まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「夕映えの恋人たち ( I Can't Make You Love Me)」ボニー・レイット(1991)

 おはようございます。

 今日はボニー・レイットの「 I Can't Make You Love Me」です。

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Turn down the lights
Turn down the bed
Turn down these voices inside my head
Lay down with me
Tell me no lies
Just hold me close
Don't patronize
Don't patronize me


'Cause I can't make you love me if you don't
You can't make your heart feel something it won't
Here in the dark in these final hours
I will lay down my heart and I'll feel the power
But you won't, no you won't
'Cause I can't make you love me if you don't


I'll close my eyes
Then I won't see
The love you don't feel when you're holding me
Morning will come
And I'll do what's right
Just give me 'til then to give up this fight
And I’ll give up this fight

 

'Cause I can't make you love me if you don't
You can't make your heart feel something it won't
Here in the dark in these final hours
I will lay down my heart and I'll feel the power
But you won't, no you won't
'Cause I can't make you love me if you don't

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照明を落として
ベッドカバーを外して
頭の中の声を小さくして
私と一緒に寝て
嘘はつかないで
ただ抱きしめて
バカにしないで
心にもないことは言わないで


だって、あなたが私を愛するようにはできないわ
あなたにその気がないのなら
ありえないことを心が感じることはできない
暗闇の中、この最後の時間に
私が心をさらけ出したら、力が湧いてくるでしょう
だけど、あなたはそうじゃない、そうじゃないの
だって、あなたが私を愛するようにはできないわ
あなたにその気がないのなら


目を閉じる
そして、見ないようにするの
私を抱いているときも、あなたが感じることのない愛を
朝が来るわ
そしたら、私は正しいことをするの
今はただこのまま、この葛藤が終わるまで
そうしたら、私はあきらめるわ、この戦いを


だって、あなたが私を愛するようにはできないわ
あなたにその気がないのなら
ありえないことを心が感じることはできない
暗闇の中、この最後の時間に
私が心をさらけ出したら、力が湧いてくるでしょう
だけど、あなたはそうじゃない、そうじゃないの
だって、あなたが私を愛するようにはできないわ
あなたにその気がないのなら

           (拙訳)

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 今ではスタンダードと呼んでもいいくらい、たくさんのアーティストからカバーされているこの曲は、ナッシュビルをベースに活動しているカントリー・ミュージックのソングライター、マイク・リードとアレン・シャンブリンによって書かれたものです。

 

 マイク・リードはNFLのプロ・フットボール選手として活躍し、その後ソングライターに転身したという異色のキャリアの持ち主で、シンガーとしてもカントリーチャート1位のヒットを出しています。

 

  この曲のインスピレーションはある新聞記事だったそうです。

マイク・リード:地元のお偉い政治家の裏の仕事をしている男が密造酒で酔っ払って、奥さんだったか恋人の車を銃で撃ちまくったという記事だったのを覚えている。それで、その記事の中に実際にそのフレーズがあったんだ。彼は裁判官にこう言ったんだよ。"もし女があんたを愛していないなら、あんたは彼女を...あんたは彼女を愛させることはできないということを俺は学んだ "とね。アイデアはそこから生まれたんだ」

(STEREO GUM   OCTOBER 27, 2016)

 

 ちなみに、アレン・シャンブリンのほうは、新聞記事は妻から離婚を迫られ裁判所に連れて行かれた男の話で、その言葉は男が言ったものだったと記憶しているようです。

 

 悲痛な失恋の歌としては、まったく想定していなかったんですね。

 

「リード:僕たちは、自分たちが何をやっているのかちゃんと分かっている「プロのソングライター」のつもりだったから、あの曲はアップテンポのブルーグラス・ソングとして書いたんだ。(笑)。

 シャンブリン:いかにもブルーグラスらしい、アップテンポで、弾むようなメロディだったね」

(STEREO GUM   OCTOBER 27, 2016)

 

 しかし、二人の曲作りはなかなか思うように進まず、何度も投げ出したようです。

 ある日、リードがまったく関係ない曲をピアノで弾いているときに”Don't patronize"という言葉がひらめき、"patronize”は”見下ろす”というような意味の言葉ですが、歌にはあまり使われないものでした。しかし、そこからイメージが広がって曲ができてゆく中で、投げ出したままになっていた”I Can't Make You Love Me”の歌詞が、うまくハマったといいます。

 

そして、シャンブリンはこう回想しています。

 「ある日、マイクの家に遊びに行ったんだ。彼の作曲部屋は地下にあったんだけど、彼は”2階に来てくれ、ある曲を弾いてあげたいんだ”と言ったんだ。2階には美しいグランドピアノがあって、彼はそのピアノで「I Can't Make You Love Me」のメロディだけを弾き始めたんだ。僕はその音楽を聴いているだけで、鳥肌がたったよ。彼はそれが何のためのものなのか、教えてくれなかったけど、それから、もう一度弾き始めると、新しいメロディーの上に、僕たちがすでに書いていたサビの歌詞を歌い始めたんだ。僕は、ただただびっくりしたよ」

(STEREO GUM   OCTOBER 27, 2016)

 

 曲は出来上がりましたが、リードは今度は何ヶ月もの間デモを作らなかったそうです。その曲を歌うのに自分が十分にエモーショナルになるのを待ち続けたのだそうです。そして、ようやく作られたデモはリードがピアノだけで歌われていて素晴らしいものだったとシャンブリンは語っています。

 

  リードはこの曲を歌って欲しいのは、ベット・ミドラーリンダ・ロンシュタット、そしてボニー・レイットの三人だとシャンブリンに話したそうです。

  そして、リードの歌を取り上げたことがあり、親交もあったボニー・レイットにデモを送ることにしました。

 レイットはこう語っています。

 

「ミュージシャンのコミュニティを通じて、(マイクが)素晴らしいシンガーでソングライターだということを聞いていたわ、それで彼のソロ・アルバムを手に入れて、最初の曲(『Nick Of Time』の「Too Soon To Tell」)をやったの。私たちは『Nick Of Time』の後に友達になったんだけど、彼とアレンが最初に『I Can't Make You Love Me』を送ってくれて、彼自身のデモを聴いてノックアウトされてしまったわ、彼の歌い方のファンだったから」

 (STEREO GUM   OCTOBER 27, 2016)

 

 ボニー・レイットは1971年にデビューして以来、音楽的な評価こそ高かったものの、商業的には成功したことはなく、1989年(彼女が40歳の時)にリリースしたアルバム「ニック・オブ・タイム(Nick Of Time)」でようやく大成功(全米1位。グラミー賞では年間最優秀アルバムなど3部門獲得)したという遅咲きのアーティストです。

 その「Nick Of Time」で彼女はアラン・リードの作品を1曲取り上げていたのです。

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 そして、この「I Can't Make You Love Me」の入ったアルバム「ラック・オブ・ザ・ドロウ(Luck of the Draw)』は「ニック・オブ・タイム」以上のヒットになり、現在に至るまで彼女のアルバムの中で最も売れたものになっています。

 

「I Can't Make You Love Me」もシングルとして全米18位とヒットしていますが、スタンダードとなった今の感覚からすると、ちょっと控えめな感じがしなくもないですね。

 

 ボニー・レイットのヴァージョンで、彼女の歌声の次に、印象深く耳に入って来るのはピアノじゃないでしょうか。これは、ブルース・ホーンズビーの演奏です。この人らしいリリカルな音色というのが、実に曲とマッチしていますよね。

 

 ホーンズビーはこう語っています。

「長年にわたって多くのレコードに参加してきたけど、他のアーティストのために演奏したレコードの中で、おそらく僕が最も誇りに思うレコードになると思う」

 (STEREO GUM   OCTOBER 27, 2016)

 

 ちなみにホーンズビー本人が演奏したものも探してみたら、ありました。彼らしいピアノをより堪能できるものになっています。

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  さて、この曲のカバーは200を超えていますが、一番最初のものは作者のマイク・リードのセルフ・カバーでなんです。

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 シンプルな編成で、ボニー・レイットがノックアウトされたデモの雰囲気を再現しようとしたのかもしれませんね。

 

 プリンス、アデル、など錚々たるアーティストがカバーしていますが、その中からこの曲がスタンダードになるのに重要な役割を果たしたものを2つ紹介して終わりたいと思います。

 

 まずはジョージ・マイケル。1997年に「Older」と両A面扱いでリリースされ全英3位になっています。動画は1996年のアンプラグド・ライヴの模様です。何か酷な言い方のように聞こえるかもしれないですが、僕的には賛辞として言うのですが、”孤独で愛されていない歌”が史上最も似合う男性シンガーは彼じゃないかと思えるんです。

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 そしてジャスティン・ヴァーノンのプロジェクト”ボン・イヴェール”の2011年のカバー。動画再生は5000万回を超え、これを見てこの曲をカバーしようと思ったアーティストも多いそうです。悲しく切々とした歌いっぷりは、この曲のカバーでも屈指のものですが、エンディングでボニー・レイットの代表曲「ニック・オブ・タイム」につなげ、 "I found love , love in the nick of time ”(ギリギリで私は愛を見つけた)と歌うことで微かな希望を与えてくれる、という構成になっています。

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