まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「はかない想い(Just My Imagination (Running Away with Me))」テンプテーションズ(1971)

 おはようございます。

 今日はテンプテーションズの「はかない想い」です。


Just My Imagination (Running Away With Me)

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Each day through my window
I watch her as she passes by
I say to myself
You're such a lucky guy
To have a girl like her
Is truly a dream come true
Out of all the fellas in the world
She belongs to you

But it was just my imagination
Runnin' away with me
Seems it was just my imagination
Runnin' away with me

Soon we'll be married
And raise a family, oh yeah
Have a cozy little house in the country
With two children maybe three
I tell you I can visualize it all
This couldn't be a dream, for too real it all seems

But it was just my imagination、once again
Runnin' away with me
Seems it was just my imagination
Runnin' away with me

Every night on my knees I pray
Dear Lord hear my plea
Don't ever let another take her away from me
For I would surely die
Her love is heavenly
When her arms enfold me I hear a tender rhapsody
But in reality, she doesn't even know me

Just my imagination、once again
Runnin' away with me
Tell you it was just my imagination
Runnin' away with me、、、

I never met her I can't forget her

Just my imagination
Runnin' away with me、、、

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来る日も来る日も 僕の家の窓から

彼女が通り過ぎるのを見つめる

僕はひとり言を言う

なんて僕は幸せな男だって

世界中の男の中で

あんな娘を彼女にできるなんて

本当に夢がかなったようなものだ

彼女はおまえのものなんだ

 

だけどそれはただの僕の空想

僕の中を駆け巡る

どうやら僕の空想みたいさ

抑えられないんだ

 

 

もうじき僕らは結婚する

そして家族を持つのさ

田舎に居心地のいい小さな家を建ててね
二人子供がたぶんそこにはいるのさ
僕には完璧に絵が浮かぶのさ

夢であるはずなんてない、全部があまりにリアルなんだ

だけどそれはただの僕の空想 今度もまた

僕の頭を駆け巡る

どうやら僕の空想みたいさ

抑えられないんだ

 

毎晩僕はひざまずいて祈る

神様僕の願いをどうか聞いてください

他のヤツが彼女を僕から奪わせないでください

でなければ、僕はきっと死んでしまいます

彼女の愛は天国のように素晴らしい

彼女の腕が僕を包む時 やさしいラプソディが聴こえてくる

だけど、現実は、彼女は僕の存在すら知らないんだ

ただの僕の空想 今度もまた

僕の頭を駆け巡る

それはただの僕の空想なんだよ

抑えられないんだ

ちゃんと会ったこともないのに、忘れられない

ただの僕の空想 抑えられないんだ、、、        (拙訳)

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”内省の時代”にぴったりハマった”妄想ラヴ・ソング”の最高峰

 

 妄想ラヴ・ソング史上(そんなカテゴリーはないですが)間違いなく最高傑作のひとつでしょう。平穏な妄想の中に、現実の切なさがそっと混じってくる、そのバランスが絶妙です。

 

 さて、この曲を歌っているテンプテーションズは中高年の洋楽ファンにはお馴染みwモータウンを代表する男性ボーカル・グループです。

 このブログでは「マイ・ガール」(1964)を以前とりあげました。

「マイ・ガール」はスモーキー・ロビンソンが、メンバーのデヴィッド・ラフィンの声の面白さにインスパイアされて、彼が歌うことを念頭に置きながら書かれた曲でした。

 

 それまでは、ファルセットが魅力のエディ・ケンドリックス、あともう一人ポール・ウィリアムスがメインで歌っていたのですが、「マイ・ガール」がきっかけで主役が代わることになってしまいました。

 その後エディがメインをとった曲もありましたが、ヒットしたのはほとんどデヴィドが歌ったものでした。

 

 しかし、デヴィッドが1968年にグループを脱退(解雇)、エディが主役の座に返り咲くかと思われましたが、代わりにグループに加入したデニス・エドワーズがメインのシングルを歌うようになります。デニスは男らしくエネルギッシュなボーカルで、エディとは正反対でした。

 

 1960年代後半はサイケデリック・ロックが流行し、R&Bサウンドもヘヴィーなものへと変わっていったタイミングで、テンプテーションズもそっちへと舵を切っていたので、きれいなデヴィッドの声より、ワイルドなデニスの声の方がフィットしていたんですね。

  社会性のある歌詞のついた曲を、デニスをメイン・ボーカルに、そこにエディのファルセットが絡むというのが彼らのスタイルになっていきました。

 

 1968年全米6位、「クラウド・ナイン」。”クラウド・ナイン”とはドラッグによってハイになっている状態のことをさすそうです。モータウンの社内会議でこの曲がヒットしないほうに手をあげたのは社長のベリー・ゴーディだけだったそうです。


Cloud Nine: The Temptations

 

 しかし、1971年のシングル「Ungena Za Ulimwengu」が不調に終わったことでその路線を見直す必要が生まれます。


Ungena Za Ulimwengu (Unite The World)

 

 そこで、次の候補として浮かび上がって来たのがこの「はかない想い」だったのです。

 テンプテーションズのプロデューサーはノーマン・ホイットフィールドで作詞家のバレット・ストロングと組んで彼らの曲もほとんど書いていました。

 キャッチーでポップなモータウンのヒット・ソングの多くを書いたソングライター・チーム”ホランド=ドジャー=ホランド”がモータウンを辞めてしまったあと、サイケデリックな時代の風潮に最も対応した曲を生み出しモータウンを救ったのが、ノーマンでした。

 「はかない想い」も1960年代後半に彼とバレットで書いた曲だったのですが、時代が合わないということでお蔵入りしていたものだったのです。

 

 激しい変動があった1960年代が終わり、この1971年頃というのは、音楽シーンも”内省的な”トーンに変わってゆきます。その代表が、キャロル・キングの「つづれおり」やジェイムス・テイラーでした。

 そういう時代の風潮と「はかない想い」のヒットも歩調を共にしていたように僕には思えます。

 そして、このヒットが、久しぶりにエディを主役の座に戻したのです。

 

  エディはのちのインタビューで、たくさんのテンプテーションズのファンは、グループがサイケデリックな方向に行ったあと間違っていると叫んでいて、元のソウル・サウンドに戻ることを求めていたんだ、と語っています。

 

 しかし、彼はこの頃すでに、グループをやめてソロになると心を決めていたのです。

 サイケデリック路線が不服だっただけじゃなく、デヴィッド・ラフィンと彼は仲が良くてデヴィッドがグループを解雇されたことに納得していなかったという話もあります。

 そして、彼はこの曲を最後にグループを脱退してしまいます。エディがメインをとった中での最大のヒット曲が、結局最後の曲になってしまったのです。

 

  「エドサリヴァン・ショー」でのパフォーマンス。華麗な振り付けが売りである彼らが、バラードとはいえ階段に座ったまま歌っているのが印象的です。

 

 この曲でギターを弾いている、ファンク・ブラザーズのエディ"チャンク"ウィリスはこの放送で、エディがメンバーから離れて座っているのを見て目が潤んでしまったと語っています。このときのエディは主役の位置ではなく孤立の位置にいたのだと、内実をよく知る人の目には映ったんですね。


The Temptations "Just My Imagination (Running Away With Me)" on The Ed Sullivan Show

 

 

 ローリングストーンズのカバー。「女たち」(1978)に収録。


Just My Imagination (Running Away With Me)

 

 

 

テンプテーションズと言ったらやっぱりこの曲。 

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モータウンの大ヒット曲

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