まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「がんばれナイジェル(Making Plans For Nigel)」XTC(1979)Chalkhills

 おはようございます。

 今日はXTCの「がんばれナイジェル」です。

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We're only making plans for Nigel
We only want what's best for him
We're only making plans for Nigel
Nigel just needs this helping hand

 

And if young Nigel says he's happy
He must be happy
He must be happy in his work
We're only making plans for Nigel

 

He has his future in a British steel
We're only making plans for Nigel
Nigel's whole future is as good as sealed
And if young Nigel says he's happy

 

He must be happy
He must be happy in his work
Nigel is not outspoken
But he likes to speak

And loves to be spoken to
Nigel is happy in his work
We're only making plans for Nigel

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私たちはナイジェルのために計画を立てているだけ
私たちはただ彼のために良かれと思ってるだけ
私たちはナイジェルのために計画を立てているだけ
ナイジェルには手助けが必要なんだ

 

もしナイジェルが自分が幸せだと言うなら
彼は幸せに違いない
彼は仕事に満足しているに違いない
私たちは、ナイジェルのために計画を立てているだけ

 

彼の未来はブリティッシュ・スチールにある
私たちはナイジェルのために計画を立てているだけ
ナイジェルの未来まるごと保障されたようなもの
それでもし、ナイジェルが自分は幸せだって言うならね

 

彼は幸せに違いない
彼は仕事に満足しているに違いない
ナイジェルは自分からしゃべらないけど
彼は話すことが好きなんだ

 

そして、話しかけられるのが大好きなんだ
ナイジェル仕事に満足している
私たちは、ナイジェルのために計画を立てているだけ

         (拙訳)

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  親が子供の未来に何らか干渉する、というのはひとりの人間にとって、避けられなくて、かつとてもシリアスな影響を与えることなのですが、考えてみれば、歌の題材にはなかなかなっていませんでした。

 それだけ、難しいテーマでもあるのかもしれません。

 それを、ひねりの効いた軽快なポップソングに仕上げた手腕には感心しないわけにはいけません。

 この曲を作ったのがバンドのメンバーのコリン・モールディング。

 彼はこんな風に語っています。

 

『”がんばれナイジェル”は、アラン・ベネット(註:イギリスの劇作家)のような、他の人からつけ込まれている人物についての小品を書こうとしたんだ。僕の学校にはナイジェルがいた。その名前はすごく英国的な感じがしたよ。グレアムやコリン(註:メンバーの名前)が歌に登場するのは想像できなかった。最初にタイトルが決まると、あとはとても早く出来上がった。その日の午後のうちに曲が完成したよ」

 

子供の進路に口を出そうとする親というテーマは、僕も経験したものだったんだ。15歳のとき、僕はバンドに入りたかったんだけど、中等学校高等部(イギリスの16~18歳の学年)に留まれなかったから、父親と大喧嘩をしたんだよ。当時は髪が長いと退学になる時代で、まさに、僕がそうだった!音楽の世界に入るには、5年間の気が滅入るような日々と、たくさんの先行きの見えない仕事が必要だったから、僕の中にもナイジェルが少しいるんだよ」

 

 「当時、音楽業界をまわしていたのははパブリック・スクールのお坊ちゃんたちで、僕たちのような公営住宅のガキどもじゃなかった。でも、パンクがその扉を開いてくれたおかげで、自分たちにできることを模索できるようになったんだ。僕は、ナイジェルがオフィスで働く姿を想像していたんだけど、トップじゃなく、たぶん中間管理職のような感じだと思った。1970年代にブリティッシュ・スチールが労働争議で話題になっていたので、ナイジェルにブリティッシュ・スティールで働くという未来を与えたんだ」

 (The Guardian      27 Apr 2020 )

 

 XTCは、1970年代前半にアンディ・パートリッジ(ギター、ボーカル)とコリン・モールディング(ベース、ボーカル)を中心に結成されたイギリスのロックバンド。

 パンク真っ盛りの1977年10月に「サイエンス・フィクション」というEPでデビューしています。

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 XTCのメイン・ソングライターはアンディ・パートリッジでしたが、バンドを所業的な成功に導いたのは、相棒のコリンの楽曲でした。

 彼の書いた「Life Begins at the Hop」が1979年にイギリスのチャートに初めて入り(54位)、そしてその次にリリースされたこの「がんばれナイジェル」が全英17位のヒットになり、彼らは俄然注目を集めることになりました。

 

 ドラマーのテリー・チェンバーズはこう語っています。

「彼(アンディ・パートリッジ)は僕たちの最初のスマッシュ・ヒットをコリンが書いて歌ったことに少し気分を害していたようで、「Sgt Rock (Is Going to Help Me)」や「Senses Working Overtime」などを書いて腕を上げたんだと思う」

 (The Guardian      27 Apr 2020 )

 

 「がんばれナイジェル」は詞曲ももちろん素晴らしいですが、凝ったサウンドが魅力を何倍にもしているように思います。

 コリンはこう語っています。

「僕は古いアコースティック・ギターでこの曲をバンドに聴かせ、スウィンドン・タウン・ホールの地下墓地にある公営スタジオでデモを録音した。レコード会社はこの曲がシングルになると確信して、スティーブ・リリーホワイトをプロデューサーに迎えてくれたんだ。僕たちは彼のウルトラヴォックスでの仕事が大好きで、彼は多くの時間をかけて僕たちの曲を構築し、磨き上げてくれたんだ」

 (The Guardian      27 Apr 2020 )

 この曲がリリースされた1980年にデビューしたU2を手がけ、80年代のブリティッシュ・ロック・サウンド作った一人であるスティーブ・リリーホワイトにとってこの曲はキャリア初期のマスターピースでもあったのです。

 

 

この曲もいろんなアーティストがカバーしていますが、その中でも珍しいアル・クーパーのカバーを。彼が2001年にリリースした「Rare & Well Done」に収録されていました。

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 XTCを取り上げながら、アンディ・パートリッジがメインじゃなくなってしまいましたので、最後に彼の曲を。

   1983年にXTCではなく”The Three Wise Men"tという名義でリリースしたクリスマス・ソング「Thanks For Christmas」。ちょっとフィル・スペクター調ですね。

 アンディはこう語っています

「もちろん、最高のクリスマス・レコードで、そのテンプレート(定型)を作ったのはフィル・スペクターのレコードで、ビーチボーイズスペクター・サウンドの代用品でその伝統を引き継いだんだ。それで僕たちは、ウールワース(スーパーマーケット・チェーン)版ウォール・オブ・サウンドを目指したのさ(笑)」

 (Chalkhills  December 18, 2006)

 

 XTC名義じゃなかったら、こんな素直なポップ・ソングを作れるんじゃないですか、とちょっと突っ込みたくなりますが(笑。

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