まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「サスピシャス・マインド(Suspicious Minds)」エルヴィス・プレスリー(1969)

 おはようございます。

 今日はエルヴィス・プレスリーの「サスピシャス・マインド」です。

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We're caught in a trap, I can't walk out
Because I love you too much, baby
Why can't you see, what you're doin' to me
When you don't believe a word I say?


We can't go on together
With suspicious minds (with suspicious minds)
And we can't build our dreams
On suspicious minds


So, if an old friend I know, stops by to say hello
Would I still see suspicion in your eyes?
Here we go again, asking where I've been
You can't see the tears are real, I'm cryin'
(Yes, I'm cryin')


We can't go on together
With suspicious minds (with suspicious minds)
And we can't build our dreams
On suspicious minds


Oh, let our love survive
I'll dry the tears from your eyes
Let's don't let a good thing die
When, honey, you know I've never lied to you


We're caught in a trap, I can't walk out
Because I love you too much, baby
Why can't you see, what you're doin' to me
When you don't believe a word I say?


Well, don't you know I'm caught in a trap? I can't walk out
Because I love you too much, baby
Well, don't you know I'm caught in a trap? I can't walk out
Because I love you too much, baby
Well, don't you know I'm caught in a trap? I can't walk out
Because I love you too much, baby
Well, don't you know I'm caught in a trap? I can't walk out
Because I love you too much, baby
Well, don't you know I'm caught in a trap? I can't walk out
Because I love you too much, baby...

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二人は罠にかかってしまって、僕は抜け出せない
君を愛しすぎているからさ、ベイビー
どうして君にはわからないんだ、君が僕に何をしているのかを
僕が言うことを信じてくれないなんて


一緒にやっていくことなんてできないよ
疑った心のままじゃ
夢なんて描けはしない
疑った心の上には


だからもしも、僕の古い友達が立ち寄って挨拶したなら
僕は君の目にまだ疑惑を見てしまうのかな?
どこに行っていたのかと聞かれても答えられません
君にはわからないんだ、この涙が本物だって、僕は泣いているんだ


一緒にやっていくことなんてできないよ
疑った心のままじゃ
夢なんて描けはしない
疑った心の上には

 

ああ、僕たちの愛を存続させてください
君の瞳の涙を拭ってあげよう
良いものを失くさないようにしよう
ハニー、君に嘘をついたことなんてないんだから


二人は罠にかかってしまって、僕は抜け出せない
君を愛しすぎているからさ、ベイビー
どうして君にはわからないんだ、君が僕に何をしているのかを
僕が言うことを信じてくれないなんて


二人は罠にかかっているのがわからないのか?僕は抜け出せない
君を愛しすぎているからさ、ベイビー
二人は罠にかかっているのがわからないのか?僕は抜け出せない
君を愛しすぎているからさ、ベイビー
二人は罠にかかっているのがわからないのか?僕は抜け出せない
君を愛しすぎているからさ、ベイビー
二人は罠にかかっているのがわからないのか?僕は抜け出せない
君を愛しすぎているからさ、ベイビー

                 (拙訳)

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 主演した映画で歌を歌ってその効果でレコードも売るという、エルヴィスのマネージャーのトム・パーカーが選択した戦略は、「好きにならずにいられない」が収録された映画「ブルー・ハワイ」(1961)で大成功をおさめます。

 映画のサウンドトラックはビルボードチャート20週連続1位という当時の新記録を打ち立てるほどの大ヒットになりました。

 その後彼の主演映画は1962年は年3作、63年は2作、64年から69年まで年3作と、あきらかに”作りすぎ”でした。映画としての質も低下し、内容もワンパターンでマンネリ化していたようですが、それでもそれほどたくさん作られたのは、内容に関わらず集客が見込めるほどエルヴィスの人気は高かったわけです。ただし、エルヴィスにとってはひたすらつまらない映画を撮り、不本意な歌を歌い続ける日々だったわけですね。

 

 しかし、そういうことは音楽にはっきり影響が出たようで、1964年から1968年までの5年間に、エルヴィスのトップテン入りしたヒットは1曲しかありませんでした。

 しかもその1曲は、映画のサウンドトラックではなく、その5年間で唯一録音されたサントラ以外のアルバム、「How Great Thou Art」というゴスペル・アルバムに収録されていた「Crying In The Chapel(涙のチャペル)」(1965年全米3位)だったのです。

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 ミシシッピ州テュペロの貧しい家庭に育ったエルヴィスは幼い頃から毎日教会に行ってゴスペルに聴き入っていたといわれていて、ゴスペルは彼にとっての最大の音楽のルーツなんですね。

 ずっと映画用の歌だけを歌っていたエルヴィスにとっては、やりがいのある仕事だったと思いますが、ゴスペル・アルバムの制作を許したトム・パーカーは、それでクリスマス商戦を狙っていたと言われています。実にしたたかですね。

 

  しかしその後エルヴィスは低迷期に入ります。その間、音楽シーンではビートルズの大ブレイクが潮目を大きく変えたかのように自作自演のアーティストたちが次々と現れてヒットを飛ばし、新しいロックの大きなブームが起こり、エルヴィスは完全に”過去の人”になっていったのです。

 

 しかし、そんな彼に起死回生のチャンスが訪れます。NBCテレビで彼の特番をやることになったのです。

 これは当初、トム・パーカーが次の映画の資金調達のためにNBCに持ちかけたもので、エルヴィスにクリスマス・キャロルを歌わせる”クリスマス特番”を当初意図していたようです。

 最初は気乗りのしなかったエルヴィスは打ち合わせに入ると、豪華なゲストを呼ぶようなものではなく、自分のパフォーマンスで構成するものにしようとしたそうです。TVのプロデューサーのボブ・フィンケルと彼が抜擢した監督のスティーブ・ビンダーは、彼の意向に沿う演出を行います。

 特にビンダーが考えたという、中央の小さなステージを少数の観客が取り囲み、エルヴィスと、オリジナルのバンド・メンバー、ギターのスコッティ・ムーアとドラムスのDJフォンタナらと一緒に座りながらやったセッションは今も語り草になっています。

 

 「That's All Right」

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 エルヴィスがどれだけすごいのか、この映像を見るだけで十分すぎるほどわかる気がします。R&RやR&Bが完全に体の中に入っていて、しかもそれをナチュラルに、かつ魅惑的にアウトプットして、誰も真似のできない領域のように思えます。

 ブルース・スプリングスティーンは、この放送があったとき家のどこにTVがあって、自分がどこに座っていたかも今も鮮明に覚えている、と語っているほど、歴史的な番組となり、視聴率は42%もあったといわれています。

 

 音楽に再び覚醒した彼は、オリジナル・アルバムを作ることにし、スタジオはずっと使っていた、自分の所属していたレーベルRCAのものではなく、メンフィスにあるアメリカン・サウンド・スタジオを使うことにします。

 

 メンフィスは彼が13歳の時に引っ越してきて、さまざまな音楽の洗礼を受けた”メッカ”、”音楽的育ての親”でした。彼は原点に戻る決意をしたわけですね。

 

 アメリカン・サウンド・スタジオはプロデューサーのチップス・モーマンが運営しているスタジオ。ダスティ・スプリングフィールドの名盤「ダスティ・イン・メンフィス」などR&Bの名盤が数多く作られています。

 スタジオには“ザ・メンフィス・ボーイズ”と呼ばれるハウス・ミュージシャンたちがいて、彼らがエルヴィスの伴奏を務めています。

 

 そのセッションから、久しぶりの大ヒットになった「イン・ザ・ゲットー」(1969年全米3位)や、彼の最後のNO.1ヒットとなった、この「サスピシャス・マインド」が録音されました。

 「サスピシャス・マインド」の作者はマーク・ジェイムス。彼はチップス・モーマンの会社のスタッフ・ライターで、この曲は1968年にモーマンのプロデュースで、彼自身が歌いシングル盤を発売していたものでした。

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 また、マーク・ジェイムスは作家として、1968年にB.Jトーマスの「フックト・オン・ア・フィーリング」(1969年全米5位)を書いていて、これもモーマンのプロデュースでアメリカン・サウンド・スタジオで録音されたものでした。

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 マーク・ジェイムスはこの曲を書いたときのことをこう語っています。

「ある日の夜遅く、フェンダー・ギターを適当に弾いたりハモンド・オルガンのペダルを使ってベースラインを作っているうちに、キャッチーなメロディーが浮かんだんだ。当時、僕は最初の妻と結婚していたけど、ヒューストンで結婚していた幼馴染の女性にまだ思いを寄せていたんだ。妻は僕の気持ちを疑っていて、僕にとっては混乱した時期だった。3人とも何か抜けられない罠にかかっているような気がしたのさ」

 (www.elvis.com.au November 4, 2017)

 エルヴィスがアメリカン・サウンド・スタジオでレコーディングすることが決まったときに、ジェイムスは彼のために曲を書くよう会社から依頼されましたが、ぴったりなものがありそうなのに曲が浮かばなかったそうです。

 エルヴィスが来る2日前になっても曲ができず、しびれを切らした会社の人間から、過去の楽曲、例えば「サスピシャス・マインド」はどうだ?ときかれて、彼は、それだ!と思ったのだそうです。エルヴィスがこの曲を歌い大ヒットするイメージが浮かんだんですね。

 そして、実際にスタッフがエルヴィスに聴かせると、彼は何度も聴き直したそうで、ダビングしたテープを家に持って帰り、最終的にレコーディングすることになったのです。 

 トム・パーカーの方針で、有名曲、スタンダード以外は楽曲の権利をエルヴィス側が確保できる作品しか録音してこなかったのですが、この曲はエルヴィス側が曲の権利は持てませんでした。しかし、それでもエルヴィスはやりたいと言ったそうです。

 そして曲は大ヒットし、マーク・ジェイムスは彼のお気に入りの作家になります。

彼はこう回想しています。

「それからの数年間、僕がエルヴィスを見かけると、彼は誰と一緒にいるときでもこっちに来て挨拶してくれた。彼が亡くなった後に、彼はスタジオにいる人たちに「マークは何か曲を送ってきてくれたか?」といつもたずねていたそうなんだ。ああ、僕はそのことを知っていたらよかったのに思うよ」

 (www.elvis.com.au November 4, 2017)

 

 最後は1973年のライヴ映像を。

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