まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングを、エピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などを交えて紹介しています。親しみやすいポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”な存在になってしまったのかもしれませんが、このブログがみなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。追加情報や曲にまつわる思い出などありましたらどんどんコメントしてください!text by 堀克巳(VOZ Record

「ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームス(Land of Hope and Dreams)」ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)(2012)

 おはようございます。今日はブルース・スプリングスティーンの「ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームス(Land of Hope and Dreams)」。今年の5月14日、イギリスのマンチェスターで行われたライヴ映像で。

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Grab your ticket and your suitcase
Thunder's rolling down this track
Well, you don't know where you're going now
But you know you won't be back
Well, darling if you're weary
Lay your head upon my chest
We'll take what we can carry
Yeah, and we'll leave the rest

Well, big wheels roll through fields where sunlight streams
Meet me in a land of hope and dreams

Well, I will provide for you
And I'll stand by your side
You'll need a good companion now
For this part of the ride
Yeah, leave behind your sorrows
Let this day be the last
Well, tomorrow there'll be sunshine
And all this darkness past

Well, big wheels roll through fields where sunlight streams
Meet me in a land of hope and dreams

This train carries saints and sinners
This train carries losers and winners
This train carries whores and gamblers
This train carries lost souls
I said this train, dreams will not be thwarted
This train, faith will be rewarded
This train, hear the steel wheels singing
This train, bells of freedom ringing

Yes, this train carries saints and sinners
This train carries losers and winners
This train carries whores and gamblers
This train carries lost souls
I said, this train carries broken-hearted
This train, thieves and sweet souls departed
This train carries fools and kings
Oh, this train, all aboard
I said, now this train, dreams will not be thwarted
This train, faith will be rewarded
This train, the steel wheels singing
This train, bells of freedom ringing

Come on this train
People get ready
You don't need no ticket
All you gotta do is
Just get onboard
Onboard this train 

People get ready
You don't need no ticket 
You don't need no ticket
You just get onboard (People get ready)
You just thank the Lord (People get ready)
You just thank the Lord (People get ready)
You just thank the Lord (People get ready)
(Come on this train, people get ready)
(Come on this train, people get ready)

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切符とスーツケースをつかむんだ
この線路を雷鳴が轟く
ああ、お前は自分が今どこへ行くのかわからない
だが、もう戻ってこないことは分かっているだろう
なあ、ダーリン、もしおまえが疲れているなら
オレの胸に頭を預けるんだ
運べるものだけ持って
残りは置いて行こう

大きな車輪が太陽が差す野原を転がってゆく
オレと会おう 希望と夢の国で

オレがおまえを養う
そしておまえの味方になる
これからはおまえには良い仲間が必要だ
この旅の道のりには
悲しみは置いていくんだ
今日の日はこれで区切りをつけよう
明日は太陽が現れて
この暗闇はすべて過ぎてゆく

大きな車輪が太陽が差す野原を転がってゆく
オレと会おう 希望と夢の国で

この列車には、聖者も罪人も乗ってる
この列車には、敗者も勝者も乗ってる
この列車には、娼婦も賭博師もいる
この列車には、迷える魂たちも乗っている
この列車では、夢は打ち砕かれはしない
この列車では、信じる心は報われる
この列車では、鉄の車輪が歌っている
この列車では、自由の鐘が鳴り響く

そうだ、この列車は聖者と罪人を運ぶ
この列車は、 敗者と勝者を運ぶ
この列車は、 娼婦と賭博師を運ぶ
この列車は、 迷える魂を運ぶ
この列車は、 心傷ついた人を運ぶのさ
この列車は、  泥棒と旅立った善良な魂を運ぶ
この列車は、 愚か者と王様を運ぶ
この列車には、全ての人が乗りこむ
この列車では、夢は阻まれはしない
この列車では、信仰は報われる
この列車では、鉄の車輪が歌う
この列車では、自由の鐘が鳴り響く

さあ、この列車に乗ろう
みんな準備をして
切符なんていらない
ただ、乗り込めばいいんだ この列車に

みんな準備をするんだ
切符はいらない
本当に必要なのは
ただ乗り込むんだ(みんな準備をするんだ)
ただ神様に感謝するんだ(みんな準備をするんだ)
ただ神様に感謝するんだ(みんな準備をするんだ)、、、
(この列車に乗るんだ、みんな準備をするんだ) (拙訳)

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 スプリングスティーンは、5月14日水曜日、イギリス・マンチェスターで行われた、上記の曲をタイトルとした『Land of Hope and Dreams Tour』初日のMCでドナルド・トランプ大統領とその政権に対して「反逆的」で「無能」だとする辛辣な批判を行いました。それに対してトランプは、SNSメディア「Truth Social」でスプリングスティーンに対して「大いに過大評価されている」「この干からびたプルーンみたいなロッカーは、自分の国に戻ってくるまでは黙っていた方がいい。それが当然の代償だろう?そして、それから彼がどうなるか、みんなで見てみようじゃないか!」などと投稿して話題になりました。超大国の大統領がアーティストに対して、”干からびたプルーン”とか単なる悪口を言っていることに驚きますが(その後、自分が打ったゴルフボールでスプリングスティーンがステージで転倒するなんて合成映像をSNSでアップする始末)、もはや世の中の人たちはトランプの”芸風”にはもうみんな慣れてしまっているようです。

 さて、冒頭でご紹介した映像には、彼がトランプを非難したMCもそのまま収録されていました。こんな内容です。

"Good Evening!
It’s great to be in Manchester and back in the U.K. Welcome to the Land of Hope & Dreams Tour!The mighty E Street Band is here tonight to call upon the righteous power of art, of music, of rock 'n' roll in dangerous times. In my home, the America I love, the America I've written about, that has been a beacon of hope and liberty for 250 years, is currently in the hands of a corrupt, incompetent and treasonous administration. Tonight we ask all who believe in democracy and the best of our American experience to rise with us, raise your voices against authoritarianism, and let freedom ring!”

「こんばんは!マンチェスターに、そして再びイギリスに戻って来られて嬉しいよ。
ようこそ”ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームズ・ツアー”へ!今夜、この強力なEストリート・バンドがここで呼び起こす、この危機の時代におけるアートと音楽、ロックンロールの“正義の力”を。俺の故郷、俺が愛するアメリカ、ずっと歌にしてきたアメリカ―250年間、希望と自由の象徴だったこの国が、今は腐敗して無能で、反逆的な政権に握られてる。だから今夜、民主主義やアメリカの最良のものを信じてるみんなにお願いしたい。一緒に立ち上がってほしい。権威主義に抗議の声を上げ、自由の鐘を鳴らそう!」

 ”ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームズ・ツアー”はイギリスを皮切りにフランス、ドイツ、スペイン、イタリアなどを回る予定になっていて、その初日の冒頭で彼はこう語ったわけです。単なるMCだけじゃなく、ツアーそのものが、トランプ政権によって危機に陥っているアメリカの実情を同盟国に訴えかける、という使命を持ったことであることが伝わってきます。

 コンサート後半の「Ciyty of Ruins」という曲のMCでは

”人々が「言論の自由」を行使し、異議を唱えただけで迫害されている”

”歴史的な公民権法が巻き戻され、正義と多様性に満ちた社会への道が後退させられている。”

イデオロギー的要求に従わないというだけで、アメリカの大学の資金が削減されている”

アメリカ国内に住む住民たちが、正当な法的手続きを経ずに路上から連行され、
外国の収容施設や刑務所に強制送還されている。”

というように、アメリカの実情を彼は具体的に語っています。 

 こういう愛国心に満ちた訴えかけを、スプリングスティーンはなぜアメリカ国内でなくヨーロッパ・ツアーで行ったのか、僕は疑問に感じましたが、考えてみたら今のアメリカでそんなアクションを起こしたら、間違いなくなんらかの容赦のない妨害があルコとでしょう。イギリスで最初の”狼煙”をあげたのも、そういったことを見越してのことだったのかもしれません。今のアメリカの"言論の不自由"は僕なんかが考えるよりずっとシリアスなようです。ただ、もし今後アメリカ。ツアーが決まっても、彼は間違いなく同じ姿勢で挑むと思いますが。

 先の米大統領選において僕が印象的だったのは、スプリングスティーンに限らず、音楽業界のトップの人たち、テイラー・スウィフトビヨンセなど錚々たる人たちがこぞってハリス氏の支援に回ったにも関わらず、大差で敗れてしまったということでした。彼らが支持していることは大衆には影響がないのか?かつて、アーティストは大衆の”象徴的”な存在でしたが、もはやそうではないのか?と僕は思いました。しかし、これも考えてみれば、一般の人々にとって今最大の問題は待ったなしの”生活の不安”であり、”お金に不自由していない成功者、セレブ”の言動が響かない、かえってそれに反発さえ感じてしまう人たちも少なくないのかもしれません。

 

 そして、50年以上に渡って一貫してアメリカの労働者、弱者の立場で歌を作り演奏し続けてきたスプリングスティーンでさえ、彼の行動や発言がアメリカ国民から全面的な支持を得ているわけではないようです。

 5月31日のイギリスの「The Gurdian」にこういう内容の記事がありました。

 スプリングスティーンが生まれ育ち、最も人々から支持されているニュージャージー州のあるライブハウスで、スプリングスティーンのカバーバンド”ノー・サレンダー”の出演が店側から急遽キャンセルされたというのです。理由はスプリングスティーンがトランプを激しく非難したからだと。バンドのリード・シンガーはこう語っています。

「オーナーは“自分の客層は真っ赤(=保守層)で、スプリングスティーンには黙っていてほしい”って言ってました。明らかに政治的な空気に巻き込まれて、ビジネスを失いたくないということなんでしょう」(The Gurdian  5/31/2025)

 大統領とロック・アーティストの争いの影響が、真っ先にライブハウスという”一般市民がカジュアルに音楽を楽しむ場”で出てしまうというのはなんともやりきれないことです。

 ニュージャージー州全体ではハリスの票が多かったそうですが、バイデン時代より大きく差は縮まり、特にこのライブハウスがあるトムズリバーという町はトランプがハリスの倍以上の票を集めた地域だったということです。

 自身のホームグラウンドでさえトランプ支持者が増えている、そんな状況の中でたまらずスプリングスティーンはアクションを起こしたということなんですね。きっと相当な覚悟を持って臨んでいるのでしょう。

 

 さて、今回のツアーで彼のメッセージを体現している「ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームス」という曲は、1999年にスプリングスティーンが作り、彼のバンドであるEストリート・バンド再結成ツアーで演奏され、いくつかのライブアルバムに収録されています。スタジオ録音を初めて聞くことができたのは、2012年のアルバム『Wrecking Ball(レッキング・ボール)』でした。

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 希望の地に向かう列車に乗ろう、切符はいらない、というのはカーティス・メイフィールドが書いたインプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ(People Get Ready)」の設定に乗っかっています。曲の最後のコーラスで🎵People Get Ready〜と歌っていますし、冒頭のライブ・ヴァージョンでは2曲がメドレーになっていました。この「ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームス」は「ピープル・ゲット・レディ」からつながっている作品であることを意図的に表しているんですね。

 アメリカのポピュラー・ミュージックは先人から脈々と受け継がれてきた歴史の上に成り立っているものであること、またどんな時代にあっても困難な目に遭うのは一般大衆であり、アーティストというのは常にそういう弱者のために歌うべきものなのだという彼の意志を僕は感じます。

 音楽やその他の文化でも表現に携わる人たちは、表現の方法やアプローチはどうあれ、いつも弱き人々の立場に立ち、そういった人々のために<人間には実利的ではない何か大切なものがあること>を訴えていくべきだと、僕はそう思います。そういう<実利的ではない何か大切なもの>を土台にしなければ、平和というものは成り立たないように思えるからです。

 ただ、夢や希望や理念なんかじゃ食っていけない、と切羽詰まって目先の利害に走る人々の心情もよく理解できます。昨今、僕自身がそういう気持ちになってしまうことが正直多いですから。

 大衆にとっての一番重要な問題が”生活の不安”になるとき、成功したアーティストは大衆の代表ではなく、”あっち側”の人間としてとらえられてしまうという見方もあるということと、トランプが推し進める”実利主義””排他主義”が自分たちのプラスになると考える市民が少なくないことが、今回の問題を<スプリングスティーン=善、トランプ=悪>というシンプルな図式に落とし込めない理由の一つになっているのかもしれません。

 個人的な思いを言えば、ブルース・スプリングスティーンは中学生の時以来ずっと僕の最大のヒーローであり、50年近く変わることなくリスペクトし続けてきているアーティストです。今はただ彼の今後の動向をしっかり見ていきたいと思っています。

 最後は2000年にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたライブ映像を。曲が書かれてから約一年後というタイミングでのパフォーマンスです。このライヴ映像と25年経った冒頭の映像を比較しても、彼のバンドは変わらないパワーとエネルギーに満ちた音を出していることに驚かされます。言葉じゃなく、バンドの”音の鳴り”で人々にエネルギーやパワーを与えることができる、それがロックンロールの醍醐味です。

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スタジオ・ヴァージョンを収録

2000年のライブヴァージョンを収録

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