まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「スペイス・オディティ(Space Oddity)」デヴィッド・ボウイ(1969)

 おはようございます。

 今日はデヴィッド・ボウイの「スペイス・オディティ」です。


David Bowie – Space Oddity (Official Video)

 

 ”地上管制室から トム少佐へ 地上管制室から トム少佐へ

  プロテインを服用し ヘルメットを着用せよ

     地上管制室から トム少佐へ  (10,9,8,7,6)

  カウントダウン開始  エンジン始動(5,4,3,2)

   点火を確認せよ 神のご加護を (1,発進)

 

  地上管制室から トム少佐へ

  見事に成功したよ 

  それから記者たちが君がどんなシャツを着ているのか知りたいそうだ

  いま、やれそうなら カプセルから出るんだ

 

  こちらトム少佐  地上管制室へ

  ドアから外に踏み出したところだ

  すごく奇妙な感じに体が浮かんでいる

   星も今日は全然違って見える

 

      ここで 世界から遠く離れて

   僕はこのブリキ缶(みたいなカプセル)に座っている

   地球は青く 僕にできることは何もない

 

   10万マイルも超えてやってきたけど

      僕はすごく落ち着いた気分だ

   僕の宇宙船はどこへ行くかわかっている

   僕の妻に伝えて欲しい とても愛していると

 

    地上管制室から トム少佐へ

  回線がつながらない 何か故障しているようだ

  聞こえるか トム少佐 聞こえるか トム少佐 聞こえるか

 

  ここで僕はこのブリキ缶の周りを浮かんでいる 

  月から遠く離れた場所で 地球は青く

  僕にできることは何もない        ”(拙訳)

 

****************************************************************

Ground Control to Major Tom      Ground Control to Major Tom
Take your protein pills and put your helmet on

Ground Control to Major Tom (ten, nine, eight, seven, six)
Commencing countdown, engines on (five, four, three, two)
Check ignition and may God's love be with you (one, liftoff)

This is Ground Control to Major Tom
You've really made the grade
And the papers want to know whose shirts you wear
Now it's time to leave the capsule if you dare

"This is Major Tom to Ground Control
I'm stepping through the door
And I'm floating in a most peculiar way
And the stars look very different today

For here    Am I sitting in a tin can
Far above the world
Planet Earth is blue
And there's nothing I can do

Though I'm past one hundred thousand miles
I'm feeling very still
And I think my spaceship knows which way to go
Tell my wife I love her very much, she knows"

Ground Control to Major Tom
Your circuit's dead, there's something wrong
Can you hear me, Major Tom?
Can you hear me, Major Tom?
Can you hear me, Major Tom?
Can you hear

Here am I floating 'round a tin can
Far above the Moon
Planet Earth is blue
And there's nothing I can do" 

 

*********************************************************

 

 宇宙飛行士と管制室とのやりとりが歌詞になっている非常にユニークな楽曲で、これがデヴィッド・ボウイのはじめてのヒット曲になりました。

 彼は前年(1968)に公開された映画「2001年宇宙の旅」にインスパイアされてこの曲を作ったと言われています。「2001年宇宙の旅」の原題は「2001: A Space Odyssey」ですから、<Odyssey=長い冒険の旅、遍歴>をもじって<Oddity=変人、奇人>とつけたのでしょう。

 また、アポロ11号が月面着陸に成功する9日前という、世界中の視線が宇宙へと注がれているピーク時にこの曲は発売され、実際に英BBCのTVの特番でこの曲が使われたそうです。

 いわば”宇宙ブーム”にのっかって売れた曲だったわけです。実際この曲がヒットしたあと、彼は有名になるわけですが、人々から”トム少佐”とよく声をかけられたそうですから、”デヴィッド・ボウイという新しいスター”ではなく”宇宙飛行士のトム少佐の歌を歌っている人”という認識の方が強かったのでしょう。

 企画色の強いヒット曲は得てしてこういう偏見を生んでしまうものかもしれません。

 

 偏見を持ったのは大衆だけではなく、彼のプロデューサーのトニー・ヴィスコンティもそうでした。ボウイの才能を高く買いながらも「スペイス・オディティ」という曲だけは全くいいと思えなかったようで、アルバムの他の曲はプロデュースを引き受けたのにこの曲だけは拒否しました。本物の才能の持ち主であるボウイがやるには企画ものっぽすぎると思ったようです。そして代わりに彼がこの曲を任せたのが、ボウイのファースト・アルバムのエンジニアだったガス・ダッジョンです。

 ダッジョンはこの次の年からエルトン・ジョンと組んで大ヒットを飛ばす、プロデューサー/エンジニア。このブログでは「ベニーとジェッツ」の擬似ライヴ・サウンドを編み出した人として紹介しました。

popups.hatenablog.com

 最終的に、トニーはこの「スペース・オディティ」の仕上がりを絶賛しています。

歌のドラマの中に聴き手をひきこんでゆく演出が見事だと。ボウイとダッジョンは当時発売された小型電子楽器「スタイロフォン」やビートルズで有名な「メロトロン」のサウンドをこの曲で効果的に使っています。

 

 

 根本的に、この「スペイス・オディティ」はアポロ計画による世の中の宇宙開発ブーム に乗っかって一発当てようなどという曲ではありませんでした。月面着陸のタイミングでリリースしたのは単にレコード会社の戦略でした。

 

 ボウイ本人はこんな風に語っています。

「以前書いたどの曲よりも共感できた。社会的にも感情的にも安定しない自分の不安な心に訴えるものがあった。子供の頃から感じていた孤独感がはっきりと姿を表し始めた」

「映画「2001年宇宙の旅」の孤独感が「スペイス・オディティ」の曲作りに影響した。孤立主義として曲を書いていると初めて実感したんだ。そしてこう思った。”ぼくはトム少佐だ。独りで宇宙空間に浮かんでいる。命綱だけで宇宙船と繋がる感覚は誰にもわからないだろう”とね」

        (ドキュメンタリー「デヴィッド・ボウイ 最初の5年間」)

 

 ノベルティ・ソング、企画ものっぽいスタイルのなかで、実は彼は自分自身の根源的で深い孤独感を、歌の主役のトム少佐と重ね合わせていたのです。

 彼の意図を知ると、地球との交信が故障で途絶えてしまったことを知らないトム少佐がただ宇宙空間を漂っているというこの曲のエンディングが一層深く胸に響くような気がします。

 

 この楽曲の持つ本当の力は時間とともに浸透していき、リバイバル・ヒットを繰り返し、ロック史のなかでも重要な曲としてリスペクトされています。そしてそれとともに”トム少佐”も神格化されてゆき、その後のボウイの楽曲に何度か登場することになります。

 

  最後に、2013年にカナダ人宇宙飛行士クリス・ハドフィールドが、宇宙ステーションでこの曲を歌った映像をMV化したものを。この動画は現在再生回数が4765万回という驚くほど大きな反響を得ています。


Space Oddity