はマネージャーのガイ・スティーヴンスの飼い猫の名前からとった、とかラテン語の”beyond these things”の意味の言葉だ、といった説があります。

 ゲイリーはガイ・スティーヴンスを介してキース・リードという詩人と出会い一緒に曲作りを始めます。キースは作詞家で、演奏はしないのですが、バンドのメンバーになりました。

 彼らはエルトン・ジョンバーニー・トーピンのコンビと同じように、まずキースが歌詞を書き、それにゲイリーが曲をつけるという”詞先”で曲を作っていたそうです。

 この曲の歌詞は、"a whiter shade of pale”という言葉から始まりました。パーティで誰かが使っているのを彼が耳にしたのです。これは歌になると思った彼は、ジグゾーパズルのピースを合わせるように歌詞を書いていったそうです。

 そのあと彼が書いたフレーズは一行目の”We skipped the light fandango”でした。

「それは一種の映画のようなもので、ムードを醸し出して物語ろうとしているんだ。人間関係についての話だ。登場人物がいて、ロケーションがあって、旅がある。部屋の音、部屋の感触、部屋の匂いを感じるような。でも、確かに旅は続いていて、ただのセリフを集めたものではない。そこには一本の糸が通っているんだ」 (キース・リード Songfacts)

 ちなみに、キースは「カンタベリー物語」は読んだことがなく、無意識には何か頭の中にあったかもしれないが、直接引用したということは一切ないと語っています。

 当時の彼はまだ19歳、ボブ・ディランに憧れ、「気狂いピエロ」(ジャン=リュック・ゴダール)や「去年マリエンバードで」(アラン・レネ)などフランスのヌーベル・バーグの映画に夢中だったそうです。若く才気走った時期ですから、読んですぐ意味がわかるような歌詞を書くというのは彼の頭にはなかったんじゃないかと思います。詩的で映像的なものを求めていたのでしょう。だいたい、英語圏の人にすら、この歌詞の意味は不明らしいです。。。

 ですから、この歌詞も”意味を探る”よりもただ”イメージに身を委ねる”べきなのかもしれません。そう考えると、英語がわからず「青い影」というざっくりしたイメージだけで、言葉の響きとメロディとサウンドに集中して聴いている日本人のスタンスはあながち悪いものでもないんじゃないかと思えてきます。

 さて、この曲がどうやってできたかについても調べてみました。

 キースの歌詞はいつも郵便でゲイリーの元に届いたそうです。

 ゲイリーはバッハやハイドンなどのバロック音楽を好み、ある朝、ジャック・ルーシェというジャズ・ピアニストの演奏した「G線上のアリア」が頭に浮かび、そういうイメージで曲を書こうとしていました。


Jacques Loussier: Air On A G String 

 そしてある程度曲の進行パターンが決まったところで、キースから郵便が届いたそうです。

 ゲイリーはこう語っています。

「それで僕は封筒を開いて一番最初の歌詞を見たんだ。それは彼からもらった中で一番長いものだった。それは四番まであって、詩的な一節ごとにサビがついていた。それで、僕はそれを自分のアイディアに合わせて歌ってみると曲になった。器楽的なパッセージをその間に挟んだ」 (SONGWRITER UNIVERSE

「”青い影”はピアノの前に座って歌詞を見ながら1,2時間以内に、本当に簡単に詞と曲が一緒になった。1,2時間以内にはもう出来上がっていたんだ」 (vintagerock.com)

 

 歌詞が4番まであり、3番で一つの物語が終わるものだったそうですが、最終的に2番までの長さになりましたが、最終的な曲の仕上がりを聴いてキースは納得したそうです。

  しかし、ライヴではフル・ヴァージョンが演奏されていたことがあって、その音源がアップされています。最後は、二人は海にダイヴするんですね、、、。


Procol Harum Whiter Shade of Pale ( Rare version with the two extra verses) Lyrics in video

本当に難しいですけど、こちらも和訳に挑戦してみます。

She said, 'I'm home on shore leave,'
Though in truth we were at sea
So I took her by the looking glass
And forced her to agree
Saying, 'You must be the mermaid
Who took Neptune for a ride.'
But she smiled at me so sadly
That my anger straightway died

And so it was that later
As the miller told his tale
That her face at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale

If music be the food of love
Then laughter is its queen
And likewise if behind is in front
Then dirt in truth is clean
My mouth by then like cardboard
Seemed to slip straight through my head
So we crash-dived straightway quickly
And attacked the ocean bed

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彼女は『上陸許可が出て家にいるの』と言った。
本当は僕たちは海にいたのに
だから私は彼女を "姿見"のそばに連れて行き
無理やり同意させた
”君はネプチューンを欺いた人魚に違いない”と言いながら
だけど彼女はとても悲しそうに微笑んできたから
僕の怒りはすぐに消えた


そしてその後のことだった
粉屋が話をしていくうちに
最初は幽霊のようにぼんやりしていた彼女の顔の
淡い色が白くなっていったんだ


音楽が愛の糧であるなら
笑いは愛の女王だ
そして同様に、もし後ろが前にあるなら
真実の中の汚れはきれいだ
僕の口は実体をなくしたみたいに
頭をまっすぐ通り抜けていった
だから僕たちは素早く海に飛び込んで
海底まで到達した

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 ひたすら、イメージですね、、、

 さて、「青い影」はなんといってもオルガンが圧倒的に印象的ですが、それを演奏しているマシュー・フィッシャーが著作権を主張し、裁判の結果、2009年に正式に認められました。その結果、現在ではこの曲はゲイリーとキースとマシューの共作ということになっています。

 この曲を敬愛するアーティストは多く日本ではユーミンが有名で、「ひこうき雲はこの曲の影響のもとで書かれたことはよく知られています。そして、ベスト・アルバム「日本の恋と、ユーミンと」では「青い影」をプロコル・ハルムの演奏でカバーしています。

 海外ではビリー・ジョエルもその一人で、古くからライヴでカバーをしています。

彼はこう語っています。

「その当時ラジオで流れていたどの曲とも違って聴こえたんだ。それはレコードを通してメインテーマになっているキーボードのパートがあった。マシュー・フィッシャーのオルガン・パートだ。そこにはクラシック音楽の要素が入っていた。歌詞が何を歌っているのかはわからなかったけど、僕を違う場所に連れて行ってくれた。すごく雰囲気のある曲なんだ。音楽のいろんな要素が語りかけてくるんだよ」  (Songfacts)

 

A Whiter Shade of Pale

A Whiter Shade of Pale

  • Revolver Records
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プロコル・ハルム「青い影(A Whiter Shade of Pale)」ヤマハぷりんと楽譜