おはようございます。
今日はエルヴィン・ビショップの「愛に狂って」。
ブルース・ロックのギタリストとして名高い人ですが、一曲だけポップスとクロスオーバーした大ヒットがあります。それがこの曲です。
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”数えきれないくらいの女とつきあったよ
みんな愛したけど 結局捨てちまった
彼女たちがどれほど泣いたかなんて知ったことじゃない
涙はオレを石のように冷たくしてしまったけど
だけどまた、 遊び戯れて恋に落ちたんだ 遊びのつもりが恋に落ちたんだ
好きな娘ができると 本を取り出して彼女の名前を書いたものさ
ああ、だけど、他の娘がもっとかわいく見えてしまうと
そのページを破り捨ててしまうのさ
遊び戯れて恋に落ちたんだ お前に出会ってから
遊びのつもりが恋に落ちたんだ
自由に、自分流に それが俺のやり方だった
だけど、おまえに出会ってから
愛に支配されてしまっているのさ
愛が俺をとらえて離さない
もうおまえから離れられないんだ
遊び戯れて恋に落ちたんだ そうさ、俺は
遊んだあげく恋に落ちたんだ、、、”
(拙訳)
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古き良き時代の女好き(?)、の歌ですね。
「愛に狂って」だと正気をなくすほどの激しい愛、というイメージがするので歌詞に忠実にするなら「女に狂って」のほうが近いですが、そんな放題だと今度は曲の良さが台無しになってしまいますね(苦笑。
エルヴィン・ビショップはブルース/ロック・ギタリスト、ヴォーカリスト。カリフォルニア州で生まれましたが、10歳でオクラホマ州タルサに引っ越し、そこでブルースに夢中になり、ミュージシャンを目指しました。
バターフィールズ・ブルースバンドに参加したのち、1968年にエルヴィン・ビショップ・グループを結成しました。
そして、1975年に全米3位まで上がる大ヒットになったのがこの「愛に狂って」でした。
こちらTVのライヴ・ショーと思われる動画
さて、上の動画のフロント4人のうち左端のギタリストがエルヴィン。右端にメイン・ボーカルがいるというのも不思議な並びですが、彼はそれまでエルヴィンのバック・コーラスだった人で、この曲でメインに抜擢されたのです。彼がミッキー・トーマス。この曲で一躍知られることになります。
エルヴィンは自ら歌も歌って、「イースト・ウエスト」(バターフィールド・ブルース・バンド)「フィルモアの奇蹟」(マイク・ブルームフィールド、アル・クーパー)などブルース・ロックの名盤と呼ばれる作品でも渋く味のある歌を披露しています。
「フィルモアの奇蹟」(1969)から「ノー・モア・ロンリー・ナイツ (寂しい夜はいらない)」。マイク・ブルームフィールドの代役の一人としてエルヴィンが参加しギターとヴォーカルを披露しています。
この「愛に狂って」は、彼が自身のアルバム「ストラッティン(Struttin' My Stuff )」のレコーディングが終わりかかったころ、プロデューサーのビル・シムジク(後にイーグルス「呪われた夜」「ホテル・カリフォルニア」を手掛ける人です)から「あともう1曲ほしいんだけど、何かない?」と訊かれて、エルヴィンが聴かせたのがこの曲だったそうです。
もともと出来あがっていたのですが、自分の声が曲に合ってなくて、他にも何人か歌わせたけどうまくいかなかったのだそうです。
それで、彼はもう一度自分で歌ってみたのですがしっくりかなかったので、自分のバンドでコーラスをやっていたミックに歌わせようと提案したそうです。
もともとミックはゴスペルを歌っていたのを、エルヴィンが引っ張って来たらしく、素晴らしくよく通る声の持ち主でした。彼に歌わせると見事にハマり、大ヒット曲になりました。
エルヴィンはこう語っています。
「僕の声はすごく平たんで、ブルースには向いているんだ。それが僕にとって良かったんだけどね。それがソングライティングを強化してくれた。声自体に特別な魅力を持たない僕のような声で、人々のイマジネーションをしっかりつかむためには、歌に素晴しいストーリーや言葉を考えなくてはいけないからね」
そういえば、ブルース・スプリングスティーンが、自分はロッド・スチュアートやヴァン・モリソンのようなすごいボーカリストじゃないから、ソングライティングもギターも全部がんばらなくてはいけなかった、と語っていたことを思い出します。
たしかに、例えば日本でも声に圧倒的な魅力がある山下達郎や小田和正の書く歌詞はオーソドックスでストレートですし、逆にユーミンや椎名林檎がもしすごく声量のあるボーカリストだったら、彼女たちの書く歌詞はあそこまで細部にこだわったものにはならなかったのではないか、と僕は思っています。
話が飛躍してしまったので、、、もとに戻します、
「愛に狂って」はあっという間に出てきた曲なんだそうです。考える必要がないほど最初から出来上がっていて、人生が自分の中から搾り取ったのか、一持的に宇宙の流れとコネクトできたのか、どういうことなのかはわからない、とエルヴィンは語っています。
しかし、そんな天啓のような曲が自分の声に合わない、というのも皮肉なものです。長くソングライティングを続けているとそういうことがあるんですね。
この後、1979年にミッキー・トーマスは、マーティ・バリンとグレイス・スリックがいなくなったジェファーソン・スターシップのボーカリストとして招かれますが、ジェファーソンのライヴでもこの曲は演奏していたようです。