まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます

「会ったとたんに一目惚れ(To know him is to love him)」テディ・ベアーズ(1959)

 おはようございます。

 フィル・スペクターが16日にコロナ・ウィルス感染による合併症で亡くなりました。ですので、今日は彼の曲を選びました。まだ18歳の彼がメンバーだったグループ、テディ・ベアーズ。この邦題僕は大好きなんですが、「会ったとたんに一目惚れ」です。


The Teddy Bears - To Know Him Is To Love Him [The Perry Como Show 1958]

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To know, know, know him is to love, love, love him
Just to see him smile, makes my life worthwhile
To know, know, know him is to love, love, love him
And I do (and I do, and I, and I do, and I, and I do, and I, and I do, and I)

I'd be good to him, I'd bring love to him
Everyone says there'll come a day when I'll walk alongside of him
Yes, just to know him is to love, love, love him
And I do (and I do, and I, and I do, and I, and I do, and I, and I do, and I)

Why can't he see how blind can he be?
Someday he will see that he was meant for me, oh oh, yes

To know, know, know him is to love, love, love him
Just to see him smile, makes my life worthwhile
To know, know, know him is to love, love, love him
And I do, yes I do, yes I do (and I do, and I, and I do, and I, and I do, and I, and I do, and I)

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 彼を知るってことは 彼を愛するってこと

    彼が微笑むのを見ることだけで 私の生きがいになるの

 彼を知ったら 誰もが愛してしまうの

 だから私もそうなの、そうなの、そうなの、、

 

 彼にやさしくするわ 愛を届けてあげる

 みんな言うの 私が彼のすぐ横を歩く日が来るって

 そう、ただ彼を知るだけで 愛してしまう

 そして私もそうなの、そうなの、そうなの、、

 

 どうして彼は自分が何にも見えてないことに気づかないの?

 いつか彼だって 彼が私のために生まれてきたってわかるはず

 

 彼を知るってことは 彼を愛するってこと

    彼が微笑むのを見ることだけで 私の生きがいになるの

 彼を知ったら 誰もが愛してしまうの

 だから私もそうなの、そうなの、そうなの、、” (拙訳)

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  若いうちから野心に満ち溢れていたフィル・スペクターは、古くからの音楽仲間のマーシャル・リーヴスとともに、自主制作レコードを作ってレーベルに売り込み、デビューしようと考えていました。

 その費用を彼はカンパで集めたのですが、協力してくれたひとりに、フィルのガール・フレンドの友人、アネット・クレインバードがいました。彼女は彼らの練習によく立ち会っていましたが、お金のことを相談されると自分も仲間に入るという条件でそれにのったのだそうです。

 彼女同様、やはりカンパに協力したハーヴェイ・ゴールドスタインもメンバーになり四人組でスタートします。

 そしてレコーディングされたのが「Don't You Worry My Littel Pet」という曲でした。


Don't You Worry My Little Pet (Remastered)

 そして無事、エラ・レコードというレーベルと契約を結ぶことができました。

 

「Don't You Worry My Littel Pet」をシングルでリリースすることになり、グループ名を決めることになり、ハーヴェイが当時エルヴィス・プレスリーの「テディ・ベア」が大ヒットしていたので、テディ・ベアーズという名前を提案し、採用されました。

 

 そして「Don't You Worry My Littel Pet」のB面が必要になり、フィルが書き下ろしたのがこの「会ったとたんに一目惚れ」でした。

 ハーヴェイは徴兵回避のため予備校や基礎訓練キャンプに行くためグループを離れ、サンディ・ネルソンというドラマーを入れ、この曲をレコーディングします。

 

「Don't You Worry My Littel Pet」はまったくヒットしなかったのですが、あるラジオDJがB面のこの曲をオンエアしたことから状況が一転します。そして、レーベルも AB面を逆にして、このシングルを再リリースすると、チャートを駆け上ってゆき、なんと全米1位にまでのぼりつめました。

 

   この曲が大ヒットしたことについてメイン・ボーカルのアネットはこう語っています。 

「なによりもまず、あのころはバラードをやるなんてことは考えられなかった。「会ったとたんに一目惚れ」はガール・バラードの先駆けだったんです。ああいう曲が、女の子の、イノセントな白人っぽい声で歌われることなんてなかったから」

                 (「フィル・スペクター蘇る伝説」)

 ロックンロールが生まれる前は、ポップ・ミュージック界は”大人の世界”だったようです。大人向けか、大人が自分の子供に買ってあげるものしか作られていなかった。そこをロックンロールが変えたんですね。十代がユーザーになり、演奏者にもなっていった。いまは、音楽は若者がメインだと当たり前に思われていますが、ずっと昔からそうだったわけじゃないんですね。

 

「会ったとたんに一目惚れ」以前は、若いアーティストが歌うのはノリがいい曲ばかりですし、バラードは大人の女性シンガーが歌っていた、そんなところに、まだ18歳だったアネットがティーンらしい心情をのせたバラードを歌った、その斬新さが大ヒットに結びついたのかもしれません。

 

 そして、この曲はフィル・スペクターがアネットの声を際立たせる曲として書いたものでした。「Don't You Worry My Littel Pet」は全員が一緒にコーラスしている曲でしたが、男声と女声のパートが分かれた「Wonderful Lovable You」という曲をレコーディングしているときに、フィルはアネットの声に魅かれ、それが「会ったとたんに一目惚れ」を書かせることになりました。


Wonderful, Lovable You

 自分が主役としてバンドを結成した彼が、コーラスの女の子の声の魅力に気づいて、それが映える曲を書いた、というのはやがて大プロデューサーとなる彼のプロデュース感覚の萌芽だったと見ることができるんじゃないでしょうか。

 

 

 もう一つこの曲について触れておかなかればならないのは原題の「To Know Him Is To Love Him」というのは、フィル・スペクターの父親の墓碑に刻まれている言葉だったということです。

 彼の父親は鉄工所に勤めていて、フィルが10歳の時にいつものように仕事で家を出たあと、鉄工所のすぐそばで車を止め自殺をしてしまったそうです。そのことが、フィルのパーソナリティにも深く影響を及ぼすことになったようです。

 子供たちやまわりの人の目からは陽気で楽しいことの好きな人物と映っていた彼のことを表した言葉が「To Know Him Is To Love Him」だったのです。

 ある日、フィルが眠ろうとしたときに、夢うつつのなか自分が父親の墓碑のそばにいる映像とその墓碑の言葉が浮かんできたそうです、そして彼は起き上がってギターを手にしてこの曲を書いたと言われています。

 

 この曲は、父の死という彼の少年期の一番大きなトラウマを起因にして、彼のプロデューサー感覚の萌芽とも呼ぶべきものが動力となったという、彼にとってとても重要な曲だったんじゃないかと僕は考えています。

 

 さて、作品と作った人間の人間性は切り離して考えるべき、という意見には僕も同意するのですが、フィル・スペクター最後は殺人罪で収監されていたわけですから、切り離してとらえることが難しくもあります。ここまで、自分の経歴を台無しにするほど破滅してしまうと、嫌悪じゃなく哀しみのほうが強くなります。

 個人的なことですが、僕は大瀧詠一の「A LONG VACATION」、佐野元春「SOMEDAY」、ビリー・ジョエル「さよならハリウッド」、ブルース・スプリングスティーン「ハングリー・ハート」などからさかのぼってフィル・スペクターを知ったので、リアルタイムのファンではないのですが、数多ある「〜サウンド」の中で彼の作った”ウォール・オブ・サウンド”が一番好きでした。彼のサウンドを真似した曲までも集めていた時期もありました。

 あなたが最もポップスらしいと思う曲を1曲上げろと言われたら、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」を選びますし。

 そんな人が、獄中でコロナ・ウィルスで亡くなってしまう、というのは、本当になんとも言えない気分になります。

 

 

 さて、「会ったとたんに一目惚れ」は数多くカバーされていますのでいくつかご紹介します。

  まずはビートルズ。彼らのデビュー前のライヴ・レパートリーだったようで、デッカ・レコードのオーディション用に録音されたもの、とあと「Live At BBC」に収録されています。

 タイトルは男性が歌うので「To know her is to love her」に変えられています。


To Know Her Is To Love Her (Live At The BBC For "Pop Go The Beatles" / 6th August, 1963)

 ジョン・レノンがこの曲を好きだったんでしょうね。ビートルズの2ヴァージョンとも彼がリードを歌っていますし、ソロになってからも、アルバム「ロックンロール」セッションでレコーディングしています。しかしこちらは一度ボツになり、のちに「メンローヴ・アベニュー」に収録されました。プロデュースはフィル・スペクター本人。

www.youtube.com

 

 1965年にはピーター&ゴードンが「To Know You Is to Love You(邦題:つのる想い)」というタイトルにして全英5位のヒットにしています。


To Know You Is to Love You

 この曲の持つ特別な儚さを完全に汲みとったようなエイミー・ワインハウスのカバーが、僕はベストだと思います。


To Know Him Is To Love Him (Live)

 変わったところでは、ニッポン放送のパーソナリティ三人組”モコ・ビーバー・オリーブ”がカバーしています。こちらは「つのる想い」を採用しています。

「会ったとたんに一目惚れ」だと、女の子の切ない気持ちが、あらわせないですからね。


モコ・ビーバー・オリーブ つのる想い 1969 / To Know Him Is To Love Him

それでも、「会ったとたんに一目惚れ」って、語感もノリもいいフレーズだなあ、と惹かれてしまうんですよね(苦笑)

 

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