おはようございます。
今日は浜田省吾、1977年リリースのアルバム・タイトル曲のリメイク・ヴァージョン。作詞は松本隆で、この曲一度きりの顔合わせです。
Shogo Hamada & The J.S. Inspirations 『Love Train』(Fan Club Concert 2018 / Short Version)
ミスチルあたりからでしょうか、ポップスというフォーマットで何らかのメッセージを歌うことがめずらしくなくなりましたが、昔は考えられないことでした。
メッセージを歌うのはフォークか一部のロックで、ポップスの歌詞はほぼほぼラヴ・ソングでした。ジャンルごとの棲み分けが明確にあって、その間には”見えない壁”がそびえ立っていた、そんな時代だったのです。
そういう時代の中で、浜田省吾は苦労を余儀なくされた人でした。
当時の日本は彼がやりたいようなスタイルのロックをやる市場はなく、ロック・バンドはパンク、ニューウェイヴかハード・ロックなど限られたものだけでした。
また、歌詞やボーカルの面ではフォーク、ロック寄りでありながら、メロディ・メイカーとしてはポップスやバラードのほうに秀でていて、本人の中で音楽的な資質がまだうまく噛み合っていませんでした。
当時は”このアーティストはこのジャンルの人”だと大衆がはっきりわからないと売れなかったので、どうしても方向性を絞り込む必要があったのです。
リアルなメッセージを吐いた、フォーク、ロック的なデビュー作「生まれたところを遠く離れて」が商業的に失敗していたので、スタッフ・サイドからの強い要請で”ポップス路線”へと大きく方向転換することになって作られたのが「LOVE TRAIN」というアルバムでした。
当時のスタッフが彼に阿久悠の「実践作詞講座」や「松本隆詩集」を渡して勉強するように言ったそうですが、結局松本隆本人に1曲依頼することになります。
松本は前の年(1976年)に太田裕美の「木綿のハンカチーフ」が大ヒットし、一躍注目されていたタイミングでした。
(「Love Train」の半年後には、松本は浜田の同郷(広島)の後輩である原田真二を手がけて大ヒットを連発します)
職業作詞家としてメジャー感のある作品にしたい松本と、浜田省吾らしい言葉を入れたいスタッフサイドでかなりせめぎ合いがあって、最終的には両者ともに満足するものにはならなかったようです。
結局アルバム「LOVE TRAIN」はセールス的に成功せず、その後も彼は”売れること”を命題に迷走してゆくことになりました。
そして、彼は1980年のアルバム「Home Bound」からロック路線を踏み出し、ライヴを重ねていくことでステイタスを築いていったわけですが、「Love Train」以降のポップス路線のアルバム4作は長い間ほとんど”存在しなかったかのような”ものになっていました。バラードなどほんの一部の曲以外はライヴでは演奏されなかったのです。
本人としては割り切れない思いがあったのでしょう、この時期のアルバムを”スタッフのために作ったような作品”だと語っていたこともありました。
しかし、1997年のアルバム「初夏の頃」で”ポップス期”の曲をリメイクし、彼はその”封印”を解きます。
とはいっても自身が歌詞を書いていない曲は取り上げられることは(たぶん)ほぼなかったのですが、2018年、1970年代のレパートリーに限定したファンクラブ向けコンサートを実施するにあたりこの「Love Train」をリメイクすることになりました。
あらためてポップでいい曲だなあ、と僕はポップスのソングライターとしての彼の才能を再認識しました。長〜い(!)時間をかけて、ついに彼は自分の音楽的な資質を完全に一つに調和させることができたのだと僕は思いました。
1977年というと、大瀧詠一は「ナイアガラ・カレンダー」、山下達郎は「SPACY」をリリースしています。両方とも今でこそ再評価されているアルバムですが、リアルタイムでは全く売れていません。
日本のポップスがまだ黎明期で、売れる”雛形”のようなものすらなかった時代でした。
ユーミンは売れ始めていましたが、男性シンガーではポップスで売れている人は誰もおらず、井上陽水がかろうじてポップな要素を持っていたくらいです。
アルバム「Love Train」を聴き直すと、ポップスのアルバムとしての明確なゴールがないまま作った感じがしてしまうのは、仕方ないことだったのかもしれません。
ちなみに「Love Train」のアレンジを全曲手がけた”Edison(エジソン)”は、当時井上陽水のツアー・メンバーもやっていた売れっ子ミュージシャンでしたが、アレンジャーとしてのその後の彼の代表作は秋川雅史の「千の川になって」で、他もクラシックや劇版などをメインにやっていますので、決して”ポップス”に造詣のある人ではなかったわけです。
(とはいえ、当時ポップスをアレンジ、プロデュースできたのは、細野晴臣、大瀧詠一、加藤和彦くらいですから、彼らと浜省の組み合わせはあまり想像できません。鈴木茂はひょっとしたらありだったかも、などと個人的には思いますが、、)
そういった迷走の結果、彼の初期のレパートリーは、詞曲はいいけどアレンジは見直す余地あり、というものが多く残ることになりました。
彼には自作のリメイクものが多いというのも、根拠があるんですね。
彼の硬質なロックやバラードだけじゃなく、ポップ・ナンバーの魅力ももっと評価されてほしいなあと僕は思っています。
Shogo Hamada & The J.S. Inspirations 『Good Night Angel』(Fan Club Concert 2018 / Short Version)