まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ドント・ルック・バック・イン・アンガー(Don't Look Back in Anger)」オアシス(1995)

 おはようございます。

 今日はオアシスの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」を。


Oasis - Don't Look Back In Anger (Official Video)

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Slip inside the eye of your mind
Don't you know you might find
A better place to play
You said that you'd never been
But all the things that you've seen
Will slowly fade away

So I start a revolution from my bed
'Cause you said the brains I had went to my head.
Step outside, summertime's in bloom
Stand up beside the fireplace
Take that look from off your face
You ain't ever gonna burn my heart out

And so Sally can wait, she knows it's too late as we're walking on by
Her soul slides away, but don't look back in anger I heard you say

Take me to the place where you go
Where nobody knows if it's night or day
But please don't put your life in the hands
Of a Rock n Roll band
Who'll throw it all away

I'm gonna start a revolution from my bed
'Cause you said the brains I had went to my head
Step outside 'cause summertime's in bloom
Stand up beside the fireplace
Take that look from off your face
'Cause you ain't ever gonna burn my heart out

So Sally can wait, she knows it's too late as she's walking on by
My soul slides away, but don't look back in anger I heard you say

So Sally can wait, she knows it's too late as we're walking on by
Her soul slides away, but don't look back in anger I heard you say

So Sally can wait
She knows it's too late as she's walking on by
My soul slides away
But don't look back in anger
Don't look back in anger
I heard you say

At least not today

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君の心の目の中に滑り込んでみるんだ

見つかるかもしれないぜ 
もっと楽しめる場所が

 

君は見たことがないって言ったけど

君が見てきたもの全部が

ゆっくり消えてゆくんだ

 

だからオレはベッドから革命を始めるよ

だって君はオレが自分の頭を過信してるって言うから

夏の盛りに外に出ろとか

暖炉の横に立てとか そんな表情するなとか

君はオレの心を燃やし尽くしてくれることはない

 

そしてサリーは待ってくれる 

二人で歩いてゆくにはもう手遅れだとわかっていても

彼女の魂は離れてゆく 

だけど、怒りをこめて振り返らないで 

彼女がそう言うのが聞こえたんだ

 

君の行く場所に連れて行ってくれ

誰も知らない場所へ 夜でも昼でもいいから

だけどロックンロール・バンドに人生を委ねちゃダメだ

ヤツらは全部投げ捨ててしまうよ

 

だからオレはベッドから革命を始めるよ

だって君はオレが自分の頭を過信してるって言うからさ

夏の盛りに外に出ろとか

暖炉の横に立てとか そんな表情するなとか

君はオレの心を燃やし尽くしてくれることはない

 

そしてサリーは待ってくれる 

二人で歩いてゆくにはもう手遅れだとわかっていても

彼女の魂は離れてゆく 

だけど、過ぎてしまったことに怒らないで

彼女がそう言うのが聞こえたんだ          

 

せめて 今日だけは             (拙訳)

 

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「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」の楽譜はこちら

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  この曲の中身には直接は関係ないですが、タイトルには(たぶん)間違いなく影響があると思われるものに「Look Back In Anger」というイギリスの戯曲があります。

 

 ジョン・オズボーンという作家が1956年に書いた作品で、イギリスの演劇で初めて下層階級の若者を扱い、主人公が社会格差や国に対して激しく怒りをぶちまけるという内容が大変な話題になり映画化も2度されています(2度目は「時計じかけのオレンジ」のマルコム・マクダウェルは主演)。

 ケネス・ブラナーエマ・トンプソンという名優が若い頃に舞台で演じたものをテレビ用に収録した作品もあるそうで、イギリスでは大変に有名な演劇のようです。

 日本では「怒りをこめて振り返れ」というタイトルで知られていて、最近では2017年に中村倫也が出演し新国立劇場で公演が行われていました。

 

 また、デヴィッド・ボウイが「Look Back In Anger」というタイトルの曲を1979年リリースのアルバム「ロジャー」に収録しています。


David Bowie - Look Back In Anger (Official Video)

 

 僕が何を言いたかったというと(苦笑)、オアシスが「Don't Look Back In Anger」をリリースしたとき、イギリス国民には「Look Back In Anger」というフレーズに馴染みがあったため、余計インパクトがあったのではないか、ということです。

 

   そして、ケンカや暴動のエピソードが絶えず、”Look Back In Anger"の主人公とキャラがかぶりそうなオアシスが、”Don't Look Back In Anger(怒りをこめて振り返るな)”と否定形にしたことがまたかえって効果的だったということもあったのではないでしょうか。

 

 また、このタイトルは聴く人にとって、より深い示唆をもたらすものになる、というエピソードがあります。

 

  2017年にイギリス・マンチェスターでのアリアナ・グランデのライヴ終了直後の自爆テロがあり、そのあとロンドン橋でも同様のテロが起こった時に開かれた追悼集会で、一人の女性がこの曲を歌い出し、会場全体で合唱になったというニュースが流れました。

 過ぎたことにいくら怒ってみても無為なことだし、報復という考え方では何の解決も望めないし、誰も幸せになれない、”Don't Look Back In Anger”という言葉に、深く普遍的な意味をその女性は見出し、他の人々も共感したんですね。

 

 

 さて、この「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」は、彼らのセカンドアルバム「モーニング・グローリー」からの4番目のシングルで通算10枚目のシングルでした。

 

 オアシスはご存知の通り、兄ノエル・ギャラガー(ギター、メイン・ソングライター)とボーカルの弟リアム・ギャラガーが中心となるバンドです。

 最初に音楽に興味を持ったのは兄ノエルのほうでしたが、彼がバンドのローディーとして働いている間に、それまで音楽にまったく興味のなかったリアムが突然バンドを組んで活動を始め、あとから、入れて欲しいと頭を下げてノエルが加わったのだそうです。

 そして、ソングライターとしてノエルが”覚醒”し始めると、どんどんバンドの主導権を握るようになっていきました。

   この曲を書いたときのことを彼はこう語っています。

 

「ある雨の夜にパリで書いたのを覚えているよ。 僕たちはストリップ・クラブで演奏したばかりで、僕らの出番が終わるとストリッパーが登場したんだ。僕たちは何ものでもない、取るに足らないちっぽけなバンドだった。ホテルの部屋に戻って書いたよ。そして"これを録音したら、かなりいい感じになるだろうな "と思った。あの夜この曲を人々が 葬式や結婚式で演奏するようになるって知っていたら 曲は完成しなかっただろうな。 プレッシャーが大きすぎるよ。」

                     (Esquire 2015 12月)

 

 また、この曲のインスピレーションのひとつがジョン・レノンです。

「So I start a revolution from my bed you said the brains I had went to my head.」

だからオレはベッドから革命を始めるよ だって君はオレが自分の頭を過信してるって言うから

 

 というラインは、ジョンが回想録用に録ったカセットテープに吹き込まれていた言葉で、彼が住んでいたダコタ・ハウスから盗まれていたものを、どういうわけかノエルが聞く機会があり、歌詞に使おうと思ったようです。

 

 歌詞に出てくる「サリー」は特定のモデルはなく、サウンドチェックの時にリアムが”So Sally can wait”と口ずさんでいて、これだと思ったとノエルは語っています。

 曲のコード進行ができていた状態だった彼は、そのフレーズに閃くと、楽屋に行き曲を一気に仕上げ”Don't Look Back in Anger"という言葉も、どこからともなく浮かんだのだそうです。

 そして、その晩のコンサートでいきなり披露したそうです。

 

 彼はこの曲に関して”自分に与えられたもの””どこか別の場所から来たもの”もしくは”すでにどこかにあった曲”だと思っていて、まだ誰も書いたことがないとしたら、ボノ(U2)が書いていてもおかしくないもの、だと語っています。

 

 これもまた、突然一気に書けた名曲のひとつ、ということなんでしょうね。

 

 

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 *この曲のジャケット・デザインは、リンゴ・スタービートルズの「ホワイト・アルバム」のレコーディング中にポールからごちゃごちゃ(?)文句をつけられたことを発端にバンドをやめると宣言し、メンバーの説得でまたレコーディングに戻った時に彼のドラムスが花いっぱいに飾られていた(ジョージ・ハリスンがやった説とジョージ・マーティンがやった説があります)というエピソードが元になっているそうで、白いピアノのほうはジョン・レノンをイメージしたのだそうです。

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