まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ロクサーヌ(Roxanne)」ポリス(1978)

 おはようございます。

 今日はポリスの「ロクサーヌ」を。


The Police - Roxanne

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Roxanne
You don't have to put on the red light
Those days are over
You don't have to sell your body to the night
Roxanne
You don't have to wear that dress tonight
Walk the streets for money
You don't care if it's wrong or if it's right

Roxanne
You don't have to put on the red light
Roxanne
You don't have to put on the red light

(Roxanne) put on the red light
(Roxanne) put on the red light、、、

I loved you since I knew ya
I wouldn't talk down to ya
I have to tell you just how I feel
I won't share you with another boy
I know my mind is made up
So put away your make-up
Told you once, I won't tell you again it's a bad way

Roxanne
You don't have to put on the red light
Roxanne
You don't have to put on the red light

You don't have to put on the red light (Roxanne)
(Roxanne) put on the red light、、、

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ロクサーヌ

もう赤いライトはつけなくていいんだ

そんな日々はおしまいさ

もう夜に身体を売ることはないんだ

ロクサーヌ

今夜はそのドレスを着なくてもいいんだよ

金目当てで通りを歩かなくてもいいんだ

それが間違っていることか正しいことかなんて

君はどうでもいいんだとうけど

 

ロクサーヌ、赤いライトはつけなくいいんだよ

ロクサーヌ、赤いライトはつけなくていいんだよ、、、

 

君のことを知ってからずっと愛している

君の客みたいに見下ろした態度はしないよ

感じたままを君に伝えなくちゃね

他のヤツらと君を分け合うなんてイヤなんだ

オレの心は決まってるんだ だから化粧を落としてくれ

一度君に言ったから、二度と言わないよ、それは悪いやり方さ。

 

ロクサーヌ、赤いライトはつけなくいいんだよ

ロクサーヌ、赤いライトはつけなくていいんだよ、、、”(拙訳)

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  この曲はポリスのメジャー・デビュー・シングル(1978年)で最初はチャートインすらしませんでしたが、翌1979年に再リリースすると全英12位、アメリカでも彼らのデビュー・シングルとしてリリースされ32位まであがりました。

 

 この曲の”ロクサーヌ”とは娼婦だということはファンにはよく知られています。

 まだデビュー前の彼らが、パリのサンジェルマンにある「ナッシュビル・クラブ」でライヴを行った時に、滞在した安宿の近くの路地に娼婦たちがいたそうです。

 

「坂になった路地にはざっと二十名ほどの女が、各々戸口にもたれかかってチェーンスモーキングをしている。てかてかしたレインコートの前をはだけ、その下には短いスカートに安物のブーツ、もしくはハイヒール。まるでB級映画のスパイよろしく、上目遣いに通りを見つめている」

 

 そして、その彼が泊まっている汚いホテルのロビーに、フランスの国立劇団”ラ・コメディー・フランセーズのポスターが貼られていることに彼は気づきます。

 舞台の題目は「シラノ・ド・ベルジュラック」(エドモン・ロスタン作)でした。

 

 17世紀のフランスの物語で、主人公のシラノ・ド・ベルジュラックは詩人、理学者で剣術家で、豊かな才能と強い正義感を持った人物なのですが、生まれついて大きくて醜い鼻のコンプレックスのせいで従妹のロクサーヌへの恋心を打ち明けられないでいます。
 ロクサーヌのほうはシラノと同じ青年隊の美男子のクリスチャンを想い、シラノに恋の相談をもちかけます。クリスチャンもまたロクサーヌに想いを寄せていて、シラノは二人の恋の仲裁役をつとめる羽目になります。シラノは口下手で文才のないクリスチャンに代わりラブレターを代筆し、、、といった内容です。

 

「愛しても愛されることのない男。そして彼が愛し、届かない女性。その名はロクサーヌ

 その夜、部屋に戻った私は、一人の少女にまつわる歌を書いた。彼女をロクサーヌと名付けた。ホテルの窓の下の通りで稼ぎもないまま立ちすくむ少女を思う浮かべ、ロスタン作の悲しい劇に重ね合わせたロマンスの主役に仕立てた。彼女の創造は私の人生を変えた」

                         (「スティング」)

 

 この曲のキーとなるフレーズ”You don't have to put on the red light”(君は赤いライトをつけなくていいんだ)の”赤いライト”とは、”red-light district"(売春宿の多いエリア)のいう言葉の元になっている売春宿の灯の色、もっとさかのぼると17世紀ごろオランダでは娼婦は赤いランタンを持っていたことがあるそうで、娼婦を象徴するものとして使われたのだと思われます。

 スティングはデビュー前に実際にオランダにライヴに行ったときに売春地区にあるホテルに宿泊し、部屋の窓から通りを隔てて、窓際に座り、安っぽい電燈の赤い灯りでペーパーバックを読む女の姿を見たと自伝で語っているので、そういう具体的なイメージが「ロクサーヌ」の歌詞に反映されたのかもしれません。

 

 娼婦がテーマの歌と言うと、ショッキングなものだと解釈されてしまいそうですが、かえってそういうテーマでなければ生まれないような特別なロマンチズムをスティングは見事に曲にしているように僕には思えるんです。

 出口のない状況の中で、主人公の男性のピュアで一途な、でも少し妄想的でもある恋愛感情だけが突っ走る、というとても映画的な歌のように感じます。

 

 

ロクサーヌ」はもともと違った曲調をイメージして作られたそうです。

 

「<ロクサーヌ>=最初はジャズっぽいボサノバとして書いたものだが、バンド演奏の試行錯誤が繰り返された末に、ハイブリッドなタンゴに進化していった。各小節の二拍目をベース飛ばすドラで強調し、不均衡なアルゼンチン風リズムにしようと提案したのはスチュワート(コープランド=ポリスのドラマー)だ」

                        (「スティング」)

 パンク・ムーヴメント後期の音楽シーンで活路を探していた彼らですから、さすがに、ボサノバの曲をやるわけにはいかなかったでしょうし。

 

 しかし、僕がこの「ロクサーヌ」という曲の素晴らしさに気づいたのは、スティングのドキュメンタリー映画「ブリング・オン・ザ・ナイト」(1985年)で披露した、ジャズっぽいボサノバにアレンジされたものを聴いたからでした。でも、こちらのほうが、元々スティングが想定していたアレンジだったんですね。

   この歌の世界の映像がよりはっきりと浮かび上がってくるように思えます。

 映画の映像はアップされてなかったですが、その映画で共演していたスティングとブランフォード・マルサリスが演奏しているものがありましたので、そちらをぜひ。


Sting - Branford Marsalis - Roxanne

 

 「ロクサーヌ」のカバーの中では、この曲の物語の世界観を徹底して押し広げたようなジョージ・マイケルのヴァージョンが聴きものです。

 ワム!で陽気なポップ・スターとして世に出た彼ですが、キャリアの最後の方の彼には、どうしようもなくロマンティックで、でも救いがたいほど孤独だという、特異な存在感がありました。そんな彼にこの曲はぴったりだったように思います。

 


George Michael - Roxanne (Live)

 

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