まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「アローン・アゲイン(Alone Again(Naturally))」ギルバート・オサリバン(1972)

 おはようございます。

今日はギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」です。


Gilbert O'Sullivan - Alone Again (Naturally)

 

In a little while from now
If I'm not feeling any less sour
I promise myself to treat myself
And visit a nearby tower
And climbing to the top
Will throw myself off
In an effort to
Make it clear to whoever
Wants to know what it's like When you're shattered

Left standing in the lurch at a church
Were people saying, My God, that's tough
She stood him up
No point in us remaining
We may as well go home
As I did on my own
Alone again, naturally
To think that only yesterday

I was cheerful, bright and gay
Looking forward to who wouldn't do
The role I was about to play
But as if to knock me down
Reality came around
And without so much as a mere touch
Cut me into little pieces
Leaving me to doubt
Talk about, God in His mercy

Oh, if he really does exist
Why did he desert me
In my hour of need
I truly am indeed
Alone again, naturally
It seems to me that
There are more hearts broken in the world
That can't be mended

Left unattended
What do we do
What do we do
Alone again, naturally
Looking back over the years
And whatever else that appears
I remember I cried when my father died
Never wishing to hide the tears

And at sixty-five years old
My mother, God rest her soul
Couldn't understand why the only man
She had ever loved had been taken
Leaving her to start
With a heart so badly broken
Despite encouragement from me

No words were ever
And when she passed away
I cried and cried all day
Alone again, naturally
Alone again, naturally 

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 ”もう少したっても 嫌な気分のままだったら

  自分にご褒美をやろうって 心に誓ったんだ

   近くの高い建物に行き てっぺんまでのぼって

     飛び降りるんだよ

   心を粉々にされるってどんなものか

   誰でもいいからわかってもらうためにね

      教会で見捨てられたまま 突っ立ていると

    みんな言うんだ  「ああ、なんてことだ」

   「あの娘が捨てたんだ」 「ここにいてもしょうがない」

   「帰ったほうがいいな」って 

     それで僕ひとりのせいみたいに

     またひとりぼっちになったんだ 自然にね

 

  昨日のことだけを思い返してみても

  僕は元気で、明るく、陽気なヤツだった

  僕がやろうとしている役は誰にもできないなんて

  楽しみにしていた

  だけど、僕を叩きのめすように

  現実がやってきた

  そして、触れもしないで

        僕を細かく切り刻んだんだ

  
  取り残された僕には疑いの気持ちしかなくて

     神のご慈悲のことを口にした

  ああ、神様がほんとうにいるなら

  どうして一番いてほしかった時に

  僕を見捨てたんだ ?って

        僕は嘘いつわりなくほんとうに

  またひとりになってしまったんだ それが当然みたいに

 

  世界にはもっとたくさん傷ついている人がいるように僕には思える

  癒されず 放って置かれて

  僕たちはどうすればいい どうすれば?

 

  またひとりぼっちになってしまった やっぱりね

 

  思い起こしてみると いろなことが浮かんでくるけど

     父さんが死んだときに 泣いたことを思い出す

  涙を隠したくもなかったんだ

 

  そして、65歳で母さんは安らかな眠りについた

  僕にはわからなかったよ 

     なぜ、母さんが愛したただ一人の男を神様は奪ってしまったのか

  ひどく傷ついた彼女を最初からやり直させるなんて

  僕がいくら励ましても 何ひとつ話さなかった

  そして母さんが亡くなったとき

  僕は一日中泣き続けた 

  またひとりぼっちになってしまった それが自然なことみたいに”  (拙訳)

   

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「アローン・アゲイン」の楽譜はこちら

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 結婚を楽しみにしていた男が当日花嫁からすっぽかされて、奈落に突き落とされたような気持ちのなか、いろんなことに思いを馳せてゆくという歌詞です。

 

 親しみやすく洗練されてポップな曲調に対して、歌詞がずいぶん暗く絶望的な感字でギャップがあるように思えますが、よく読んでみるとそこにちゃんと”心の流れ”が描かれていることがわかります。

 

 最初は自殺してやろうなんていう自暴自棄なところからはじまりますが、昨日の自分を客観的に思い出したり、世界中には傷ついている人はたくさんいるだとうと思ってみたりして、最後には夫を早く亡くして一人きりで頑張って生きてきた母親のことを思い起こすわけです。

 

 それは、絶望感の中にあっても、ゆっくりとしていてわずかではありますが、周りの状況や心の状態に対応し折り合いをつけ回復していこうとしている本能的な心の動きなんだと思います。

 

 タイトルにもなっているフレーズ ”Alone Again、Naturally ”(ひとりぼっちになってしまった、自然に)も、曲の最初の方では、<まるで自分のせいだからひとりになるのが当然だみたいに>といったやや自暴自棄なニュアンスを感じるのに対し、曲の終わりでは<誰もがみんな結局ひとりぼっちなんだから、それは自然なことなんだ>というニュアンスに変わって感じるような気が僕にはします。

 視野が少し広くなって、客観的になれているのです。

 

 それから、この歌の主人公は最後に、母親が死んで一日中泣いたことを思い出しますが、辛いことがあった時は大切な人のことを思い出して思いっきり泣く、それしかできないし、そこからなんとか立ち上がってゆくものかもしれない、などとも考えます。

 

 メロディだけでも相当素晴らしいのに、そこにこんな歌詞がのっているとは、やっぱりポップス史上でも屈指の名曲だなあ、と思いました。

 

    以前この曲にスポットをあてたTV番組でギルバート・オサリバンは、

 曲の作者がその曲の解説をするのにはがっかりさせられるし、解説が必要だということはその曲が完成していないということだから、一度リリースされたら、その曲は作者のものじゃなく聴き手のもの、大切なのは聴き手の解釈だけだ、というようなことを話していて、この曲の歌詞の内容については詳しく語っていませんでした。

 ただ、世間で言われているような”自伝的なもの”ではなく、あくまでも”作家的”に書いたと言っています。

 

 聴き手の勝手な解釈でいい、という彼のお言葉に甘えて言わせてもらうと、僕のこの曲のイメージは

 映画「卒業」でダスティン・ホフマンに花嫁を奪われた男が、実は「ライ麦畑でつかまえて」のホールデン・コールフィールドだったら、、、

 というものです。どうでもいいことですが、、、。

 

 

  彼の本名はレイモンド・エドワード・オサリバンで、彼の最初のマネージャーが

19世紀のイギリスの劇作家と作曲家のコンビ”ギルバートとオサリバン”をもじってつけた芸名が”ギルバート・オサリバン”でした。

 

 彼を売り出したのはゴードン・ミルズという人物。トム・ジョーンズとエンゲルベルト・フンパーディンクという当時の2大スーパースターをマネージメントしていました。トムとフンパーディンクはいわば”肉食系”のこってりしたシンガーですが、ギルバートはどこからどう見ても”草食系”、ずいぶん違って見えます。

 

 しかし、18世紀の小説の主人公の名前であるトム・ジョーンズ、19世紀のオペラの作曲家の名前であるエンゲルベルト・フンパーディンクと同様、古典が由来の芸名をつけているという、かなり特徴的な共通点がありました。

 

 それまで、ロンドンの郵便局で働いていて、夜の間しか曲作りができなかったギルバートを、ゴードンは仕事を辞めさせ自分の所有していたバンガローに住まわせて、曲作りに集中させたそうです。

 喜んで作曲に集中することができた時期に、この「アローン・アゲイン」も書かれています。本人にして見たら、いくつか書いた曲の一つに過ぎなかったようです。メロディーが出来てから歌詞を書きはじめ、アローン・アゲインという言葉は一番最後の段階になってやっと思いついたのだそうです。

 

 レコーディングは「アウト・オブ・クエスチョン」という曲と同時に行われたそうで、みんな「アローン・アゲイン」よりこっちが売れそうだと思ったそうです。


Gilbert O'Sullivan - Out Of The Question

 しかし、繰り返し聴くとどんどんその良さがわかったのかもしれません、最終的には「アローン・アゲイン」の方をシングルにすることになります。

 そして、ご存知の通り、永遠のスタンダードになったわけです。

 

 この曲は書いた本人のオリジナルが一番いい、という代表的なものだと思いますが、メロディーだけをみると結構スタンダード・ジャズっぽさもあって、そういう側面を感じ取れるという意味で、最後にサラ・ヴォーンのヴァージョンを。


Alone Again Naturally

 

 

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「アローン・アゲイン」の楽譜はこちら