おはようございます。
今日は1970年代の歌謡曲から、CITY POPの名曲とも言われているこの曲を。
1975年を起点に、日本の流行歌は洋楽的になり、都会的に洗練された方向へ進んでいきます。今振り返ると、70年代後半の邦楽が最も洋楽っぽかったように僕は思います。
さて、西城秀樹、郷ひろみとともに”新御三家”と呼ばれた野口五郎は演歌でデビューし、抒情的なレパートリーを得意として歌ってきました。しかし、本来三人の中で最も洋楽に詳しく、プロ級のギタリストでもあった彼は、シーンの洋楽志向の流れに乗っていきます。
また、デビュー2作目「青いリンゴ」から、彼の作品で最も多く作曲家として関わっていたのが筒美京平でした。筒美は最新の洋楽を誰よりも早く上手く歌謡曲に取り入れる術に非常に長けた人でしたので、野口と歩調が合わせるように、より洋楽的な作風に変えていきました。
筒美は”歌謡曲の代名詞”ともいえる存在ですが、音楽家としての本質は、圧倒的に垢抜けて上品な作風の、当時としては大変レアな才能だったと僕はとらえています。
ですから、当時の歌謡界でも、ナイーヴな情感を表現をしながらリズム感にも優れていた野口は、筒美との相性がぴったりだったんじゃないでしょうか。
筒美作品は膨大にありますが、その中でも”男性歌手”としては、野口がNO.1だと思います。
さて、70年代の野口のように、80年代に筒美京平の「ドラマティック・レイン」「夏のクラクション」といった都会的な作風とぴったりフィットしたのが稲垣潤一です。実は稲垣は、この「グッド・ラック」をカバーしています。2005年の「Unchained Melody」という筒美作品を集めた企画アルバムに収録されています。少しテンポを落としたR&B的なトラックにアレンジされています。
僕が注目したいのは、坂本慎太郎のカバー。彼はゆらゆら帝国解散後2010年代前半は、ややCITY POPよりのサウンドもやっていましたが、それにしてもこれはちょっと意表を突かれた選曲です。仕上がりは完全に坂本慎太郎の世界になっていますが。
(1970年代のリズム・ボックスを使ったR&B(ティミー・トーマスなど)のムードがあります)
shintaro sakamoto feat. kamome children's choir - good luck
稲垣、坂本ともにオリジナルよりテンポが下がっているのは偶然ではないんでしょう。オリジナルの持つ、流麗なリズム感はあの時代特有のものでしたから、21世紀にはフィットしない。
それと加えるなら、男女の別れの間際に男がカッコつける、という歌詞の世界観も、今では死に絶えていますね。
”男は心にひびく汽笛に嘘はつけない 行かせてくれよ”
なんてくだりに今だにぐっときてしまう僕は、それだけ年を取っているという証拠でしょう。
普通、男女の別れで部屋を出てゆくのは男の方ですが、それを逆転させたのが、この曲の前年の大ヒット曲沢田研二の「勝手にしやがれ」(寝たふりしてる間に出て行ってくれ〜♪)でした。「グッド・ラック」の歌詞を書いた山川啓介は「勝手にしやがれ」を意識したんでしょうか?また、男が部屋を出てゆくパターンに戻しています。でも、ただ設定を戻しただけじゃなく、別れの歌につきものの”重たくて湿った空気”を吹き払った、そこがこの曲の新しさでもあり、この時代らしい世界観だったのだと思います。