おはようございます。
今日は今月(8月)にリリースされたばかりの日本の楽曲をピックアップしました。
Ayane Yamazakiの「魔法をおしえて」。
この曲に関するネットのニュースを見ると
”シティポップ80年代幻の名曲「魔法をおしえて」のカバー”
とだけありますが、この曲を聴いて多くのポップス・ファンが思い出すのは山下達郎の「THE THEME FROM BIG WAVE」だと思います。
Tatsuro Yamashita - THE THEME FROM BIG WAVE
サーフィンのドキュメンタリー映画「Big Wave」のテーマ曲であり、サウンド・トラックからの先行シングルとしてリリースされたものでした。
実はこの曲は、1983年1月にNHK-FMで放送された「山下達郎POPS講座」という特別番組内で作られた曲が元になっています。
これは、ポップスの新曲が創作され、録音され、完成する過程を実際に聴かせてるという試みで、作曲、アレンジが山下達郎、作詞が大貫妙子、シンガーが”新人”と想定された23歳くらいの大貫妙子という設定で行われています。
YouTubeにその番組の同録がアップされています。山下は大貫妙子の声が映える音域で曲を考えるのですが、結局大貫からは”山下君っぽい曲”と言われたりしています。
しかし、彼女のヴォーカル・スタイルや歌詞もあって、彼女らしさも十分に出ていると思います。
Taeko Ohnuki - Mahou wo Oshiete (1983)
この頃、彼女の音楽は達郎のような”アメリカン・ポップス”ではなく、ヨーロッパ路線を歩んでいたこともあって、リリースはされず、結局達郎自身が歌い直すことになりました。
しかし、山下のメロディを大貫が歌うのがシュガー・ベイブ以来、という貴重な音源ですから、シュガー・ベイブや彼女のファースト、セカンド・アルバムの延長線上にある曲として、今のCITYPOPファンはこの「魔法をおしえて」とらえているのかもしれません。
今回この曲をカバーしたAyane Yamazaki(山﨑彩音)は湘南出身のシンガー・ソングライター。2017年16歳のときにデビューしています。当初は弾き語りで内省的な歌を歌っていましたが、昨年辺りからシティ・ポップ風のスタイルに変わってきているようです。ただ、懐古的なシティ・ポップではなく「魔法をおしえて」のように、今風のミニマムな打ち込みサウンドでやっているところが特徴だと思います。
ネット記事によると、彼女のようなスタイルは「ニュー・ラウンジ」とか「new Tokyo city pop」などとも言われているようで、楽曲は海外のレーベルを通して配信され、クラブでもプレイされているそうです。
また、この曲は8月8日に行われた、シティ・ポップのアナログ盤を集めたフェア「CITY POP on VINYL 2020」の参加作品として、リリースされています。
彼女のカバーが”山下達郎、大貫妙子の幻の曲”などという謳い文句を今回使っていないのは、「魔法をおしえて」の成り立ちを当然知っているであろうコアな層に向けているからでしょうか?