まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「トレイン・イン・ヴェイン (Train in Vain (Stand by Me))」ザ・クラッシュ(1980)

 おはようございます。

 今日はザ・クラッシュの「トレイン・イン・ヴェイン」です。

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You say you stand by your man
So tell me something I don't understand
You said you love me and that's a fact
And then you left me, said you felt trapped
Well, some things you can't explain away
But the heartache's in me 'til this day


You didn't stand by me
No, not at all
You didn't stand by me
No way


All the times when we were close
I'll remember these things the most
I see all my dreams come tumblin' down
I can't be happy without you around
So alone I keep the wolves at bay
And there's only one thing I can say


You didn't stand by me
No, not at all
You didn't stand by me
No way


You must explain
Why this must be
Did you lie
When you spoke to me?
Did you stand by me?
No, not at all


Now I got a job, but it don't pay
I need new clothes, I need somewhere to stay
But without all of these things I can do
But without your love, I won't make it through
But you don't understand my point of view
I suppose there's nothing I can do


You didn't stand by me
No, not at all
You didn't stand by me
No way


You must explain
Why this must be
Did you lie
When you spoke to me?
Did you stand by me?


Did you stand by me?
No, not at all
Did you stand by me?
No way
Did you stand by me?
No, not at all
Did you stand by me?
No way

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おまえは自分の男のそばにいると言う
なあ教えてくれよ、ちょっとわからないんだ
あまえはオレを愛していると言ったんだ、本当に 
だけどおまえは出て行った 罠にかけられた気分だとか言って
説明できないこともあるだろうけど
オレの心は今日もまだ痛むんだ


おまえはオレのそばにいなかった
そう、全然ね
おまえはオレのそばにいなかった
まったく


オレたちが一緒だったすべての時間
そんなことばかりオレは思い出すんだろうな
オレの夢が全部崩れ落ちるのを見てる
おまえがそばにいないと幸せになんてなれない
だから一人きりで飢えないようにするさ
そして、オレに言えることは一つだけ


おまえはオレのそばにいなかった
そう、全然ね
おまえはオレのそばにいなかった
まったく


説明しなきゃダメさ
なぜこうじゃなきゃいけないのか
嘘をついたのか
オレに話したとき、
おまえはそばにいたのか
いや、全然さ


仕事にもついたけど、金にならない
新しい服も必要だし、泊まるところも必要だ
だけど、そんなものなくてもなんとかするさ
だけど、おまえの愛がなけりゃ、やり遂げられないんだ
だけど、おまえはオレの考えをわかっちゃくれない
オレにできることはもう何もないんだろう


おまえはオレのそばにいなかった
そう、全然ね
おまえはオレのそばにいなかった
まったく


説明しなきゃダメさ
なぜこうじゃなきゃいけないのか
嘘をついたのか
オレに話したとき、
おまえはそばにいたのか

 

おまえはそばにいたのか
いや、全然さ
おまえはそばにいたのか
まったくさ
おまえはそばにいたのか
いや、全然さ
おまえはそばにいたのか
まったくさ

               (拙訳)

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 当時の日本のレコード会社の担当者の方もインタビューで語っていましたが、クラッシュはパンク・シーンの中で常に2番手で1番はセックス・ピストルズでした。

 ピストルズのアルバム「勝手にしやがれ!!」は、20世紀中には史上最高のアルバムランキングの企画があるといつもトップ10の上位にいたと記憶しています。

 しかし、21世紀に入ってパンクの時代が遠くなっていくとともにピストルズはそのインパクトを失ってゆき、逆にクラッシュの「ロンドン・コーリング」の作品の力が高く評価されるようになりました。

 

 2020年に”ローリング・ストーン”誌が発表した”史上最高のアルバム”では「ロンドン・コーリング」は16位になっています。2003年版と2012年版ではトップ10に入っていましたので少し順位は落としていますが、ロック史に残る傑作という地位を揺るぎないものにしています(「勝手にしやがれ」は回を追うごとにランクを下げ、今回は80位でした。ちなみにイギリスの音楽メディアでは二つのアルバムの評価はいい勝負、です)

 

 ただし、これはピストルズとクラッシュの立場が逆転した、ということではないと思います。

 勝手にしやがれ!!」がまさにパンクの象徴だったのに対し、「ロンドン・コーリング」はパンクという枠を超えた価値を見出されるようになっているからです。

 実際、当時のクラッシュのファンは「ロンドン・コーリング」を聴いて、こんなのパンクじゃない!と猛バッシングしたようなんですね。

 

 もちろん、彼らは当時のパンクというムーヴメントに全身全霊を賭けたわけですが、それ以前の時代のロックにも夢中になり没頭したキャリアがあったので、他のバンドよりも引き出しが多く音楽性が豊かだったんです。

 

 カリスマ性があり鋭い歌詞を書くジョー・ストラマーと、音楽性が広く意外にポップな感覚も持ち合わせていたミック・ジョーンズが、まるでジョン・レノンポール・マッカートニーのように、音楽的化学反応を起こしていた、というのもクラッシュの強みでした。

 

 さて、この「トレイン・イン・ヴェイン」は「ロンドン・コーリング」の1番最後に収められ、しかもジャケットには曲名が書かれていなかったため、シークレット・トラックとしてとらえられていました。

 しかし、全米23位と、彼らにとって初めてアメリカでチャートインにしただけじゃなく、ヒット曲になっています。

 シークレット・トラックをヒットさせるなんてカッコいいな、と当時僕は思ったのですが、アルバム・ジャケットに曲名が表記されなかったのは、本当はやむを得ない事情があったようです。

 「ロンドン・コーリング」のレコーディングが終わった後、イギリスの音楽雑誌NME(ニュー・ミュージカル・エクスプレス)の宣伝キャンペーンとして、彼らの新曲をソノシートにしてつける企画があったそうですが、ソノシートの制作費が高すぎたため、NMEの親会社からNGが出て中止になってしまったのです。しかし、なんとかファンに聴かせたいと考えたメンバーは急遽アルバム入れることにしたのですが、ジャケットの印刷には間に合わなかったというわけです。

 

  ちなみに、2004年のインタビューでミックは「「僕らは、『これはNMEで配るにはちょっと良すぎるから、やめておこう』と思ったのを覚えているよ」と、バンド側から断ったように匂わせています。真偽はわかりませんが、詞曲のほとんどをミックが書き、本人も気に入っていた曲であったのは間違いないようです。相方のジョー・ストラマーは、この曲にまったく興味がなかったそうです。

 ジョーが書いた、政治色の強く攻撃的なタイトル曲「ロンドン・コーリング」はイギリスの若者にアピールし、ミックが書き、ポップでかつR&Bやブルースの影響も感じさせる「トレイン・イン・ヴェイン」がアメリカの市場の起爆剤になった、という風に二人のそれぞれのキャラが際立つ曲が、アルバムを牽引したわけです。

 

 このメンバーの佇まい、いつ観てもカッコいいですね。「ロンドン・コーリング」

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 ちなみに「トレイン・イン・ヴェイン(Train In Vain)」というタイトルは、歌詞の内容とまったくマッチしなくて謎だったんのですが、ミックはこう語っていたそうです。

「バックの演奏が汽車のリズムみたいで、それから、迷子になったような感覚があったんだ」

 (FAR OUT) 

 僕の勝手な推測ですが、ロバート・ジョンソンに「むなしき愛(Love In Vain)」というストーンズもカバーした曲があって、歌詞にTrainが出てきて重要な役割を果たしているので、ミックはそれをくっつけちゃったんじゃないか、と思うんですが、どうでしょう。。

 

 さて、この曲のカバーを最後に。

アニー・レノックス。この曲のR&B感覚をよくひきだしています。

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 そして、ドワイト・ヨーカムのカントリー・ヴァージョン。これを聴くと、この曲がアメリカでウケた理由がよくわかるような気がします。

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