まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「太陽はもう輝かない(The Sun Ain't Gonna Shine Anymore)」ザ・ウォーカー・ブラザーズ(1966)

 おはようございます。

 今日はウォーカー・ブラザーズの「太陽はもう輝かない」。昨日登場したダスティ・スプリングフィールドと同じプロデューサー(ジョニー・フランツ)とアレンジャー(アイヴァー・レイモンド)が手がけて大ヒットしたグループです。

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Loneliness is a cloak you wear
A deep shade of blue
Is always there


The sun ain't gonna shine anymore
The moon ain't gonna rise in the sky
The tears are always cloudin' your eyes
When you're without love
Baby


Emptiness is a place you're in
With nothin' to lose
But no more to win


The sun ain't gonna shine anymore
The moon ain't gonna rise in the sky
The tears are always cloudin' your eyes
When you're without love


Lonely without you, baby
Girl, I need you
I can't go on

 

The sun ain't gonna shine anymore
The moon ain't gonna rise in the sky
The tears are always cloudin' your eyes
The sun ain't gonna shine anymore
When you're without love
Baby

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孤独は君がまとう外套
深く濃い青色が
いつもそこにある


太陽はもう輝かない
月が空に昇ることはない
涙はいつも君の目を曇らせる
愛がないときはそうさ
ベイビー


空虚は君のいる場所
失うものは何もないけど
もう勝つこともない

太陽はもう輝かない
月が空に昇ることはない
涙はいつも君の目を曇らせる
愛がないときはそうさ

 

君がいないと寂しい、ベイビー
ガール、君が必要なんだ
やっていけない

 

太陽はもう輝かない
月が空に昇ることはないんだ
涙はいつもあなたの目を曇らせている
太陽はもう輝かない
愛がなければ
ベイビー

         (拙訳)

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 フィル・スペクター風のサウンドで歌う”イギリスのライチャス・ブラザーズ”というイメージを僕は持っていましたが、実は彼らはアメリカ人で、グループを組んでから成功するためにアメリカからイギリスに渡った人たちです。

 

 また、彼らの場合ライチャス・ブラザーズのようにデュオじゃなく、ドラマーがいるところが特徴ですね。ただし、血縁者じゃないのに、ブラザーズ、と名乗っているところは一緒です。

 ただし、"ライチャス(Rightous)"は”正当な”という意味で、白人ながらソウルフルな歌を歌うことから黒人客から”義兄弟”と認められたという逸話から名付けられましたが、

 ”ウォーカー”のほうは、メンバーの一人ジョン・マウスが本名であるドイツ人系の苗字”マウス(MOUS)”に抵抗があって17歳のときにジョン・ウォーカーと自ら名乗り始めたことがきっかけになっています。

 

 ちなみに1959年から60年にかけてジョン・ウォーカーはフィル・スペクターの隣りの部屋に住んでいて、ミュージシャン同士ということで交流もあったそうです。

  ジョンはベースのノエル・スコット・エンゲル(のちにスコット・ウォーカーと名乗ります)とドラマーのアル・シュナイダーの3人で”ウォーカー・ブラザーズ・トリオ”を結成しますが、ジョンとスコットのデュオとしてレコード契約を得たタイミングで”ウォーカー・ブラザーズ”に変更します。

 

 そして1965年に「Pretty Girls Everywhere」という曲でデビューします。


The Walker Brothers - Pretty Girls Everywhere (Jan 20, 1965)

 この曲はユージン・チャイルドというR&Bシンガーのカバーで、昨年(2019)ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースもカバーしていました。

 

 しかし、ウォーカー・ブラザーズのヴァージョンはヒットしませんでした。この時期に彼らはゲイリー・リーズ(後にメンバーとなり、ゲイリー・ウォーカーと名乗ります)というドラマーと出会います。イギリスをツアーで回っていたゲイリーは、彼らの音楽はイギリスの方が絶対にウケる!と確信して、彼らを説得します。

 そして、イギリスのレコード会社にアプローチすると、彼らに大変興味を持ったのがダスティ・スプリングフィールドのプロデューサーのジョニー・フランツでした。

 その頃、彼らは「Pretty Girl Everywhere」の次の曲をすでにアメリカでレコーディングし終えていました。それは、エヴェリー・ブラザーズ(こちらは本当の兄弟)のカバーで「Love Her」という曲でした。作詞作曲は「ふられた気持ち」を書いたバリー・マン&シンシア・ワイル。アレンジはフィル・スペクターのアレンジャー、ジャック・ニッチェという布陣でした。

 ”フィル・スペクター風”のサウンドで一世を風靡した彼らですが、実際に本物にかなり近いスタイルのレコーディングを経験していたことは特筆すべきことでしょう。

 この曲とデビューシングルのプロデューサーのニック・ヴェネットはビーチ・ボーイズの最初の二枚のアルバムや、グレン・キャンベルなどのプロデューサーだった人ですから、当然フィル・スペクターの人脈とも繋がりがあったはずです。


The Walker Brothers - Love Her -1965

 そしてこの曲がイギリスでヒットすると、プロデューサーのジョニー・フランツは自身が手がけたダスティ・スプリングフィールドの”ヒットの方程式”を彼らの当てはめます。

 曲はバート・バカラック&ハル・デヴィッド、アレンジはアイヴァー・レイモンド、という布陣です。そしてこれが功を奏して全英1位の大ヒットになります。 


The Walker Brothers - Make It Easy On Yourself

 ”スペクター・サウンドバカラック”がここで聴くことができるわけです。本家スペクターがバカラックとやったら、サウンド的なカタルシスを追い求めるフィルと、ナイーヴで複雑なニュアンスを大事にするバカラックは、うまく折り合わなかったんじゃないかと僕は考えます。あくまでもスペクター”風”だったから、曲に合わせていろんな調整をし柔軟に対応できた、だからこそうまくいったんじゃないでしょうか。

 

 当然、バカラックの曲の中から”スペクター風”サウンドにアレンジしやすい、という観点からこの曲がセレクトされた可能性も高いように僕は思います。

 

 ちなみに、この曲のアレンジャーのアイヴァー・レイモンドは、ダスティ・スプリングフィールドの「二人だけのデート」の次のシングル「ステイ・アワイル」で、すでに”フィル・スペクター風”アレンジにチャレンジしています。


Stay Awhile

 アイヴァーがウォーカー・ブラザーズのアレンジをするとき、実際にジャック・ニッチェのレコーディングを経験しているウォーカーたちに、何らかの助言やアドバイスをもらったということはあったのか?興味深いところです。

 それはともかく、彼らはこの後「マイ・シップ・イズ・カミング・イン」という同じ系統のサウンドの曲をヒットさせ、そして、その次にリリースされたのがこの「太陽はもう輝かない」でした。

 この曲は、実はオリジナルがフランキー・ヴァリなんです。

  曲を書いたのも「君の瞳に恋してる」「シェリー」をはじめとするフランキー・ヴァリ&ザ・フォーシーズンズのほとんどのヒット曲を書いたボブ・クルーとボブ・ゴーディオ。 1965年にヴァリのソロ名義でシングル・リリースされています。


The Sun Ain't Gonna Shine (Anymore) - Frankie Valli

 すでに、スペクター風のアレンジがなされていますね。このアレンジを手がけたのは、フォーシーズンズのヒット曲の多くを手がけたチャーリー(チャールズ)・カレロ。山下達郎の「CIRCUS TOWN」のA面も手がけていましたね。

 

 ヴァリの翌年に制作されたウォーカー・ブラザーズのカバーは全英1位、全米でも彼らの最高となる13位まであがる大ヒットになりました。

   フィル・スペクター関連で言うと、1967年に彼らは本家スペクターもの、ロネッツのカバーでバリー・マン&シンシア・ワイル作の「恋の雨音(Walking In The Rain)」をシングル発売しています。(アレンジはレグ・ゲスト)


ザ・ウォーカー・ブラザーズ/ウォーキン・イン・ザ・レインWalkin' In The Rain (1967年)

 当時彼らは日本でも大変な人気だったらしく、1968年にビートルズに次いで2組目となる武道館公演を実施しています。その模様は「In Japan」というアルバムで聴くことができますが、確かにかなり凄まじいお客さんの歓声です。

 

「ダンス天国」

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  最後にこの曲のカバーを。フィル・スペクターのレコーディングでバック・コーラスをやっていたというシェールが1996年にカバーしています。プロデュースはバグルス、イエスを大ヒットさせたトレヴァー・ホーン

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